インタビュアー:編集長 豊田恵吾、文・撮影:編集部 ロマンシング★嵯峨
アメリカ・サンフランシスコにて、2015年12月5、6日(現地時間)の2日間にわたって開催された、プレイステーションファンのためのイベント“PlayStation Experience 2015”(以下、PSX2015)。
本イベントに参加しているSCEワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏に、PSX2015の手応えや、今後のハード・ソフトの展望などをうかがった。
●2度目の開催となるPSXPS VRは最大の数を用意
——今回、僕はPSXに初めて来たのですが、ユーザーとの距離感がすごく近いイベントですね。
吉田ご覧いただいた通り、ユーザーの皆さんがたくさんいる、楽しいイベントなんですよ。
ゲームのデベロッパーがブースにいて、誰でも話しかけられるという点が、デベロッパーの皆さんにも好評で。
ユーザーのフィードバックがすぐに得られるわけですからね。
「それが本当に楽しい」と。
PSX、私もすごく好きなんです。
去年はラスベガスで開催して、今年はサンフランシスコ。
来年はちょっとわからないのですが、私はできれば、いろいろなところで開催したほうが、新しい人たちに会えていいかなと思っています。
——ということは、毎年恒例のイベントにしていくおつもりなのでしょうか。
吉田はい、その気持ちはあります。
去年と比べると、今年の入場者はすごく多いんですよ。
去年は初めてということもあって、準備に時間がかかり、告知が遅かったんですよね。
ですが、今年はチケットが売り切れたということで。
キーノート(発表会)も、会場が大きくてびっくりしましたよね。
もう少し小さい会場を予想していたのに。
E3みたいだなって(笑)。
——キーノートは、開演前からお客さんのかなりの熱気を感じました。
吉田前日の夜から待っていてくださった方もいるようで。
——初日を終えてみて、どのような手応えがありましたか?(※このインタビューは開催2日目に実施)
吉田手応えはすごくありますね。
たくさんの方に来ていただけて。
プレイまでの待ち時間は長くなってしまったのですけどね。
——確かに、待機列が長くなっているブースもありましたが、PlayStation VRについては専用アプリを使って試遊の予約ができるなど、ユーザーさんへの配慮を感じました。
吉田今回、PS VRはこれまででもっとも多い数を用意しています。
40台くらいでしょうか。
やっぱり、体験してもらわないとわからないものですから、気合をいれて準備しています。
——PS VRは、キーノートで新作が多数発表されたことのも驚きでした。
吉田私もびっくりしたんですよ。
『REZ』、やりました?
——先ほど、プレイさせていただきました。
吉田私はまだ、スーツを着てはプレイしていないんですよ。
すごかったですか?
——すごいですね……。
想像を超えていて、本当にびっくりしました。
吉田ゲームと音楽と、スーツのバイブレーションがシンクロしているんですよね。
——足の根本から振動が上がってくるようで。
本当に“体験”ですよね。
全身で味わう。
吉田ゲームの世界とつながっているような。
——ヘッドセットをつけてくださったスタッフの方には、「行ってらっしゃい」と言われました。
それだけ没入感がある、ということなんですよね。
360度の視点に、3Dサウンドが加わることで、これほど変わるんだ!と驚きました。
吉田それは体験してもらえてよかったです。
私も今度、どこかで体験したいですね。
——PS VRは、『Rez Infinite』以外のタイトルも粒ぞろいですね。
吉田『エースコンバット』も新作が発表されましたしね。
イベントに来るたびに、新しい発表あるので、楽しいですね。
水口(水口哲也氏)さんもそうですが、海外のデベロッパーでも、非常に経験が深い、すごくベテランの人たちがPS VRのタイトルを作っているんですよね。
だからもう、クオリティーが高くて。
欧米では、業界で何十年もゲームに関わっている人が、「これを待っていた!」と、PS VRのタイトルを作ることが多いですね。
ですので、少人数で作っているわりにクオリティーが高いものが、欧米のインディーから出てきています。
今回発表された『Golem』なども、制作しているのは、過去に大作タイトルを手掛けてきた方なんですよ。
