5、 城の中庭
夕方近くになり、父ゴローと息子イニョルドは城内の広い庭を
ゆっくりと散策していました。
立ち止まっては草花を観察して歩きながら、中庭の、ちょうど
夫婦の寝室が少し隠れて見える場所までやってきました。
ゴローは、あの二人の仲を疑い始めてからというもの、
用事があると言って、城から出かけたような振りをしては
度々、そこの茂みに隠れては、何やら寝室で二人が
逢瀬を繰り返している様子を監視しているのでした。
そこには、城の庭で働く者たちが休憩するための
古い木の長椅子が置かれており、ゴローはそこに腰かけ、
イニョルドの体を抱き上げて膝の上に座らせました。
イニョルドは、日頃からゴローが用事で出かけている間は、
メリザンドの部屋で遊んでいることが多かったので、
自分の不在のあいだに、妻はペレアスといったい
何をしているのかを息子から聞き出すことが目的でした。
ゴロー
あのな~、父さんがいない間なんだがな、 その・・・
母さんは、ペレアスおじさんといつも一緒にいるんだろうかね?
イニョルド
うん、そうだよ。 いつも、いっしょだよ。
ゴロー
そうか・・・城の女中達も、あの二人は、よく口喧嘩をしていて
実は仲が悪いのではないかと言っている者もおるようなんだが、
ほんとうに、そんなによく喧嘩をしているのかい?
どんなことで喧嘩をしているのか、聞いた事はないかい?
イニョルド
うん、ときどきね ・・・・
それは、たぶん、あの部屋の扉のことだよ。
ゴロー
なんだ?その扉というのは?
なあ、 そのだな、、、、もっと詳しく教えてくれないかい?
なんで、そんなことで喧嘩になるんだろうね~?
イニョルド
だって、母さんは扉があけっ放しになるのを嫌がるんだもの。
それが、喧嘩のたねになるんだよ。いつも・・・
ゴロー
はあ~ん、、、で、、それが、どうして、喧嘩のたねになるんだい?
イニョルド
さぁ、、、、、よくわからない。 けど・・・
なんでも、部屋に光が入ってくるのがイヤだって。
母さんは言ってたよ
ゴロー
光? 光のことなど聞いておらんぞ。まあ、そんなことは
どうでも良いが、さっき、お前は扉のことと言っただろう?
おまえ、私が尋ねていることに答えられないのか?
イニョルド
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゴロー
ほら、そう、もたもたするな。行儀のわるいやつだな~。
こんな時に、口に手を当てて、大きなあくびする馬鹿がおるか!
ところが息子は、まだ幼すぎて、大人たちの行動が理解できるはずもなく、
ただ見たままの話をするので、合点のゆかないことが多いゴローには、
息子の返事がはがゆくてたまらず、その焦りから、少し苛立ちを感じ始めていました。
ゴローは、息子の腕を軽くつねって眠気を覚まさせ、また矢継ぎ早に
尋ねようとするのですが、イニョルドは、父の問いかけてくる意味が、
さっぱりとのみこめず、疲れと眠気と、つねられた痛みとで、だんだんと
悲しみがこみあげてきて、ついには声をあげて泣き出してしまいました。
ゴロー
おお、すまん、すまん。 私が悪かった。ああ、そうだ・・・
どうだろう。このあいだ、お前が欲しがっていた、狩りの時に使う
矢と道具をやろう。 そのかわり、扉のことで話を聞かせてくれないか?
イニョルド
・・・・・・・・・・本当に・・・・・長い矢をくれるの?
ゴロー
ああ、そうだよ。 ただ、おまえがきちんとお話できた時だからな。
それで、ペレアスと母さんは一緒にいる時、いつもどんな話をしているんだい?
もう一度、きちんと 父さんにも教えてくれないだろうかね?