HEROに反論する⑥ | 空気を読まずに生きる

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弁護士 趙 誠峰(第二東京弁護士会・Kollectアーツ法律事務所)の情報発信。

裁判員、刑事司法、ロースクールなどを事務所の意向に関係なく語る。https://kollect-arts.jp/

気がついたら3週間くらいあいてしまいましたが・・・
今回は第9話より。”チームvsチームを反則だという人たち"

第9話では、5人の共犯者に対して、城西支部の検事たちがチームとして取り組み、最終的に主犯を追い込むストーリーだった。
その中で、最後に主犯だった椎名を取り調べる際、他の共犯者の学生達が自白する状況について事務官達がパソコンのチャットで情報交換しながら椎名を追い込んでいった。
このようなやり方、いかにもフィクションっぽいけど、決してそうではない。

このような共犯事件の場合、1人の検察官が共犯者全員の取り調べを担当する場合もあるが、複数の検察官が共犯者の取り調べを分担することはよくある。
そして、複数の共犯者を同時に取り調べ、その状況をリアルタイムに情報交換することは日常茶飯事である。
そして、被疑者に対してこう言うのである。
「今あいつは自白したぞ、おまえもしゃべれ」
と。

事務官のパソコンにチャット画面を立ち上げることはさすがにない(のかもしれない)が、やっていることは一緒である。

共犯者と一緒に疑いをかけられ、事実について黙秘をしたり、違う言い分を述べてがんばっていた人が、その取り調べの最中に
「今あいつは自白したぞ」
と言われれば、精神的にとても動揺する。これは当たり前だろう。
人によっては、このまま自分の言い分を述べていたとしても、共犯者が認めてしまったのだとしたらもうダメだ・・・などとあきらめてしまうだろう。

久利生検事はこれを「チーム」による取り調べだと言った。

では、このようなチームによる取り調べに対して、共犯者たちはチームで防衛することが許されるのか。
もちろん許されなければおかしい。許されるのが当たり前である。

ところが、現実は共犯者たちがチームで防衛することを検事たちは「証拠隠滅だ」などと言って批判する。裁判所もそれに同調する。そしてひどい場合にはこのようなチームによる防衛をしようとした弁護士を懲戒請求したりする。これが検察官だ。

自分たちはチームによる取り調べだなどと言って、他の共犯者がいまどのような話をしているのかをすべて情報共有しながら、共犯者たちがいま周りの人たちがどのような話をしているかを情報共有しようとすることを反則だと言うのである。

こういう共犯者がいる事件の場合、検察官はほぼ100%「接見禁止」を求める。
それぞれの共犯者に対して勾留を請求して身体拘束するだけではなく、弁護士以外の人たちと面会をすることすら禁止する「接見禁止」を求めるのである。
接見禁止を決めるのは裁判官だが、検察官が接見禁止を求めた場合、裁判所はほぼ100%それを認める。
裁判官はいとも簡単に接見禁止の決定をする。
人をいとも簡単に牢屋に入れる決定をするだけではなく、家族とも友人とも誰とも面会させないという非人道的な決定もまたいとも簡単に決める。これが裁判官だ。

「接見禁止」の非人道性についてはあらためて別の機会に書こうと思うが、要はこういうことである。
勾留されている人たちは、家族など弁護士以外の人たちと面会する際には、警察官とか拘置所職員の立会いがつく。だから証拠隠滅とかの話などしようがない。やったらすぐにバレる。
このように警察官とかが面会に立ち会ってその会話内容をすべてチェックしていても、証拠隠滅行為を防止できない場合に備えた制度がこの「接見禁止」というものである。
そんな事態、めっっっったにないはずだが、接見禁止はいとも簡単に、そしてかなり多数の事件でついているのが現状である。

さて、話は戻して・・・
共犯事件の場合、検察官はほぼ間違いなく接見禁止を求め、裁判官もほぼ間違いなく接見禁止の決定をする。
こうして検察官は被疑者をどんどん孤立化させていく。それは情報などの物理的な面での孤立化だけではなく、精神的な孤立化もである。

このような被疑者に対して、弁護人は他の共犯者の弁護人と情報交換をして、いまどのような取り調べを受けているのか、どのような供述をしているのか等々情報を入手するのは当たり前である。
そうしないと、検事が「あいつは自白したぞ」と言われてもそれが嘘か本当かすらわからない。
弁護人が他の人と情報交換をして
「みんな自分の言い分をがんばって言ってるみたいだよ、一緒にがんばろう」
というアドバイスをできれば、幾分かは励ますことができる。

ところが、このような弁護人同士の情報交換も「証拠隠滅だ」という検察官がいる。
検察官だけではなく、弁護士の中にも、このような情報交換はやってはいけないことだという人がいるから驚きだ。
証拠隠滅はしちゃいけないが、共犯者間で情報共有することは証拠隠滅でもなんでもない。
むしろこういう事件で防御をするためには必須のことと言えるだろう。
その区別をつけずに、共犯者間で情報共有することはルール違反だ、悪いことだというのは誤りである。

城西支部のチームによる取り調べ、じつは結構危険なものを孕んでいるのです。
前にも書いたけど、被疑者は捜査の客体ではなく、
司法手続きの当事者なんです。
検察官のみが情報を支配して自白を取るというやり方は間違っているのです。