映画『バトル・ロワイアル』公開当時、
わが夫(英国人)は
私とまだ婚約もしていない
状況ではあったものの、
今後への布石として
積極的に日本文化を知ろうとしていました。
そんなわけで彼はついうっかり
映画館に足を向けてしまったのです
(英語字幕つきのをスコットランドで観たらしい)。
映画鑑賞後に
私に国際電話をかけてきた
夫の声は動揺しまくっておりました。
「何あの映画?何あのストーリー?
監督は精神的に病んだ人なの?
つかあの映画が大ヒットした
日本はいったいどんな国なのっ?」
私は原作小説を読んだ時点で
「・・・ふーん」
という感じだったので、
映画を観ようとも思わなかったのですが、
どうなんですかね、現代日本人として
一度は見ておくべき内容なのでしょうか。
でも同じ深作作品なら
私は『県警対組織暴力』を
先に観たいと思ってしまうのです。
ともかく
映画『バトル・ロワイアル』について夫は
「本当に最悪。
僕にとっては人生最低映画」
まで言っておりまして
(しかしこれはこれで
監督に対する賛辞のような気もする)、
私としてもあえて話題にのぼらせることもなく
夫と交流していたわけですが、
そんなある日我々は京都に旅行に行きました。
金閣寺、銀閣寺、清水寺に嵐山と
こう書くとまるで修学旅行な観光ぶりですが
それはそれで楽しかったのです。
そして嵐山で事件は起こりました。
たしか天龍寺だったと思うのですが
そこのお庭を散策しておりましたら
突然女子中学生(たぶん)の集団が
夫めがけて押し寄せてきまして口々に
「フォトグラフプリーズ!」
「違うよピクチャーだよ!」
「あっそうか!ピクチャー・・・
撮ってください、は何だっけ?」
「テイクアピクチャーだよ!」
「テイクアピクチャープリーズ!」
「イエース!テイクアピクチャープリーズ!」
カメラのシャッターを押して欲しい、
ということだったのですが、
それにしてもあれは何だったんだ、
学校のほうで
「写真はなるべく外国の人に
撮ってもらうよう頼みましょう」
とでも指導していたのでしょうか。
ともかく夫と私で手分けして
十数個のカメラで順次写真を撮り
「サンキューベリマーッチ!」
と叫ぶ彼女達とお別れし・・・
ふと気がつくと夫が青い顔をしています。
「あら、どうしたの、気分悪い?
冷えちゃった?喫茶店かどこかで休む?」
「・・・ううん、大丈夫。ただちょっとね・・・」
夫は少し口ごもった後
「ただちょっと、
制服を着た子供の集団を見たら、
『バトル・ロワイアル』を思い出して
気持ちが悪くなっちゃったんだ」
・・・君は・・・
女子中高生数十人に
駆け寄られ取り囲まれるなんて
一部の殿方にしてみたら
「お金を払ってでも実現したい」
夢であるというのに
(私の認識も病んでいるかしら)
そこで吐き気を催しますか・・・
この『バトル・ロワイアル』症候群
もしくは後遺症はいまだ完治しておらず、
夫は今も時々心の準備なしに
日本の制服姿の学生集団を見ると
あわてて目をそらします。