『いま、なぜゾラか?』(藤原書店)と云う本を読みました。エミール・ゾラの作品では『居酒屋』『ナナ』が有名です。
むかし、『居酒屋』を読み映画をみたときには切ない女の物語と甘ったるく解釈していましたが、狙いはアルコール依存症を扱った作品だそうです。
いかに後世まで不幸に苛ますか。『ナナ』は高級娼婦の物語。
そのへんのおっちゃんから超インテリまで、男を破滅に導く女の悲惨な終末まで。
『獣人』という長篇小説にはたいへん現代的な人物と事件が登場します。
鉄道機関士の主人公・ジャックは、女性の肌けた胸元をみるとナイフを突きたてたくなる衝動を抑えられない青年。
ゆえに女性に恋をせず、機関車に女性の名前をつけて恋焦がれている、今で云う全くの猟奇的テツオタ。1890年制作ですが、現代的!
『獣人』は映画化され、ジャックをジャン・ギャバンが演じています。
映画『望郷』でのニヒルなジャン・ギャバンですが、『獣人』での猟奇殺人犯の役はもてあまし気味の感も。
ヒロインもぶりっ子で、ギャバンさまには仇花のような女が似あうのよさ、とわたし的にはつくづく…。
しかし『望郷』で犯罪を犯しカスバに逃亡したギャバンもまた、カスバで出会った女、ギャビーに惚れているとは思えなくて、パリへの望郷の念に苦悩する男とうつります。うつろな眸の色気が最高! なお、うつろな眸はギャバンさまだからこそのもの。
決して真似しないでくださいね。眠たいのかしらとしか思えません。
猟奇的ジャックと『ナナ』の娼婦は、『居酒屋』のヒロインの息子と娘。アルコール依存症の及ぼす後世までの不幸が大構想の長篇集で描かれています。
ただ精神疾患は遺伝するものではないとの精神科医の説が世に広まり、遺伝説はタブー視されたそうです。
動機にいかに着眼するか? 猟奇的と云えども、どう観客を説得するか? さまざまに考えさせられました。
(amazonより)