夫(英国人)の実家に

遊びに行ったときの話です。


エジンバラからロンドン行きの

特急電車に乗って

ヨークシャーを目指した我々ですが、

その車中でパーティーを開催している

酔っ払いどもと乗り合わせまして。


あまりにうるさいので

他の車両に移動しようとも考えたのですが

こういうときに限って

電車が混んでいる、という。


車両のど真ん中に席を占め

ビールとワインとハードリカーを持ち込み

ついでにCDプレイヤーまでセットして

奴らめ、傍若無人の大騒ぎぶりです。

どうやらニューキャッスルで開かれる

親戚の結婚式に出席する一団らしいのですが

・・・君ら、教会に行く前から

そこまで出来上がって大丈夫なのか・・・?


夫は一度トイレに行きたくて

車両を横切ったのですが、

いい具合にトラになった彼らに

「ちょっと!ちょっと一杯

飲んでいきなさいよ!遠慮するなあー!

袖触れ合うも他生の縁!」

と行く手を阻まれ大変だったそうです。


席に戻ってきた夫は暗い目つきで

「あの人たち、完全に正体をなくしていますよ」

「昼間からいいご身分だな」

「しかも周囲の人に

誰彼構わずお酒を勧めているものだから

この車両の酔っ払い比率現在

とても高いことになっていると思われます」

「パブでもなかなか見ない盛り上がり方だな」

「・・・すみません、同国人として

僕が代わりに謝罪します・・・

日本じゃこんな恥ずかしい真似を

昼間からする人はいないですよね・・・」

「お酒を飲んで騒ぐ人はたくさんいるがな、

電車の中でここまで盛り上がっちゃう集団は

確かに日本ではなかなか珍しくはあるよな」


騒音に耐えること約2時間、

次の停車駅はニューキャッスルです、

との車内放送を合図に

下車準備を始める酔っ払いたち。


私と夫は出入り口に近い

車両の隅に座っておりまして

「ちょっと飲み過ぎちゃったわー!」

「今夜はこのまま朝まで飲もうぜ!」

とか盛り上がる連中を

さりげなく冷ややかな目で眺めておりましたら、

その酩酊集団のうちのひとり、

ドレッシーなースーツにきちんと化粧をし

普通にしていたら颯爽とした美人で通るであろう

残念な妙齢女性(完全にぐでんぐでん状態)が

突然我々のほうに向き直り

「ちょっと!この電車、今、動いてる、停まってる?」


一瞬、ここは無視すべきだな、と思ったものの

妙齢女性が泣きそうな顔で

「どうしよう!停まってる?

なんで停まっているのに駅に降りられないのっ?」

「・・・いや・・・これから駅に

電車が入るところですよ、大丈夫です」

「え?じゃあ電車はまだ動いてるの?

・・・ねえ、次の駅はどこ?

もしかしてもうニューキャッスルは過ぎちゃった?」


お前・・・本気で飲み過ぎているだろう・・・


「いえ、大丈夫、これからニューキャッスルです」

「あ、そーなの!よかったよかった!」


何がよかったのかは知りませんが

妙齢女性は何故かそのまま私の隣に腰を下ろし

なれなれしく私の肩にもたれかかり

「ねえ、ところで私、どこで降りるの?

「・・・知りませんよ」

「どうして!どうして知らないの!

降りる駅がわからなかったら困るじゃないの!

しっかりしてよおー!」


ちょっと待て、

そこで殴られる理由は私にはない。


「ニューキャッスルじゃないんですか、

他のお仲間も降りる準備をしているじゃないですか」

「ほら、知っているんじゃない!

どうして知らないとか言うのよ!もうー!」


だから私を殴るな!


そのうち妙齢女性は

自分の荷物が気になったのか

私と夫が新聞を広げていたテーブルの上に

どかっと勢いよく巨大な皮の鞄を載せ・・・

あの、私の右手が鞄の下敷きになっていますが・・・

それ以前に新聞がぐちゃぐちゃになりましたが・・・

仕方ない、酔っ払いに何を言ってもはじまるまい。


「ウフフ。貴方達も

ニューキャッスルで降りるの?」

「いいえ、降りません」

「どうして?降りましょうよ。

ニューキャッスルはいいところよ!」

「いや、でも他に用事もありますから」

「・・・ちょっと待って。

ねえ、貴方のボーイフレンド、

ロバート・デ・ニーロ(注)に似ていない?」


貴方は何を言いだすんですか・・・


「そうですかね?」

「そうよ!嫌だ、そっくりよ!

貴方、気がつかないわけ?

駄目よ、似ているわよ!キャー!

皆さーん、ここにデ・ニーロがいるわー!」

「まあまあ、お静かに」

「あんた何すましてんのよ!

ちょっと!(と、酔っ払い仲間の袖を引き)

この彼女のボーイ・フレンド、

ロバート・デ・ニーロに似ていない?

デ・ニーロの若いときに!

ああー、もうこいつ、くそったれなくらい

若い頃のデ・ニーロにそっくりよおー

(He looks like fxxkin' young Robert De Niro)!」


向かいの席で

夫は静かに頭を抱えていました・・・


しかもこの妙齢女性、

電車がニューキャッスルに着いて

他のお仲間が駅に降りても

私の隣から動こうとしない。


「あの・・・貴方、ここで

降りないといけないんじゃないですか」

「どうして私を降ろしたがるのよ。

彼氏がロバート・デ・ニーロだからって

いい気になってるんじゃないわよ」

「でもニューキャッスルですよ」

「ニューキャッスルがどうしたのよ!

私たちが今話しているのは

デ・ニーロについででしょ!」

「他の人たちが駅のホームから

貴方のことを呼んでいますよ!」

「・・・え。嫌だ、もう、早く言ってよ!

降り損なったらどうしてくれんのよ!」


そして嵐のように

彼女は下車して行ったのでした・・・


酔っ払い集団が消えた後の車両は

たいへんに静かでした・・・

ニューキャッスルから乗ってきた人たちは

「・・・この電車、ものすごくお酒臭い・・・」

と口々に呟いておりましたが。


「いや・・・妻、君、災難でしたね」

「あそこまでの酔っ払いには久々に絡まれたよ」

「ずいぶんぶたれていたみたいですけど

痛いところはないですか?僕も何度か

間に割って入ろうかと思ったんですが、

あそこまでアレな人を

余計刺激するのはどうかと思いまして」

「君の気持ちはわかっていたから大丈夫だ」


あとからふと眺めたら

車両中央のテーブル二組分が

お酒の瓶とグラスで埋まっていました、

あいつら本当に車内でどれだけ飲んだんだ。


皆様もどうか

酔っ払いの集団にはお気をつけください。



(注) 

夫が「ロバート・デ・ニーロに似ている」

との酩酊女性の発言についてですが

彼女は実はあそこで

まったく違う俳優の名前を口走っておりました

いえね、私の夫は時々

某俳優に似ていると指摘されるのですよ



で、何故俳優の名前を差し替えたかというと

最近・・・夫が『身バレ』を警戒しておりまして


「僕に本当に似ている俳優の名前を

そこでそのまま書いちゃうと、

僕が誰なのか

わかる人はわかっちゃうじゃないですか!


・・・そんなことはきっとない、と

妻としては確信しているんですけどね!

夫の気持ちに配慮して

ここではロバート・デ・ニーロでお願いします


ちなみに酔っ払い女性が

駅に降りて行ったあと

私が真っ先にしたのは

わがお財布の確認でした


だってありえないくらい

身を摺り寄せてくるんですもの、

介抱ドロの逆パターンかと


・・・私もいい具合に根性が悪いですよね

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