『無法松の一生』と同じく車夫のお父さんの映画では川島雄三監督、織田作之助原作、八住利雄脚本、辰巳柳太郎主演の『わが町』が。
ベンゲットの他ァやんを嫌いな大阪人は居らっしゃらないでしょうね。真面目一徹。土性っ骨。不器用に口下手。お父ちゃんにお爺ちゃんに似てた、親戚や近所のおっちゃんに。他ァやんは大阪にいっぱいいました。そして今も。
明治末、千五百人のうち約半数が死んだといわれる過酷なフィリピンの道路建設工事に従事し、仲間を叱咤激励、完成に貢献した人夫頭、ベンゲットの他ァやん。帰国後、自らが種を捲いた運命を受け容れ、人力車の梶棒をにぎり、娘と孫娘を一徹に育てあげた大阪の男の一代記。
とは云え主人公は〝町〟です。原作、映画ともに視線は町に向けられています。他ァやんの気骨ぶりをからかう町の人々。愛と気恥ずかしさとからかいが、今も大阪に、ほんわかぬくもりとともに充満しています。愛して笑って生きる。大阪人の愛し様が記録映画のごとく描かれていて、なおのこと、愛すべきこのわが町が焼け野原へと化した怒り、哀しみが伝わってきます。
町の人たちはなにかあれば寄ってきて、落ちつけば安堵して、屋根つなぎのもと眠りへと。干渉や助けあいと云うより、アフリカの動物たちの群れの本能を感じさせ……
そこには人情味溢れる古き佳き大阪下町と云ったお決まりの視線はなく、なにかあれば寄ってきて、ときにからかい、ときにエゴを滲ませ相手に悪しきことも企てる。ええとこ、よぅないとこ、ないまぜが、台詞とト書きの行間に描かれ、そしてその行間の奥の慟哭を観客は汲みとり、生き抜いた市井の人の孤独に泪します。
とにもかくにもわが町の人々を演じられた、殿山泰司さん、北林谷栄さん、小沢昭一さんをはじめ脇の役者さんたちが、本当に素晴らしいです!