土日は何事もなく過ぎ、月曜日がやってきた。五時半に起き、準備をして、自転車をこいで駅に急ぐ。


駅の階段を上り、改札をくぐり電光掲示板の三十七分の表示を確認。


いつも通り。

いつもと少し違うのは、剛と知り合いになるきっかけを金曜日につかんだこと。

自分から話しかけ、仲よくなるんじゃない。

彼の親友が、先輩の妹として紹介してくれるのだ。

これ以上後ろめたくないきっかけはなかった。

「お、おはよー」

車両に乗り込むと、イクセが声をかけてくれた。

「おはよう」

見るとシュウはいなかった。

「今日は、シュウは?」

「知らね、あいついる時といない時ある」

イクセが答えてくれた。

「ふーん、そうなんだ・・」


そのままイクセと話をした。剛は残りのメンバーたちと話していた。


ふとイクセは、いきなり思い出したような顔をして、無言で顎を左に振った。

「?」という顔をしたが、まだしきりに顎を振るので眉間にしわを寄せて「??」という顔をすると小さな声で

「こいつ、こいつが剛」

と言った。


私はイクセのとなりに立つ剛を見た。表情は変えなかった。

「そうなんだあ」

私も負けじと小さな声で言った。

そのうち駅に着いた。私たちはそのまま降りた。









イクセに近づくために残っているわけじゃない。

そう言い聞かせた。


「カズヨシさん、元気?」

「あー元気だと思うよ」

私は適当な口調で答えた。

「どういうこと?」

「他県の大学行ったんだ」


うちは数年前にごたごたがあった。今じゃ父は海外、兄は他県とばらばらだ。
一緒に暮らしている母のことも、私は尊敬したことなんて一度もない。


「他県? マジか」

「うん、でもよく話聞いてたよ。イクセはおもしろい、とか」

「はは、はずかしー」


「あと剛くん?て人がすごく強いとか・・・」

剛のことはよく知らないという風に、私はさりげなく名前を出した。

「つよし? あああいつは強いよね。てか、剛今日の朝もいたじゃん」


来た、と思った。

ポンポンを割く、シャッシャッという音が妙に大きく聞こえる気がした。

「そうなの? 顔は知らないや・・・」

シャリシャリ。
絡まったテープをほぐす。

「マジか。いつもあの電車でしょ? 今度紹介するよ」

表情は終始変えなかった。


「はは、ありがと。楽しみにしてる」









その日の放課後、また八組で集まりがあった。

スコートを借りられること、モチーフの候補、ポンポンの作成・・団長としていろいろなことを伝達した。



ポンポンづくりはその日から始まった。

赤いビニールテープを何人かがひたすらまとめ、残りのメンバーでしゃべりながら割いていた。

部活がある人は各々教室を離れた。私も部活があったけれど、団長だからという理由で八組に残ってポンポンを割いた。

横を見た。


イクセもポンポンを割いていた。









彼らがいるのは当たり前のことだが、真子との約束に遅れるほうが私には一大事で、一瞬本当に剛のことなんて頭から吹っ飛んでいた。


グループにはまたシュウがいた。

「お、梨英、はよ。」

「おはよう・・」

シュウと向き合う形で、私は剛たちのグループの中にいつの間にか混ざっていた。

「今日応援団の集まりあるよな?」

シュウが言った。

「あ、そうだね」


シュウのとなりにはイクセがいた。

「あ、おはようイクセくん。今日来る?」

イクセに初めて話しかけた。剛のほうは見ない。

「あー行くいく。」


これは前から知っていたことだが、イクセも今は辞めてしまったけれど、かつては弓道部に所属していた。つまり兄の後輩だった。

「弓道部の三こ上にカズヨシってひといたでしょ」

私は兄の名前を出した。

「うん、何。知り合い?」

弓道部と聞いて剛も顔をあげた。


それでも剛のことは見ない。

「名字、私と一緒でしょ?私のお兄ちゃんだよ」

「えっ!!マジ?!!」

剛とイクセは同時に言った。

「まじまじ。よく聞いてたよ、イクセくんとかのこと」

そう言って、初めて剛としっかり目を合わせた。


目が合うと彼は、驚いた表情から、またあのくしゃくしゃの笑顔を見せた。

「まじかよ、すげー。」

私は少し口元をゆるめてほほえむと、視線をイクセに戻した。

「なんかすごいよね、偶然」


そのあと電車に揺られながら、私はシュウと団長同士の連絡のためにアドレスを交換した。結局副団長になったというイクセとも一応交換した。


剛とはもちろんしなかった。もう目も合わせなかった。









剛の視線を感じていても、彼を見ることはしなかった。彼を目当てにしているようには思われたくない。


それから学校までの数分間、シュウは私の目の前に立ち、剛たちとは少し離れて私と話していた。

その間、私は剛たちを見ることはなかった。


翌朝、またいつものように同じ時間同じ車両を目指していたが、その日は少し出るのが遅れてしまった。

急いで階段を上り、改札をくぐり、電光掲示板の三十七分の表示を確認するとまた少しだけ足を速めた。
発車のベルと共にドアにすべり込む。止まった途端にふきだす汗を、えりをつまんでパタパタと、服の中に風を取り込んでごまかした。


ふう、と顔をあげると、目の前にいたのは剛たちだった。