祖父との電話。

ある日

「今日はローストチキンというご馳走

(あえて自画自賛の欧米的修辞法)を作ります。

ローストチキンとはすなわち、トリの丸焼きです」

と言った私に対し、祖父が

「丸焼きってことはお前、ただ火で焼くだけだろう。

そんなん馬鹿でも作れるだろう、ご馳走じゃないぞ」

とからかってきたことがありました。

齢90を超えたご老体にしては なかなかいい切りかえし。

笑いながら電話を切ったその翌日。

いつものように天気の話から会話を始めようとしたら

祖父が私の声をさえぎり

「いや、その前に。

昨日、俺、丸焼きなんて誰でも作れる、

ご馳走じゃないって言ったろう。

でもよく聞いたら、それはご馳走だってな。

作るの大変なんだってな。

だから、悪かったな、ごめんな!」

後から母に聞いたら、

前日の私と祖父の電話ごしの会話を

ヘルパーさんやらお見舞い客やらが聞いていて、

電話が切れた後 口々に

「あらーあんなこと言ったら

お孫さんがかわいそうですよー」

とか祖父に言ったらしいのです。

ともあれ、

前の日の電話を切ってから約24時間

「あいつから電話がかかってきたら

まず最初に謝ってやらなくちゃ」

と思っていてくれたその祖父の心意気

私は思わず涙ぐみそうになり

「いいんですお祖父様!

実際丸焼きなんて

肉を買ってきて塩コショウして

あとオーブンで2時間ばかり焼いたら

出来上がるもんなんですから!」

「でも聞いたら、

トリのお腹の中に詰め物とかするんだろう?」

「詰め物はそれこそ

お湯を入れて3分間でできあがるような

インスタント詰め物を使ったんです!

だから本当に馬鹿でもできるクッキングなんです!」

「インスタント?

それはお前・・・手抜きってことか?」

・・・しまった。

掘らなくていい墓穴を掘ってしまった。

ともあれ、こっちのスーパーの精肉売り場には

丸焼き用のトリだの羊や豚のカタマリ肉だのが

ごろんごろんと並んでいます。

おもしろがって週一回のペースで

オーブンロースト料理を作っていたら

すっかり「得意料理=丸焼き系」になってしまいました。

・・・何か目指す方向を間違えた気がします。