
現在、福井さんが出しているオリジナル小説ではこの本が最新刊です。福井さんの作品は2005年に立て続けに映像化されましたが、この本は映像化は不可能と言われています。福井さんの作品としては史上最大のスケールで描かれているからで、実際刊行から5年が経っても映像化の話は全く聞こえていません。
あの時、僕たちは共に暮らし、同じ言葉を分けあった。そして、共に一人の女性を愛した。でも、それはいとも簡単に崩れ去った…。
都心でネット財閥「アクトグループ」を狙った連続爆弾テロ事件が発生する。警視庁公安部の刑事・並河はひょんなことから警視庁と防衛庁の特別合同捜査本部に加わることになる。そこで並河が組まされたのは防衛庁から出向してきた丹原朋希だった。捜査を進めていくうち、並河は丹原とローズダストと名乗るテロリストたち、そのリーダー・入江一功の深い因縁を知ることになる。
かつて、共に防衛庁情報局(DAIS)に所属していた彼らは北朝鮮に対するオペレーションに従事していた。しかしオペレーションは失敗、作戦要員は“処理”の対象になり、数名が死亡してしまったのである。そして、彼らはそれを許したこの国の“状況”を変えるために復讐を始めたのだった。
彼ら“ローズダスト”が最終ターゲットに選んだのは東京、臨海副都心。現代日本の象徴とも言える未来型都市を舞台に、この国の“状況”を変える壮絶な祭儀の幕が上がる。
福井さんは全く期待を裏切りません。私がこの本を読むのは4回目になりますが、何度読んでもストーリーに引き込まれてしまいます。
福井さんの作品では主人公が中年男と若者のコンビである場合が多いのですが、この本では新たな展開を盛り込んでいます。従来のコンビパターンを踏襲しつつも、10代の若者たちの心を映し出しています。このストーリーがかなり良い味を出しています。
さらに興味深いのはこれまでの作品では謎に包まれていた情報機関・DAISの工作員養成の過程が描かれている点です。『川の深さは』の増村保、『Twelve Y.O』の辻井護、『亡国のイージス』の如月行たちが受けてきたであろう訓練の様子が描かれているのです。作り込まれた訓練の様子には本当は日本にはこんな組織があるのではないかと錯覚を受けるほどです。
そしてこれまでは“陰”の事件でしたが、今回は完全に“陽”の事件となっています。どういうことかと言うと、これまでの福井さんの現代長編3作で起こる事件は多くの場合国民には全く知らされていませんでした。しかしこの作品では臨海副都心で起こる大規模なテロ事件を描いています。作中では誰もが知る忘れられない事件として国民全体に知られることになるのです。
10000人以上が生活する臨海副都心が文字通り戦場となる下巻は圧巻の一言です。誰もが知るフジテレビやメディアージュ、センタープロムナード、東京ビッグサイトなどがテロに巻き込まれていく姿は私たちもテロとは無縁では無いと言うことを教えてくれます。
絶対に読んで損はないと思います。皆さんも是非読んでみてください。



