3  章
 1、メリザンドの部屋

寝室の奥には、うす暗がりなメリザンドの仕事部屋が
ありました。夜遅くなり、部屋で糸を紡ぎながら、
夫の帰りを待っていました。

傍らにはペレアスも座り、メリザンドに話しかけます。

ペレアス
お城じゅう、もう寝静まったようですね。兄は遅いなぁ
落馬の怪我は、もう大丈夫なんだろうか・・・

メリザンド
もう痛まないそうよ

部屋の向こうから、バンバンバンバンと激しくドアを
ノックする音がしたかと思うと、イニョルドが眠たそうに
目をこすりながら、入ってきました

ペレアス
そんなに激しく叩いたら、お母さんが驚いてしまうよ

イニョルド
ボク、いっぺん、軽くたたいただけだよ・・・

ペレアス
さぁ、もう寝たらどうなんだい?


ところが、イニョルドは激しく泣きじゃくりメリザンドの
ふところに逃げ込みました。

ゴローとメリザンドが森で出逢い、半年ほど別荘から
城に戻らなかったあいだのイニョルドは、この城内に
たった独りにされてしまってからというもの、
父親が自分から遠ざかってしまったと情緒不安定に
なっておりました。

この若くて美しい継母が、どこかへ行ってしまえば父親も
その後を追い、また自分が独り取り残されるのではないかと
いつも不安を抱えて、時々、夜遅くに目を覚ましては

父親がいないと城の中を歩いて探し回っていたのでした。

イニョルド
あいつらが、、猟犬が、、白鳥を追い回しているよ
水・・・羽が、、、羽ばたくのをこわがってる・・・

ペレアス
ああ、イニョルド、ねぼけているんだね
ほら、こんなに瞼がふさがっているじゃないか
さぁ、いい子だから、もうベッドでやすもう
ついていってあげるよ・・・・

窓越しに何かがうつり、イニョルドはそれを見て
ハッと目を見開いて立ち上がり、ランプを手にすると
部屋から出て、父ゴローの姿のある庭の方に向かい
駆け出して行きました。

ゴローとイニョルドはランプを手にしてメリザンドの
部屋へ入ってきました。

イニョルドがランプをメリザンドの顔にかざすと、

メリザンドの目もペレアスの目も赤くはれて

二人して泣いたあとのようでした。

ゴロー
おいおい、イニョルド、顔のそばまで明かりを

近づけるんではないぞ。

そう言いながら、ゴローはさきほどから、

二人のただならぬ様子に気がつき、
こんな夜遅くに、いったいここで何をしていたのだろう

と疑念を抱き始めたのでした。