今年は寅年。寅年生まれの母がくれた、ぐるぐる寅が木の回りをまわってバターになる絵本、『ちびくろさんぼ』を思い出します。
作者はスコットランド人のヘレン・バンナーマンさん。軍医の夫に伴なってインドへ赴任中に、ご自分の子どもたちのために絵本を描いて読んであげていたそうです。
インドの男の子〝さんぼ〟の両親の愛に包まれ、知恵を働かせて強く明るく生きていく姿が夫人の描かれた絵とともに綴られています。インドの子どもを見習って、明るく強く生きて欲しいと祈っている、そんな想いがヨーロッパ的なウィットに富んだ小噺のようなしめくくりのおはなしで描かれています。きっと子どもさんたちはインドの子どもたちと仲良しになりたくなったに違いありません。りっぱに見られるからと、さんぼが両親からもらった服をとりあげる虎たち。俺様こそが一番りっぱだ、りっぱだと争います。楽しいだけのおはなしではなく、インドが植民地化へむかっていくなかでの大人の権力争いへの風刺も描かれています。
しかし子どものわたしにとっては、とにかく絵が楽しかった。今も虎が木の回りをぐるぐる回って溶ける絵が忘れられないなんて、このファンタジーはすごい発想ですよね。
嫌いなものを好きになる。弱い子が強くなる。子どもたちはそんなおはなしに勇気づけられるのでしょうね。それは大人も変わりません。風刺も希望も楽しく伝えられるってステキですね。
ヘレン夫人の絵本は家庭のなかだけであったのが、出版社に渡り、海賊版もでて世界的大ヒットへ。インドの男の子さんぼがアメリカの黒人さんぼに置き換えられ、差別的であるからと一時期絶版になっていたゆえんから、この絵本は世代によって知らない人がいるそうです。
今年もみなさんのステキな作品を楽しみにいたします!