「社長とか重役とかいう言葉を聞くと同時に、私はたちまちげらげら笑い出したくなる。これはもうくせというより病気に近いくらいのものであるが、ことに重役会議などという言葉を聞くともうそのおかしさはとめ度もなくなってしまう。たとえば、諸君は次のような画面を想像できないであろうか。つまり、首のつけ根から上に何もない人間――つまり、ネクタイの結び目から上に何も存在しない人間が何人も集まって、しきりに何事かを相談している――そして皆一同に座布団を二つ折りしたくらいのがまぐちを一つずつかかえこんで、絶えずそれをなでまわしているのである。」(伊丹万作「喜劇の種」)
万作先生は挿絵画家としての経歴もあり、ご脳裏に浮かぶ漫画にげらげら笑いだしています。
先日のワークショップでのこと。漫画で解答くださった方がいました。上手でした。学生時代にこっそり答案用紙の隅に漫画を書いていた人いましたよね。実はわたしもそうでした。芸は身をたすく! どんな漫画が浮かびますか?
岡本太郎氏のお父上、岡本一平氏は風刺漫画家として著名な方です。風刺の対象は政治にとどまらず家庭内の可笑味も描かれています。
あるご婦人、美しくて立派なご婦人と人に見られたくて、せっせと身を窶しています。しかしその百面相。白粉で皺がひび割れよじれてはと、長~くのばす鼻の下。奇妙この上ない百面相で化粧しまくっているご婦人が可笑しく描かれています。さも立派に見られる着物も整え外出するや、夫はこんな女の人は知りませんよ、とばかりにさっさと離れてゆきます。
「真純な、あきれ返るほど愛の籠った可笑味、それを家庭の単調な塀の中の男女たちに注ぎ入れて彼らの魂を生命にオホゝゝゝアハゝゝゝと失笑させる事。これには随分手心が必要だった。」と一平氏(「映画小説・女百面相」序文より)。
あきれ返るほどの愛っていいですね。