ある日のこと、市街地道路に面した企業敷地内の広場に、複数の外国人従業員が集まっていた。そこへ、2本の包丁を携えた日本人の男が突如として押し入ってきた。男はそのまま建物の2階へと駆け上がり、激しい口調で怒鳴り込んだという。後に判明した動機は、近隣に住むこの男が、日頃から外国人従業員たちの喧騒に強い不満を抱いていたというものだった。

当然ながら、苦情を言うのは良いとして、包丁を2本も持って怒鳴り込むという行為は、明らかに常軌を逸しており「やり過ぎ」である。

しかし、ここで一歩踏み込んで、苦情を言いに行こうとした男の「心理」を解剖してみよう。

男の目に映っていたのは、素性の知れない「見知らぬ外国人たち」が「複数人」で集まっている光景だ。正確に何人いるのかさえ把握できない不気味な状況の中、たった一人、手ぶらで苦情を言いに行けるほどの勇気を持った人間が、果たしてどれほどいるだろうか。

凶器を手に暴挙に出た男の根底にあったのは、単なる傲慢な怒りではない。正体の見えない集団に対する強烈な「恐怖」だったのではないか。まさに、怒りと恐れは表裏一体なのである。