——それはやはり、PSプラットフォームが、大きなスタジオだけではなく、個人のクリエイティブの場としても確立されているからですよね。
吉田そうですね。
PS VRは、いまは“ゴールドマイン”だなんて言われていますが、新しい体験を作りやすいんですよね。
「ここがチャンスだ」と思って参加されている方が多いようです。
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——アイデアやアートの面だけではなく、技術面でも、PS VRであれば“やりたいことをやれる”ということでしょうか。
吉田ベテランの人たちが作ると、早いんですよね。
アンリアルやUnityを使えば、それだけでも早いというのもありますし。
最近は、やりたいことを、早く表現することができるようになっています。
VRのような、「やってみないとわからない」というものを作るとき、そのスピードは非常に有効ですよね。
私たちも、PS VRのタイトル制作について尋ねられたときは、「短い時間で、少人数でどんどん作っては直し、作っては直し……ということができるもののほうがいいですよ」とオススメしています。
早く発表して、“このジャンルで、こういう風にVRを使うのは、世界で初めて”というところを狙ったほうがいい、と。
初代PSのころの規模ですよね。
10人くらいのスタッフで、1年くらいでゲームを作って。
もっと少人数でもいいかもしれない、と思います。
時間が経つと、VRが普及してきて、もっとお金と時間をかけて作るようになっていくとは思うんですけどね。
——Paris Games Week 2015でお話を伺ったとき、PS VRに参入されるデベロッパーさんが増えているとおっしゃっていましたが、いまも増え続けていますか?
吉田はい、増えています。
PS VRのツールを持ってらっしゃらない方が、Oculus VRで作っているタイトルを「PS VRでも出します」とおっしゃっていたりもします。
それを聞いて、SCEのスタッフが「ああ、それなら連絡しなきゃ」なんて言ったりして(笑)。
PS4はPCアーキテクチャですから、VRコンテンツを作ってそれを持っていく、OculusとPS VRの両方に持っていくというのは、比較的簡単です。
それはすごくいいと思うんですよね。
Oculusで作り始めていただいてもいいですし、もちろん、PS VRで最初に作っていただいてもいいですし。
——そろそろ、PS VRの価格や発売時期が気になりますが……。
吉田ハードはほとんどできていますが、システムソフトウェアですとか、検証しているものがありますので、それらの見通しが出てからではないと決められないかな、と。
いまのところは順調ですので、早めに発表したいなと思ってはいるのですが。
●膨大な数のユーザーが、PS VRを手にする可能性がある
——PSXでは、PS VRタイトルはもちろん、それ以外にもサプライズがたくさんありました。
吉田『二ノ国II』はびっくりしましたね。
「作られてたんだなぁ!」と。
——まさかサンフランシスコで発表されるとは思っていませんでした。
吉田『二ノ国』は、海外でもすごく評判がよかったので、ここで発表することを決められたのだと思います。
『二ノ国』は、JRPG熱が海外のファンのあいだで高まっていたところで発売されましたので、ニーズに合っていたのだと思います。
——『FFVII リメイク』も大きな反響でした。
吉田こんなに早く続報が出るとは予想していなかったので、びっくりしました。
E3で公開されたのはティザー映像でしたから、今回の映像で「ああ、本当に、最新の技術で作っているんだ」ということを実感された方が多かったようです。
バトルシーンも、わりと最近のゲームのような、スピーディーなものになっていましたね。
北瀬(スクウェア・エニックス北瀬佳範氏)さんもおっしゃっていましたけれど(こちらの動画にて)。
それはいい変化だと思います。
——キーノートは『アンチャーテッド』、『FFVII リメイク』で一気にボルテージが上がりましたよね。
吉田そうですね。
とはいえ、PSXはコミュニティイベントなので、小さめのタイトル、インディーさんのタイトルなどを見せることに適しています。
ですので、私たちも『グランツーリスモ』や『トリコ』といったビッグタイトルは、E3やTGSなどで見せて、小さめのタイトルをこちらでフィーチャーするようにしています。
