HR46:「時にはトラブルもあるけどね」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 ”10まんノック”の第2セットが始まった。正直まだまだ動きが良くなった自信は無いけれど、少しずつ野球部の雰囲気に慣れてきたような気もする。あとはレギュラー格の先輩たち、それから経験者のメンバーとどうやって打ち解けていくかだ。出来れば“カントリー・リーグ”の開幕までには今の状況が変わっていれば良いんだけど………。



 僕たちがCグループでノックを受け続けている間、他のグループも負けじと動きが活発になっていた。



 「はぁ………はぁ………。ラプ、これで何周目になるんだ?」

 「10周目よ。5分でこれだけ動くとさすがに疲れるわね」



 メンバー全員がレギュラー格のAグループ。普段からこのノックに慣れているとはいえ、今回は新しいメンバーの入部なども重なってなのか、よりハイペースになっているようだった。そのせいもあってか想像以上に疲れも溜まっている様子。だが、そこはレギュラーとしての意地なのだろう。誰一人としてリタイアをほのめかす様子は見えなかった。だが、積極的な姿勢もいつしか消えかかっていたのも事実。これにはノッカーであるキュウコン監督も檄を飛ばすことになった。



 「ボサボサするな!あれだけ新入生に偉そうな態度をしていたからには、しっかりと手本になるようなプレーをしてみろ!!」

 『は、はい!!』



 このときヒート先輩以外のメンバーが、彼に対して多少恨みを感じたことは言うまでもない。だが、そこは全員が同じ3年生。僕たちと同じ1年生だったときから苦楽をともにし、そして同じレギュラーとして“カントリー・リーグ”の優勝を目指してきた。その結果は昨年までは散々なものだが、生まれ変われる要素はまだ残っているはず。そのように考えた彼らは再びこの過酷なノックに挑むことにした!



 「まずはヒート!!お前からだ!!」

 「いつでもこーーい!!」



 キュウコン監督の言葉に“エース”が叫ぶ!次の瞬間、強い打球が低いライナーとなって飛んでくる!!



 「くっ!!嫌な打球だ!!」



 打球の高さはヒート先輩の膝辺り。進化前のヒトカゲにとっては、空に腕を伸ばす形でキャッチ出来る打球かもしれない。ところがリザードンという比較的体の大きい種族の彼にとっては、屈むような苦しい態勢になってしまう。こうなってくると赤いグローブでキャッチするタイミングがズレて、打球を弾く可能性もあるのだ。



    バシッ!!!

 「よし!!何とかキャッチ出来た!ラプ!!」

 「OK!!ナイススローイングよ!!」



 しかし、そこはレギュラーの意地だ。直後にグローブが乾いた音を鋭く放った。すかさず、だけど確実にボールを握ってキャッチャーのラプ先輩へと送球した!



 「やったぜ………………」



 新入部員を拒んでいる手前、ここで変なミスは出来ない。そのプレッシャーからか彼自身の感覚ではいつもよりも動きが悪いようなイメージがあった。だからこその安堵感。だけどこれで終わりではない。まだまだノックは続くのだ。



 「今さらバタバタしても仕方ないと思うんだけどね。どのみちどこかでタイムアップになるんだし、そこまで頑張るだけだ」



 代わって登場するのはジュジュ先輩。レギュラー組の中でも屈指の落ち着きがある彼にとっては、今のこの練習量が多くなっている状況もそれほど苦になっている様子はなかった。それよりもむしろ鍛練を重ねて、もっと自分の技術を向上したいようにも感じる。



 「行くぞ、ジュジュ!!」

 「いつでもどうぞ!!」



 両手を膝について中腰態勢。それを確認したキュウコン監督から声をかけられる。もちろん大きな声を出して。次に監督がコクりと小さくうなずき、空にポーンと白球を放つ!そしてそれが落ちてきたタイミングで、バットを振ったのである!!



    カーーーン!!

