刑事裁判の判決が確定した後の,起訴事件の刑事記録の入手方法
上記プログより、一部引用
第2 刑事記録の閲覧・謄写に関する法律の定め
1 総論
(1) 刑事記録の閲覧は,刑事訴訟法53条及び刑事確定訴訟記録法4条に基づき,法律上
認められた権利であります。
ただし,憲法21条及び82条は,刑事確定訴訟記録の閲覧を権利として要求できる
ことまでを認めたものではありません(最高裁平成27年10月27日決定。
なお,先例として,最高裁平成2年2月16日決定参照)。
(2) 刑事確定訴訟記録法4条1項ただし書,刑訴法53条1項ただし書にいう「検察庁の
事務に支障のあるとき」には,保管記録を請求者に閲覧させることによって,
その保管記録に係る事件と関連する他の事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼす
おそれがある場合が含まれます(最高裁平成27年10月27日決定)。
(3) 刑事記録を閲覧した場合,閲覧により知り得た事項をみだりに用いて,公の秩序
若しくは善良の風俗を害し,犯人の改善及び更生を妨げ,又は関係人の名誉若しくは
生活の平穏を害する行為をしてはなりません(刑事確定訴訟記録法6条)。
2 訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者の閲覧
(1) 訴訟関係人の典型例は元被告人であります(最高裁平成20年6月24日決定参照)し,
元被告人の代理人弁護士も「訴訟関係人」に含まれると思います。
最高裁平成21年9月29日決定は,再審請求人により選任された弁護人は
「閲覧につき正当な理由があると認められる者」に該当すると判示しているものの,
当該事案の再審請求人は「訴訟関係人」ではなかったのかもしれません
(再審請求権者につき刑事訴訟法439条1項参照)。
(2) 訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者は,刑事確定訴訟
記録法4条2項各号に該当する場合であっても,刑事記録を閲覧できます。
ただし,刑事確定訴訟記録法6条の規定に照らし,関係人の名誉又は生活の平穏を
害する行為をする目的でされた刑事記録の閲覧請求は権利の濫用として許されない
のであって,例えば,関係者の身上,経歴等プライバシーに関する部分についての
閲覧請求は,当該関係者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的で
されたと認められる相当の理由がある場合,権利の濫用として閲覧を許可して
もらえません(最高裁平成20年6月24日決定)。
(3) 実務上,検察庁からは,身上・前科等のプライバシー部分については
そもそも閲覧・謄写の請求をしないように要請されます。
3 第三者の閲覧
(1) 以下の場合,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から
閲覧の請求があった場合を除き,閲覧できません(刑事確定訴訟記録法4条2項各号)。
① 保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
② 保管記録に係る被告事件が終結した後3年を経過したとき。
③ 保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなる
おそれがあると認められるとき。
④ 保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることと
なるおそれがあると認められるとき。
⑤ 保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害する
こととなるおそれがあると認められるとき。
⑥ 保管記録を閲覧させることが裁判員,補充裁判員,選任予定裁判員又は
裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。
(2) 刑事事件の判決書は,国家刑罰権の行使に関して裁判所の判断を示した重要な
記録として,裁判の公正担保の目的との関係においても一般の閲覧に供する
必要性が高いとされている記録ですから,プライバシー部分以外については,
第三者であっても閲覧を許可してもらえることがあります
(最高裁平成24年6月28日決定参照)。
ただし,刑事確定訴訟記録法4条2項の不開示事由は実務上,非常に広く解釈
されているため,少なくとも検察庁レベルでは,訴訟関係人以外の第三者が
刑事記録を閲覧することは非常に難しいです
(東京地検への閲覧申込みの体験談につき,週刊金曜日ブログの
「司法の秘密主義ってひどくなってないか」参照)。
(3) 市民グループの代表者として,国民・周辺住民の知る権利や平穏に生活する
権利を主張するにすぎない場合,第三者としての閲覧になります
4 閲覧を拒否された場合の手続
(1) 保管検察官は,保管記録について閲覧の請求があった場合において,
請求に係る保管記録を閲覧させないときは,その旨及びその理由を書面により
請求をした者に通知します(刑事確定訴訟記録法施行規則8条3項)。
そして,保管検察官の閲覧に関する処分について不服がある場合,
準抗告により,その保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所