キーノートで発表されたタイトルが、会場ですぐ遊べて、デベロッパーと話ができる。
デベロッパーは、ユーザーさんからのフィードバックを直接得られる。
それはTGSやE3ではできないことなので、意図的に発表タイトルを分けています。
——コミュニティを大事にしているな、というのは会場の作りからも感じます。
会場2Fに用意されているコミュニティステージですとか。
現地へ来れない方のための映像配信も充実していましたし。
吉田イベントの模様は、より多くの人に見ていただきたいので、ライブストリーミングをして、終わったらすぐYoutubeにアップする、という形をとっています。
日本の方が見ると、夜中になってしまいますけど。
——ですが、PSXのキーノートは、日本でも多くの方が見ていたようですよ。
ファミ通.comへの記事の反響も大きいですし。
吉田夜中まで起きてくださっていた方へのサプライズになって、よかったですね。
——SCEの発表会は、毎回サプライズを用意されているのがすごいと感じます。
吉田PS4が世界中で販売が好調なので、サードパーティーさんからの「PSのイベントで発表したい」というお話も多くなっているのではないかと思います。
——会場のファンの盛り上がりも、毎回大きいですね。
吉田欧米のファンは反応がいいので、一気に盛り上がるのが楽しいですよね。
今回のキーノートでは、『100ft Robot Golf』。
すごく盛り上がってましたよね。
「ああ、ここで盛り上がるんだ」って。
ああいう反応が楽しいですよね。
——『100ft Robot Golf』のようなソフトが出てくることに、PS VRの余裕と言いますか、広がりを感じます。
吉田いまはPS VRって、やったもの勝ちだと思いますよ。
ふつうのゲームで新しいコンセプトを出すのは難しいですから。
——ゲーム制作以外の分野にいる、才能がある方が、PS VRで何かを生み出す可能性もあるのでは?
吉田それはあると思いますね。
VRは技術でありメディアなので、いろいろなものに使えるじゃないですか。
(VR対応ハードを)最初に買ってくださるのはゲーマーの皆さんだと思うので、初めのうちはゲームコンテンツが作られると思うんですが、すぐその先には、いろいろなエンタテインメントのコンテンツや、健康や教育に関するものが作られる未来があると思うんです。
メディアさんもVRを使われると思いますよ。
一度に360度の情報を出せるというのは、インパクトがありますから。
現場の様子を伝えるという用途で使われると思います。
その段階に進むのは、わりと早いんじゃないかな、と。
パノラマのビデオや写真をシェアできるシステムというのも登場してきていますが、それが普及していけば、たとえば結婚式の様子を参加できなかった人に見せてあげる、なんていうことができます。
そうすると、ゲーマーではない方も使い始めるかもしれない。
ゲームをプレイする層をはるかに超える数のユーザーさんが、PS VRを手にされる可能性があります。
できればその段階に、早く行きたいですね。
——PS VRでは、“ゲーム”という枠にこだわるつもりはない、と。
吉田まったくないですね。
これまで発表しているデモの中にも、逆にゲーム性を落として、誰でも楽しめるようにしているものがあります。
それでいいと思うんですよね。
もちろん、『RIGS』のような、ガチガチのゲームも作りますけど。
技術の特性を活かして、“ふだん行けないところに行ける”、“ふだんできない体験ができる”というよさを、ストレートに表現するのがいいんじゃないかな、と思っています。
——では最後に、この1年を振り返っていただくとともに、来年の抱負をお聞かせいただけますでしょうか。
吉田2015年は、タイトルの発表で忙しい年でした。
E3の『人喰いの大鷲トリコ』に始まって、パリでは『GT Sport』、ほかにも『Horizon』ですとか『GRAVITY DAZE 2』ですとか『New みんなのGOLF』ですとか、目白押しですよね。
PS VRの開発も順調で、いろいろなところでデモしたり、発表したり。
それで1年があっという間に過ぎていきました。
2016年は、発表したタイトルを商品にしてお届けしていく年です。
非常にビッグな年ですね。
どんなものが出てくるのか、楽しみです。
