ちなみに私は

甥(妹の息子、1歳4ヵ月)に

キスをしたことがありません。


不動明王的炎の母性に目覚めた妹が

甥の虫歯予防に余念がないんです

(虫歯菌はキスで感染するらしい)。

私も一応

すべての虫歯は治療済みなんですが

万が一が怖くてですね・・・


あと、甥の将来を慮ると

それってどうだろう、という思いが拭えず。

思春期になった頃に

「お前は柴犬サイズだったころ

Norizo伯母さんににキスされまくっていたぞ!」

とか周囲に言われたら

どんなに真面目な子でも

不良化しちゃうと思うんです。


で、キスといえば。


私が夫(英国人)と婚約していた頃のこと。


ある日夕食が終わったあとも

だらだらと手酌で

ビールを飲んでおりましたら、

その姿を当時存命だった祖母に見咎められ

「貴方はどうして毎晩そう飲むの!」

「飲むといっても

たかが缶ビール1本じゃないですか」

「でもお酒はお酒でしょ!みっともない!」


祖母としても

本気で私を叱責しているのではなく

暇だったので孫で遊びたいだけ、というのは

長い付き合いですぐわかったのですが、

こちらもいい感じに

酔いが脳に回っていてですね。

言い訳をするのも面倒くさいなあ、と思った私は

そのまま祖母の肩を掴むと

「愛い奴じゃ、見逃せ見逃せ!」

(何故か戦国武将風)と

その頬に吸い付いたのでした。


・・・私は本当に何を考えていたのだろう・・・


まあわが捨て身の攻撃は

目論見どおり

祖母にかなりの衝撃を与えたらしく

祖母は呆然と目を見開きながら

「あっ・・・貴方・・・なんてことを・・・!」

「ウフフ、親愛の情の表現です、

ほら私、外国人と婚約してしまったもので」

「・・・まさか外ではこんなことしてないでしょうね!」

「何をおっしゃいますやら、

好きな人にしかやりませんよ!キャー!

お祖母様、大好きー!」


酔っ払いの相手などしても

消耗するのは自分のほうという

真理に気がついた祖母は

再び黙って後片付けを続けていたのですが

お皿を運んでいた手をふと止めると

「ちょっと貴方。貴方・・・

ああいうこと、あの英国人ともしているの?」


祖母よ、それはどういう質問ですか。


「あの・・・一応、あの英国人は

私の婚約者だったりしますので・・・

年内に結婚などもする予定でございますので・・・」

「ああ、そうね。もっと熱烈なのをしているわけね」


思わぬ祖母の反撃に慌てる私。


祖母はそんなこちらの動揺には気づかぬ顔で

しばし思案をした後に突然

「ねえ、ところで貴方のあの英国人、

貴方に向かって『愛してる』とか言うの?」


・・・祖母よ、いきなり何ですか?


「いえね、外国の人だからね、

そういうことを言うのかなあ、と思って・・・」

「それは・・・それは言いますよ、

お祖母様、我々婚約期間中ですよ?

そりゃ先方だって

甘言蜜語を弄するに決まっているでしょう」

「あら、そういうもの?」

「そりゃそうですよ、

国籍には関係ない兵法の常道ですよ」


「・・・あら・・・でもね、私はね、

貴方のお祖父様に

そういうことを言ってもらったことがないのよ」

「えっ・・・そうなんですか?」

「そうなのよ・・・ね、どう思う?

あの人、私の事を愛していると思う?


孫に訊くなよそういうことを!


しかしよく考えれば

祖父は大正生まれの元陸軍将校、

当時の気風を考えたら

日本男児としてそういうことは

絶対に口にしなかっただろうしなあ。


しかもわが祖父と祖母は

恋愛結婚じゃないんですよね、

政略結婚・・・と言ったら

言い過ぎかもしれないんですが・・・

家のために籍を入れた、みたいなところが

実はあったりするんですよ。


そうか・・・祖母にしてみたら

長い間人知れず

そんなことを悩んでいたのかもしれないな・・・

一緒に暮らしている孫として

祖母の気持ちはよくわかっていたつもりだったが

やはり人の心というのは

当人以外には謎なんだなあ・・・

でもここで下手に同情するのは失礼だよな!


「祖母よ、こう言っては何ですが、貴方、

お祖父様との間にお子様を

ぽこぽこお産みじゃないですか。

にもかかわらず

まだそんな些細なことをお悩みですか」

「だって私は

『愛してる』とか言われてないもん」

「言われてないもん、とか

可愛い口真似をしたって駄目です!

どう見たって愛されているでしょ、貴方は!」

「そうかしら」

「そうですよ!貴方は幸せ者ですよ!」


しかしこの会話以降

私は祖母に少し同情していたのでした。


そうか・・・この人

夫に愛されている自信がないまま

ずっと生きてきていたのか・・・!

みたいな感じで。


孫としては祖父に対して

義憤を抱きかねない心境でしたよ。

祖父だってもう長年

祖母と連れ添っているんですから

「愛している」と何かの折に

口にしてあげたらよかったんですよ!

そんなこと、その気になったら簡単でしょ!もう!


しかし衝撃の事実

その数日後に明らかになったのです。


家族全員で食事をしていたそのとき、

どういう話の流れでそんなことになったのか

『毎晩祖母は

祖父にお風呂に入れてもらっている』ことが

何の前触れもなく発覚しまして。


思わずビールが鼻に入った私と

(ええ、当時は毎晩飲んでいたんです)

完全に箸が止まったわが両親。


「ちょっ・・・何ですって?

お祖父様がお祖母様をお風呂に入れてあげているの?

お祖母様がお祖父様のお背中を流しているんではなく?

その逆なの?」


動転した我々の追及に祖父は慌てず騒がず堂々と

「ばあさんは最近足元がふらついているからな。

ひとりで風呂場に行かせたら危ないだろ」


・・・わが祖父は格好いいなあ・・・!


というか祖母!

貴方、大和撫子の末裔としてそれはどうなのっ!

いや、それ以前に、

毎晩そんな取り扱いをご亭主から受けていて

よくもまあしゃあしゃあと

愛されているか自信がない、みたいなことを

孫に対して言えたものだなっ!


憤懣やるかたない形相の私を

ちらりと眺めた祖母は涼しい顔で

「あら、だって男の人は

仕事がないとすぐボケるのよ。

ボケられちゃったら嫌だから、私はわざと

『お風呂に入れさせてあげている』の」


そのときの私の気持ち、

皆様ご理解いただけますでしょうか。


当時の憤りが胸にぶり返して来ましたので

今宵はここまでにさせていただきとうございます。



「夫がどうしてもって言うから

毎晩お風呂に私を入れさせてあげているのよ」

とか私も米寿過ぎに言いたいものです

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目標まであと約50年



・・・何をどう努力したら

あの境地にたどり着けるのか・・・