5 章
1、城中の地下室
------ 一週間後 ------
城の地下室には女中達の作業場があります。
そこは薄日が差す程度のうす暗い部屋で、毎日のように
一週間前の事件のことについて、女中達はひそひそと
うわさ話をしておりました。
事件のあった朝方、老女中はいつもより早く目を覚まし、
地下蔵へ行くつもりでランプに火を点し、そのついでにと
門番に声をかけ、城門を開けさせたのでした。
- 女中たちの証言 -
その門の前で、メリザンド様とゴロー王子は折れ重なる
ように倒れておりました。それも、しっかりと抱き合って。
怯えた子供のように、そこで二人して倒れておりました。
メリザンド様は、殆ど死んだような状態でピクリともせず、
ゴロー王子は、腹の上から剣を突き立てたままの状態で見つかり、
敷居には、べっとりと血の痕がこびりついておりました。
まあ、驚いたことといったらありませんでした。
ゴロー王子は、自殺を図ろうと剣を突き立てたものの、
大柄で体格が良くて傷口も浅かったので、かすり傷程度
で済んでしまい、それもほんの数日で回復いたしました。
やれやれ、自殺未遂で終わったのでございました。
ところが、メリザンド様は意識はもうろうとしたままで、3日ほど前に、
かなり早産で弱々しい女の子を出産したのでございます。
これは神様のいたずらでございましょうか。
生まれたお子さまの表情は、なんともペレアスさまに
そっくりで、将来どんなに美しい女の子に成長するだろうと、
それは、それは、可愛いお顔をなさっておりましたよ。
なんてことでありましょうか。
母親は死の淵をさまよい、父親の姿もありません。
ペレアス様は、どこにおられるか?
城の誰もがあの日旅立ったのではないか、知らないと口々に申しておりますが
本当の事を誰もが口に出さないだけで、皆、知っているのでございます。
あの「盲人の泉」の底から見つかったことを。
あの疫病神の女さえ、この城にやって来なければ、
全ては何も起きなかったことであろうにと、
城のあちこちで、ひそひそとうわさ話は聞こえて
きておりました。