 「フライか!!しかし大したことはない!」



 打球の難度としてはそれほど高いものではない………そのようにジュジュ先輩は直感した。しかし数歩ほど後退する必要があるだろう。さすがにそこは特にフライの捕球能力が必要とされている外野手としての経験がモノを言った。落ち着いて落下点に入ると、夕暮れに染まりつつある空から落ちてきたボールを無難にキャッチした。



 「行くよ、ラプ」

 「ナイススローイング!」



 こうしてジュジュ先輩もこのターンでのノックをあっという間に終了させ、最後尾へと移動したのである。









 「よし、次は俺の出番だな。がんばるぞ………」



 続けてラージキャプテンに出番が回ってきた。他のメンバーに比べてやや守備練習を苦手な彼にとってこの時間はより長く、そして緊張感が強いことだろう。しかし、キャプテンという立場。変なミスは出来ない。何とか根負けしないように頑張らないと………彼は自分に言い聞かせる。そこへキュウコン監督の声が飛び込んできた。



 「ラージ、どうした!準備は良いのか!?」

 「あ、はい!大丈夫です!」

 「だったらちゃんと返事するんだぞ!」

 「はい!すみません!ちょっとボッとしてしまったので!俺はいつでも大丈夫ですから!」



 彼は集中力が散漫になったことを監督から指摘されてしまう。普段なら誰よりも真面目に練習をこなす彼だけに、周りのメンバーも少々驚いた様子だった。それでも彼は引きずることなくすぐに腰を落として、監督に準備が出来たことを伝えたのである。



     カーーーン!!

 「うわっ!!ライナーだ!!」

 「落ち着け!まず自分の頭を越えるのかそうでないのか、その落下点を判断するんだ!」

 「そ、そんなことわかっているんだよ!!」



 監督から放たれた打球は鋭いライナー。それも体が大きいラージキャプテンの頭上さえも越えてしまいそうな高さだった。ジュジュ先輩がアドバイスを送るが、正直それどころではない。むしろ大きなお世話にしか感じられず、苛立ちが募るだけ。そうやって気を取られてしまった結果、彼はボールをキャッチし損ねてエラーをしてしまう。



 「おい!何を初心者みたいなことしてるんだよ!?だらしねぇな!!」

 「うっせぇよ!ジュジュのヤツが余計なことしてくれたから気が散ったんだよ!悪いか!?」

 「何だよ!おまえキャプテンのくせにチームメイトに責任擦り付けるつもりか!?」

 「違ぇよ!!誤解してんじゃねぇよ!」

 「ちょっとアンタたち!また始まった!!」



 直後に罵声にも似た声を浴びたことで、彼はますます激昂する!そればかりでなくヒート先輩、ラッシー先輩と口論になってしまった!!ラプ先輩が呆れたように何とか口論を止めさせようと仲介に入る!…………しかし、それでも落ち着きを取り戻すことはない。とても野球の練習どころではない…………と、思われたそのときだった!!



 「う…………なんだ?か………体が言うことをきかない!!」

 「オレもだ!!」

 「一体何が起きたって言うんだ………あっ!!」

 「どうしたんだ、ラッシー?」

 「あれを見てみろよ!」

 『!?』



 口論になっていた三匹の体や意志が突如としてコントロール不能、つまり“こんらん”状態になってしまったのである!彼らはすっかり動揺してしてしまったが、それでもなんとか懸命に言うことをきかない体に命令し続ける!そんな中ラッシー先輩が何かに気づいたのか、目を大きく見開いて指差した。他の二匹も彼に続いてその方向に注目する。



 「か、監督!!?まさか“あやしいひかり”だったんですか!?」

 「なぜ、こんなことを!!」

 「う、うわっ!!」



 驚きの事実に三匹はますます動揺してしまう。なぜなら自分たちを支えてくれているキュウコン監督の目が炎………というよりも血の如く真っ赤にそまり、そこからなんとも形容しがたい光を発していたのだから。つまり、この三匹の口論を強制的に止めるために監督が実力行使に踏み切ったことを意味していた。



 「お前ら!!それでもチームメイトか!!?それでも“カントリー・リーグ”の優勝を目指せるとでも言うのか!?」

 『ぐあああ…………!!!』



 元来キュウコンは美しいしっぽに触れた者に千年の祟りを与えるという伝説が生まれるほど、執念深い種族として知られている。一度怒りに触れてしまうと取り返しのつかないことになることに繋がるのだ。



    バシャッ!!

