(4、盲人の泉)

やがて日は落ち、海の上には満月が浮かびあがり夜も更ける頃、
ペレアスは盲人の泉で待っておりますが、 いつまで待っても
彼女がやって来くる気配はありませんでした。
城の門は午前0時になれば固く閉められてしまいます。
その時間は刻々と近づき、旅立ちは迫っておりました。
  
ペレアス
早くしないと、門が閉まってしまうよ。早く、はやく・・・来てくれよ   

メリザンド
・・・・・・・・・・・・・・      

ペレアス
あれ? ああ、、、、 おい、メリザンド、メリザンドかい?

 

メリザンド
ええ、そうよ。私よ。

ペレアス
よかった。そんな月明かりに照らされてしまっては、塔の窓から
君の姿が丸見えになってしまうかもしれないよ。もっと
暗がりに隠れた方がいい。さぁ、菩提樹の木陰にいこう。

メリザンド
でも、明るいところにいたいの。

ペレアス
だって、僕たちがここにいることが見つかっては困るじゃないか。

メリザンド
いっそのこと、見つかってしまった方がいいわ。
もう、お城には戻りたくないのよ。このまま、、、、

ペレアス
兄さんのことは、大丈夫だったのかい?
あと一時間もしたら、城門は閉められてしまうのに、
なんで、こんなに遅くなったの?

メリザンド
ええ、夫は深く眠り込んでいて、今は起きそうにないわ。
さっき、悪い夢でも見たのか、うなされて大声で寝言を言っていたわ。

それで、驚いて、しばらく様子を見ていたのよ。
寝静まったのを見届けて、慌てて急いで出てきたから、
ドレスを、釘に引っ掛けてしまって、ほら・・・ 破いてしまったわ。

ペレアス
まだ、息が切れているね。 大丈夫かい?

メリザンド
笑っているんでしょう?

ペレアス
笑ってなんかないよ。嬉しいんだよ。君が来てくれて。
本当は泣きたい気持ちなのに、会えて嬉しいんだよ。

メリザンド
ねえ、ここに来て遊んだ日のこと、あなたは覚えてる?

ペレアス
ああ、覚えているよ。
ねえ、なぜ、今夜ここに来てと言ったのかわかるよね。

メリザンド
そんなの、わかるはずないわ。

ペレアス
もうこれきり、君とは会えないんだよ。
もう、二度とこの城に戻ることはない・・・
それをしてはいけないんだ

メリザンド
あなたは、どうして、そんなことばかり言って困らせるの?

ペレアス
君こそ、なぜ、わかっているくせに知らないといって
僕にそれを、言わせようとするのさ?

メリザンド
・・・・・・・・・・・・・・・

ペレアス
そうか、君にはわからないんだね。 
僕が遠くに行かねばならない理由を・・・・ごめんよ。

ペレアスは、メリザンドを引き寄せて、強く抱きしめキスをしました。

ペレアス
好きだよ

メリザンド
私も・・・

ペレアス
今、なんて、言ったの?僕には聞こえなかったよ。
もう一度、聞かせてくれないかい?

メリザンド
お会いした時から、ずっと好きだったわ。

ペレアス
本当かい?君は、今、僕を喜ばせようとして
嘘を言ったわけではないよね・・・

メリザンド
私は、あなたに嘘をついたことなどないわ
夫にしか嘘はつかない・・・

ペレアス
ああ、僕も、君に出逢うまでは、こんな愛しい人が
目の前に現われるとは思っていなかったよ。愛しているよ。

二人は、じっと見つめ合ったまま、身じろぎもせず
愛の言葉をささやき合っていました。

ふたたび、ペレアスはメリザンドの肩を抱き寄せ、
頬を近づけて唇にキスをしました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらくすると、メリザンドの心が別の所にあることを
ペレアスは気づきました。

ペレアス
ねえ、君、今、何かほかの事を考えてた。どうしたの?

メリザンド

いいえ・・・・・・・・・

ただ、私、ここへ来るのが怖かったの。
なぜか、わからないけど、、、、とても、、怖いのよ。

ペレアス
おや? あれは、城の方から・・・音がするよ。

ほら、メリザンド 聞こえるかい? 

門を閉めるかんぬきの音が聞こえるかい?

メリザンド
ええ。門が閉まったわ。

ペレアス
ねぇ、メリザンド、、、、

もう手遅れだよ。 これでおしまいなんだ。

メリザンド
・・・・・・・・・・・・・・

ペレアス
二人とも城には戻れなくなったんだ・・・・ 

これでいいんだよ。
このまま、一緒に旅に出るんだよ。  

僕は、ぼくたちは・・・
これから、ずっと、君と一緒にいられる。 

ほんとうなんだ。

ねぇ、僕は嬉しすぎて息がつまりそうだよ。
これでやっと、僕らの未来が開けたんだよ。

わかるかい?

メリザンド
ええ

きっと、こうなったほうが良かったんだわ・・・

午前0時を過ぎて城の門は固く閉められ、とうとう城には戻れなくなり、
二人は一緒に遠くへ旅立つ決心をしたのでした。