本作には、「感情を込めてはいけない」という一見奇妙な本読みシーンが登場する。

 

 

これは監督の濱口竜介が実際に行っている演出方法。

「濱口メソッド」とも呼ばれるその手法の目的は、まずは感情を抜いた音読によって台詞を体になじませ、演技の軸を作ること、と解釈できる。

 

「軸」を作るという意味では、ある種瞑想に近いのかも、とも思う。

 
 
そして興味深いのは、この物語内にも全体の「軸」の役割を果たしていると思わせる登場人物が存在すること。
 
三浦透子演じる「渡利みさき」がその人。

 

あらゆる感情が立ちあらわれては交錯する本作の中で、終盤までほとんどその感情を表に出さない彼女は、まさに我々の感情の「軸」、心のよりどころ。

 

そして彼女が感情を表に出すころ、我々もそれを受け入れる準備が整っている。

 

2時間59分の使い方として、これ以上ない至福の体験を与えてくれる見事な構成だと思う。