『孫子の盲点 ~信玄はなぜ敗れたか?~』の感想、レビュー | ScorpionsUFOMSGのブログ

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『孫子の盲点 ~信玄はなぜ敗れたか?~』の感想、レビュー(Scorpionsさんの書評)【本が好き!】 http://www.honzuki.jp/book/241704/review/161476/
 
『戦国ファンでなくても問題なし!内容はルトワック、読みやすさは銀河英雄伝説の画期的“孫子”本』
 
正直、それほど戦国時代は詳しくないのですが、これは面白かったです!
今まで、孫子本はそれなりに読んできたつもりでしたが、今までにない「孫子」本であることは疑いようもないです。
  
▼内容はルトワック級!(むしろ純粋に「孫子の限界」を指摘したのは本書だけかも?)
「孫子」に関する書籍は古来より数限りなく存在し、現在も新刊が続々と出版されていますが、いずれも「孫子は最高の戦略書である」「孫子に習え」と言ったものが“ほとんど全て”と言って過言ではないと思います。
 
その傾向は日本のみならず、“一線級”の欧米の戦略家が記した著書においても同様で皆、口をそろえて「“孫子”はクラウゼヴィッツの“戦争論”と並ぶ最上級の戦略論だ」と言います。(例えばコリン・グレイ「現代の戦略」、J・C・ワイリー「戦略論の原点」、サミュエル・B・グリフィス「孫子 戦争の技術」など)
 
欧米のトップクラスの戦略家の中であって唯一“孫子の限界”を指摘している人物は“世界三大戦略家”の1人、エドワード・ルトワック氏ぐらいしかいないのではないでしょうか。
 
とはいえ、ルトワック氏が著書「自滅する中国」で指摘するような“孫子の限界”とは、「同一文化圏内では有効だが、国際社会のような異文化間においては必ずしも有効とは言えない」というもので、どちらかというと“孫子という戦略思想そのものが有する欠点”というより“孫子にはその戦略効果が有効となるフィールドに制約がある”という指摘だと言えます。
一方、本書で海上知明先生が指摘する“孫子の限界”はまさに“孫子という戦略思想そのものが有する欠点”です。
 
個人的には、「孫子」を国家戦略の基本方針と捉えるならば、本書で指摘されている“限界”は一概に欠点と言い切れない面もあるように思えますが、それでも「孫子の戦略そのものに疑問を呈す」ということ自体、他に類を見ないことであり、また指摘されている“限界”が「孫子」を“深く理解し”たうえでないと指摘できない事柄であることがさらに本書の価値を高めているのではないでしょうか。
 
▼“信玄VS謙信”は“ロイエンタールVSラインハルト”?!
もうひとつ、本書の特徴を挙げるとすれば超有名SF小説「銀河英雄伝説」を彷彿とさせる、その”語り口”ではないでしょうか。
 
銀河英雄伝説自体が「後世の歴史家による記述」という“歴史小説”に近い体裁をとっているので、似ていても不思議ではないのかもしれませんが、本書でも“信玄VS謙信”を象徴する出来事として描かれている“川中島の戦い”は銀河英雄伝説における“神々の黄昏(ラグナロック)作戦”を想起させます。
 
そして信玄と謙信、各々を銀河英雄伝説の主要キャラに見立てたならば、
 
信玄は“帝国軍の双璧”ことオスカー・フォン・ロイエンタール
謙信は“戦争の天才”、“常勝の英雄”ことラインハルト・フォン・ローエングラム
に置き換えることができるように思います。

 

ロイエンタールとラインハルトは主従関係(ラインハルトが皇帝、ロイエンタールは主要提督の一人)にあり、物語終盤でロイエンタールが謀反を起こすとは言え、結局ロイエンタールとラインハルトが直接相まみえることはありませんでした。
 
『もし、ロイエンタールがもう一人の“帝国軍の双璧”ミッターマイヤーを打ち破り、ラインハルトに挑むような展開になっていたら、どうなっていたのだろうか。“川中島の戦い”のよう戦いが繰り広げられていたのだろうか』と思わずにはいられませんでした。
 
『孫子』と『銀河英雄伝説』という私の好きなものを二つも同時に満足させてくれるという意味で大満足の一冊でした。
おススメです!