翌朝、私はまた同じ時間同じ車両を目指した。


今度は剛たちがいつも立つドア際を少し離れ、そこに隣接する座席の真ん中あたりに腰かけた。

いつもいつも剛たちが来るとわかっていて同じところに立つと、会いたがっていると思われかねない。


中学の時から、そういう疑いをかけられた子は「男好き」のレッテルを貼られ、噂のネタにされていた。


やがてまたがやがやと男子五、六人の集団がやってくる。

ひざに乗せたかばんを少し抱き寄せて、うつむいて声が近づくのを聞いていた。

マジこの前あいつさー
え? マジかよ、うけんなー


「あれ? 梨英じゃん」

唐突に呼ばれた名前に驚いて顔をあげると、目の前にシュウが立っていた。

「シュウ!」

シュウがこのグループで登校してくるのを見るのは、なんだかんだ久しぶりだった。

「イクセ、こいつ女子の団長」

シュウが振り返って私を指差しながらイクセに向いた。
目が合うとお互い軽く会釈をした。


剛の視線を感じていた。









すぐに剛に向かっていって、好きというオーラを丸出しにする気はなかった。

本当に好きかと聞かれたらもちろん、その答えはノーだし、そうやって好き好きと男に向かっていくのはいやだった。
それに自分らしくなかった。


だからイクセとさりげなく仲よくなって、そのままおいおいと剛の仲よしになれればそれでよかった。

たとえばそれで付き合うようなことがあっても、悪くないと思っている。
そうじゃなくたってもちろんいい。

ただなんとなく、「気になる」から「近づきたい」のだ。


打算的であることは、きっと損じゃない。幸せとは得をすること。それと変わらない。



剛のことは素敵だなと思う。
けれどそこまで必死に求めたくはない。









衣装は予算的にも装飾的にもTシャツがいいということでそれに決まった。

女子の間では、みんなで同じモチーフをつけるのはどうかという話になり、放課後これから見に行く予定を立てた。

「モチーフはリボンでいいかな?」

「うんっ。かわいいと思う!」
「ねー」
「よろしくね、梨英」


そのまま流れで解散となり、また後日集まりを開くことになった。

この後部活だから、出来れば早めに向かいたいけれど、どうしてもイクセと仲よくなっておきたかった。
イクセとは一切の交流がないのだ。


しかし彼はもういなかった。
またいつでも仲よくなる機会はあるか、そう思った。









剛は応援団には参加していなかった。

弓道部という部活柄、行事ではいつも部別の仕事を任されているということは知っていた。だから別に期待はしていなかった。

「シュウ、よろしくね」
「おう」

シュウと教壇のところでなんとなしにあいさつを交わすと、とりあえずは衣装から決めることにした。


その時教室のドアが開いた。

「失礼しまーす」

視線をそちらに向けた。
入ってきたのはイクセだった。

知っているも何も、まただ。
それに彼はシュウよりも特別。

彼はシュウと同じように剛と学校にいくメンバーだが、それだけじゃない。

イクセは剛の大親友なのだ。

突然剛が一気に近づいた気がした。


衣装はTシャツかポロシャツか、そんなことはどうでもよかった。



頭の中にはまた剛があふれ出す。
舞い上がっては再び積もる、桜の花びらのように。









「今回は、それぞれ女子と男子の団長を決めて、着る衣装をなんとなく決めたらもう解散でいいだろう」

先生はそう言って、教壇を離れた。男子と女子それぞれ、クラスの窓側と廊下側によって話し始めた。


「どうする? 団長」

正直迷っていた。

やってもいいけれど、やりたい人がいるなら別にいい。中学では委員会活動などに積極的にしていたこともあって、高校からは少し落ち着こうと思っていた。

しかし周りは誰も反応しない。
やれば?とかけあう声も、それにまんざらでもなさそうにやだあ、という声もない。

ずっとこうしていても仕方がないし。

そう思って、言った。

「私やるー」

周囲は「ほんと?」「じゃあ梨英ね」「梨英しっかりしてそうだし」と意見を口々にもらした。


「男の子の団長、決まった?」

振り返ると、その言葉に反応してシュウがこちらを向いた。

なんとなくつかみどころのない性格だがおもしろいやつで、中学の時にも話したことがあった。


その時ふと思い出した。
シュウは剛と朝一緒にいくメンバーの中にたまに見かける。