3、お城のテラスで

イニョルドは、父上のゴローからもらった金色のボールを
足蹴りしていると、弾みがつきすぎて遠くへ転がってしまい、
運悪く石の隙間にはまり込んでしまいました。
重い石をどかそうとしても、イニョルドの小さな体ではびくともしません。

一生懸命、石を持ち上げようとふんばっている所に、
城の外からヒツジの群れの鳴き声が、遠くの方から聞こえてきました。

テラスから身を乗りだして、ヒツジ達のやってくるのを覗き込んで見ていると、

そろそろ、日が沈みかけ、放牧を終えた羊飼いが立ち止まったり、

反対の方向に向かおうとするヒツジ達に土くれを投げつけながら、
大人しくさせて、帰路に向かう姿が見えました。

イニョルド
ヒツジさんたち、さようなら。 また、明日

 

イニョルドは、テラスから、ヒツジたちに呼びかけながら、
そのヒツジを見送っていました。

その群れが通り過ぎた頃、あたりは真っ暗になっており、
イニョルドも、石にはさまれたボールのことをあきらめて、
城へ戻るのでした。

            4、盲人の泉

 

今夜は、いつもより大きく不気味な発色を帯びた満月が
静かな海の上にぽっかりと浮かびあがり、そのまわりを
黒い雲が張りめぐらしており、まるで嵐の前の静けさのようです。
これから不吉な事でも起きる前ぶれのように、その姿をあらわしていました。

ペレアスは「盲人の泉」で、メリザンドを待っていました。
そろそろ、夜更け近くになってきましたが、メリザンドは
いつまで待っても、一向に姿を見せる気配はありません。

ペレアス
これが、最後の夜。 

今夜が本当に最後だ・・・全てがこれで終わるように、

けりをつけねばならないんだ。
でも、僕は負け犬のように、ここから逃げ出すようで
本当に、これで良いのだろうか?

しかし、、、父上は危篤から脱したのだから、僕が
これ以上、ここにとどまる理由は何もなくなったのだし・・・
・・・・・・・
いったい、メリザンドは何をしているのだろう?
もう、ここには、やって来てはくれないのだろうか?
このまま、会わずに旅立った方が良いのだろうか?

ああ、ひと目だけでも、その姿を見なければ・・・
僕はどうしても、彼女の姿を見納めなくては、
ここからは、旅立つ決心がつかないよ。

 

まだ、彼女には、言い残したこともあるのだし・・・
ああ、いったい何をしているんだ。 
この時間が何百年も離れているように感じてしまう。
苦しくて仕方がないよ。 会いたい どうしても・・・
早く、ここに来てくれないだろうか?

午前0時を過ぎれば、門は閉められてしまう。
そうすれば、彼女は、ここへは来られなくなってしまう。
もう、時間がないというのに・・・ いったい何をしている・・・
やはり来てはくれないのだろうか・・・ メリザンド・・

彼女を見納めたら、僕は今夜ここから旅立つんだ・・・


ペレアスは落ち着かず、辺りを何度も何度も往復しては
メリザンドの影が見えてこないかと、やって来るはずの
方向に目をやりながら、もう何時間も待ち続けていました。