(例えば,保管検察官が大阪地検に所属していた場合,大阪地裁)にその処分の
取消し又は変更を請求することができます
(刑事確定訴訟記録法8条・刑事訴訟法430条1項)。
(2) 保管検察官が閲覧を不許可とする場合,刑事確定訴訟記録法に規定する
事由を通知してくるだけです(最高裁平成6年2月24日決定参照)。
(3) 刑事確定訴訟記録法に基づく判決書の閲覧請求について,
「プライバシー部分を除く」とする限定の趣旨を申立人に確認することなく,
閲覧の範囲を検討しないまま,民事裁判においてその内容が明らかにされる
おそれがあるというだけの理由で同法4条2項4号及び5号の閲覧制限事由に
該当するとして判決書全部の閲覧を不許可とした保管検察官の処分には,
同条項の解釈適用を誤った違法があります(最高裁平成24年6月28日決定)。
(4) 地方検察庁に属する検察官が区検察庁の検察官の事務取扱いとして保管記録の
閲覧に関する処分をした場合、当該区検察庁の対応する簡易裁判所は、
法8条1項にいう「保管検察官が所属する検察庁の対応する裁判所」に
当たります(最高裁令和5年1月30日決定)。
5 保管検察官の謄写拒否は争えないこと
・ 保管検察官の謄写拒否は,刑事確定訴訟記録法8条1項にいう
「閲覧に関する処分」に当たりませんから,裁判所に対する準抗告により
争うことはできません(最高裁平成14年6月4日決定)。
第3 確定した起訴事件の刑事記録の閲覧・謄写に関する大阪地検の説明内容
1 令和元年12月24日付の情報公開・個人情報保護審査会の答申書
(大阪地検本庁において刑事記録の閲覧謄写申請手続に関して特定の運用を
していることが分かる文書)には以下の記載があります。
大阪地方検察庁本庁における不起訴記録の閲覧謄写申請に係る運用等について,
当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁は,おおむね
以下のとおり補足して説明する。
(ア)保存記録(不起訴記録等)の閲覧・謄写について具体的に定めた規程はない。
不起訴記録は,刑事訴訟法47条により原則非公開となるところ,同条ただし書に
該当する場合にのみ,例外として公開されるものであるため,その閲覧の可否は,
個々の事案ごとに検察官の合理的裁量によって決定される。
記録法や記録事務規程において,保管記録(刑事確定訴訟記録等)の閲覧・謄写の
手続が定められているため,同規程を準用して不起訴記録の閲覧・謄写の事務を
行っている。
(イ)審査請求人は,大阪地検の記録係職員から,上記第2の2記載の趣旨の説明を
受けたと主張しているが,記録係窓口に赴かない限り,刑事記録の閲覧謄写を
認めないとは言っておらず,審査請求人に対し,閲覧請求書等の窓口提出のため
と許可後の閲覧手数料納付のため,2度窓口に来庁するよう,お願いした
事実はある。
(ウ)上記(イ)の閲覧請求書等の窓口提出のためと許可後の閲覧手数料納付のため,
2度窓口に来庁するようお願いするなどの運用は,大阪地検独自の判断で
運用しており,根拠となる文書は存在しない。
(エ)上記のように運用している理由は,保管記録閲覧請求時には,記録法施行規則8条
(上記(ア)のとおり,不起訴記録はこれに準じて取り扱う。)により,請求書を
提出しなければならないが,運用に関して具体的な提出方法を定めたものはなく,
閲覧の許否の判断には,請求者の状態を含めて,正当な理由等の確認を行う
必要があり,郵送での取扱いは,なりすましや情報不足などの弊害もあるため
であり,大阪地検においては実務上,窓口での手続を行っている。
また,許可決定後の閲覧手数料(印紙)の納付については,
記録法施行規則13条により印紙収納を可能とし,刑事確定訴訟記録閲覧手数料令で
手数料を記録1件につき1回150円と定め,納付と閲覧の関係は,
記録法7条には「閲覧する者は手数料を納付しなければならない」,
記録事務規程14条3項には「納付されたときは,閲覧年月日を記入した上,
閲覧請求者に保管記録を閲覧させる」,記録法施行規則12条には「閲覧の日時,
場所及び時間を指定することができる」旨規定されており,手数料納付日に
指定場所での閲覧を定め,許可決定後に,指定場所で納付して閲覧させる
ことになるため,閲覧手数料は窓口で許可決定後に納付することになることを
原則として運用している。
窓口申請の協力をお願いしている理由は,本人確認の必要がある上,毎日多数の
記録閲覧の申請があるところ,その申請書等の記載内容等に不備があるものが
散見されることから,窓口において,全件,確認しているためである。
これらが全て郵送で申請されると,本人確認や書類の不備等の確認のため,
閲覧許可までの手続にどうしてもかなりの時間がかかってしまい,
こちらの業務のみならず相手方の業務にも支障が生じることになる。
また,手数料(印紙)の納付についても同じく,多数の申請分の印紙が全て
郵送されることになると,その管理や授受の明確性の担保のために時間を要し,
やはりお互いの業務に支障が生じることになることから,窓口に来庁してもらう
運用を執っている。
(オ)大阪地検以外の他の地方検察庁本庁でも上記(イ)ないし(エ)と同様の運用を
しているか否かについては,各庁の判断において運用しているものである。
2 大阪地検記録係の引継票も参照して下さい。