ペレアスのメリザンドに対する愛情が深いことを知るほど、
ゴローの血を分けた弟への憎しみは増していき、
気の狂わんばかりの嫉妬心にかられ、妻から受けた
裏切りは耐え難い屈辱でありました。

心の奥にはペレアスに対する殺意にも近い復讐心が、
ふつふつと芽生え始めておりました。

     3, 城の地下穴

ゴローは、近ごろ、地下の方から死臭のような、
くさい匂いが漂ってきて、城の中にも匂いが入ってくるようなので、
何か異物でも捨てられたのかも知れず、一度、地下穴に降りて
その悪臭のもとを探してみようとペレアスを誘い出しました。

アルモンド城は洞窟の岩盤の上に建っており、地下穴に
降りていけば、そこは岩場の崖になっていて、足を
滑らせて底なしの穴に落ちてしまえば命がありません。

暗がりのなか、弟を先頭に歩かせ、ゴローはランプを手に
後ろからついて行きます。
前を歩いているペレアスは足元が悪く様子がわからないまま、
今にもつまづきそうに先へと進みました。

崖に足を滑らせそうになったペレアスは、危うく下に
落ちそうな所を、ゴローに服を引っ張られて助けられ、
難を逃れますが、兄は、内心、落ちて欲しいと願って
ランプを足元に照らしてやることはありませんでした。

ペレアス
兄さん、ここ、まるで墓場の死臭のようなにおいですね

ゴロー
ああ、この匂いだよ。この悪臭がこのところ、

城内に立ち込めていたんだよ。

こんなに匂うというのに国王は知らん顔だ。

鼻がきかんのだろうか?

いっぺんそのうち、手遅れにならぬうちに、この地下穴を
もう一度調べて、洞窟の口をふさいでしまわんといかんな。

壁も天井も亀裂だらけだし、放っておいたら、城ごと
洞窟に呑みこまれてしまうしな。

だが、この地下には誰も降りたがらないしな~
なぁ、死臭が立ちこめておるだろう。わかるか?

ふっふっ・・

ペレアス
ええ、僕たちのまわりから死臭がしてきますね。

ゴロー
よーく、覗きこんで、ほれ。
私が手をつかんでいてやるから、いや、手ではすっぽ抜ける
かもしれんから、腕だな腕をつかんでいてやるから、
どうだ? 深いだろう?底なしだ。わかるか?ペレアス

ペレアス
兄さんの手、震えてませんか?ランプが揺れている。

ゴロー
ああ、ああ、、、あちこち調べたくてな。
ランプを振っていたんだよ

ゴローの心は動揺し興奮がおさまらず、声も手も
震えが止まりませんでした。

ペレアスは、そんな事とは知らずに、この息の詰まる
地下穴から、そろそろ出ることを提案しました。
兄も、それに同意しました。