ここ数ヵ月の間

腹痛を訴えていたわが夫(英国人)。


週末にその痛みが

かつてないほど激しくなったので

医療電話サービスに連絡したら

「あ、それは

今すぐ生死に関わる症状じゃないですよ、

ご安心ください。

ただ、週が明けたら、すぐに

かかりつけの医師の診断を受けてください」


そうですか、わかりました、と

月曜日、病院にあらためて電話をすると

「えーと貴方の専属のドクターは

今週は忙しくてね、そうね、

木曜日の予約でいいですか?」


さすが英国・・・!


なんとか交渉し

「月曜日の午後にかかりつけの医師と

電話で話をする」権利を獲得し、

で、医師との話し合いの結果

「火曜日の朝イチで診察しましょう」

ということに。


「それまでは痛みが来たら

痛み止めを飲んで我慢してね、だそうです」

「なあ・・・君の国の医療に

文句をつける気はないんだが・・・

本当に大丈夫なんだろうな、君」

「我慢できないほどの痛みが来たら

遠慮せず救急病院に連絡しなさい、

ということでした。

連絡しないで済むといいですね」


本当ですね!


しかし月曜日の夜にベッドに入った夫は

思いのほか柔和な表情でして

「うーん、かすかな痛みはありますけど

痛み止めが必要ってほどでもないです、

もしかしたらこのまま治るかも」


ではおやすみなさい、と

眠りについて数時間後、午前3時。


何度か寝返りを打っていた夫が

ため息とともに起き上がったので

「・・・どうしました」

「起こしちゃった?ごめん・・・

僕、痛み止めを飲むことにします」


眠りを妨げるほどの痛みが来たらしい。


鎮痛剤を飲んで効果を待つこと30分。


「妻・・・僕が救急病院に

連絡を入れたら嫌ですか

「馬鹿な気を回すな、さっさと電話しようぜ」


病院の受付に電話をし

折り返しの連絡を待つこと約10分。


「夜間診療医の予約が取れたそうです」

「そうか、じゃあタクシーを呼ぼうな」

「え?僕は自転車で行くつもりでしたが?」

「・・・君はそれで問題ないとしてだ、

付き添う私の身にもなってくれ


ということでタクシー会社に電話。


「10分くらいで車が来るらしいですよー」

「・・・なあ、なんだか君、

だんだん調子が上向いてきていないか?」

「そうなんですよ、歩き回っていたら

痛みが軽減してきました。

薬が効いてきたんでしょうか?

あ、ところで妻、ちゃんと病院には

本を持っていきましょうね、

どれだけ待たされるか

わかったもんじゃないですから」


タクシーで病院に到着。


待合室は閑散としておりまして。

というか我々がその夜

唯一の急患のようでして。


いくつか簡易検査をしたあと

夫の痛みもその時点では

ほとんど消えてしまっていたということもあり

「今日はこのまま帰ってもらってですね、

で、4時間後にかかりつけ医師との

予約が入っているんでしょ?

そこで詳しい検査をすることになるでしょう


「わかりました、お手数おかけしました」

「いえいえ、仕事ですから・・・

ところで質問がもうひとつあるんですが、

貴方のその鞄には何が入っているんですか?


夫は書類鞄を持っていたんですよ。


「・・・え?あ、これですか?

はい、中身はです」

「・・・本?それはまた何のために?」

「先程問診でお伝えしたように

去年僕は南米で1週間ほど入院しまして。

そこで退院許可を待つ間の焦燥感を経験しまして。

過去から学ぶものは常にあると言いますが、

僕はあの時、病院に行くなら本は必須

ということを肝に銘じたのです」


ああ、ドクター、そんな表情をしないでください。

私も妻として夫には

「あの経験から学ぶべきことは

もっと他にもあるだろう」って

突っ込みたくてたまらないんですから。


というわけで

病院からの帰路は徒歩でしたよ!

春とはいえ午前5時の街は寒かったぜ!

ええ、夫の回復力の強さには脱帽ですわ!


ところで病院の待合室に

風刺漫画が貼ってあったんですが、それが

「カエルの足のスペシャルソテーが

評判のフランス料理店に

両足を失って車椅子に乗ったカエルと

片足を失って松葉杖をついたカエルの

集団が食事にやってくる」という内容で・・・


日本の救急病棟に

こんな漫画が貼ってあったら

まず間違いなく大問題になると思うんですが。

英国人のこういう

病んだユーモアのセンス許容量って

他国人の追随を許さないものがありますよね。


だってあれですよ、救急病棟ですよ。

交通事故で足を切断しかけたような患者が

ぞろぞろいるのが日常の場所ですよ。

患者達はこれを見て笑うのだろうか・・・

笑うんだろうな・・・


私は英国のそういう

歪んだタフネス、嫌いじゃないです。


ま、夫には

もう少し今後は弱音を吐く方針で、

の精神をお願いしたいわけですが。


なおかかりつけの医師に

診断を受けた結果、夫の病気は

それほど深刻じゃないことが判明しました。

よかったよかった。

でも痛みはしばらく続くらしいので

私は今後よりいっそう

夫に優しくしたいと思います。



ああ、長くなってしまいました

申し訳ありません

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夫はどうも痛みに強いらしいんですよ


やつは数年前に鎖骨を骨折したんですが

担ぎ込まれた病院で担当医に

「どれくらい痛みがありますか?」

と訊かれ

「え、痛みはまったくないです」


医師は顔色を変え

神経系統の破損を疑ったらしいのですが

ドクター、すみません、

そいつは単に鈍いだけなんです・・・!


それである程度のリミッターを振り切ると

途端に弱体化し動けなくなる、という

気丈なんだか傍迷惑なんだが

私にはよくわかりません