 「”ハイドロポンプ”!!」

 「ぐわっ!!何をするのだ!?」

 「なんだ!?」



 更に波乱は続く。直後にシャズ先輩が繰り出した技でキュウコン監督がとんでもない量の激流をその身に受けてしまったのだ!!当然、種族的にニガテなみずタイプの技だったので、そのダメージは相当なもの。それでも普段から献身的にチームを支えている彼女だからこそ、この事態をいち早く脱出したいという想いがあった。柄にも無く、監督へと怒りの感情をぶつけていく!



 「監督!しっかりしてください!チーム内でまとまりが出来ないことに焦りはあるかもしれないですけど、ここで監督まで自分をコントロール出来なくなってどうするつもりなんですか!?」

 「シャズ…………」

 「皆さんもです!新入部員のメンバーが一生懸命チームに馴染もうと努力しているのに、正反対にお互いにバラバラになっているじゃないですか!!こんなことだから試合のときも、うまくいかないんですよ!!闘っているのはあなたたちだけじゃないんですからね!!」



 普段見せないマネージャーの怒りの姿に、誰もが驚いてしまう。そして冷静さも取り戻す。



 「悪かったよ。ゴメン…………ついつい熱くなっちまった」

 「結果が悪かったら野球部が無くなるって思ったら不安になってね………」

 「俺もだ。いつもなら気にしないことなんだが、ピリピリしてしまった…………」



 肩を落としながら反省の弁を口にするメンバーたち。ところがただひとり……………そう、キュウコン監督だけは特に何もそのような言葉を口にすることもなく、ただブルブルと大きく体を左右に揺らして、全身の毛が含んだ水分を吹き飛ばすことに徹底していた。まるで、自分には何も非が無いとでも言うように。



 「ちょっと監督!私の話、ちゃんと理解して頂けたのですか!?」



 これには普段温厚なシャズ先輩も納得出来ない様子。いつになく強めの口調で詰め寄るが、それでも微動だにしない監督の姿がそこにはあった。



 「……………練習を続けるぞ、次!!」

 『え!?』



 もはやキュウコン監督にはレギュラーの力の底上げしか考えていないようである。









 「ラージの次ってことは俺か!!シャズが言うように、新入部員のヤツらは努力している。俺たちも根性見せねぇとなぁ!!よっしゃ、来いやーーー!!!」



 そんな重い雰囲気はすぐに払拭されることになった。そう、この野球部の4番打者、すなわち主砲を担う熱きムードメーカー、ラッシー先輩がのっしのっしと登場したからである。まるで業火のような赤いグローブを左手にはめて、噴火のように声を轟かせる。これにはキュウコン監督もニヤリとわずかながら笑顔を見せた。



 「その意気だ。それでは行くぞ!!」



 一呼吸置いて監督がポーンとボールを高く上げ、それが落下してきたタイミングでバットを振る!!直後に「カーーーン!!」という快音が鳴り響いた!!



 「低いライナーか!!?おりゃああああ!!」



 このとき放たれた打球は、ラッシー先輩の膝元くらいの高さのライナー。つまり急いでダッシュしないとキャッチするのは難しかった。それでも元々スピードには自信があり、これまで外野を守っていた彼にとってみれば、そこまで難しいものでは無いようにも感じた。



 (キャッチ出来ようが出来まいが、簡単には見切りつけたりしねぇよ!!これが試合だったから、コイツでアウトカウントを稼げるかどうかで、バッテリーの負担を軽く出来るかもしれねぇんだからよ!!)



 練習で出来ないことは試合では出来ない。彼自身はそのように感じていた。だからこそどんなときでもそのとき出せる力を全て出し尽くすつもりでいた。そうやってレギュラーを掴み取ったのだから、なおさらその想いは強いだろう。



 (く、間に合わない!!こうなったら!!)

 


 しかし、予想よりも早くボールは地面に弾みそうだった。そのことから彼は目一杯に左腕を伸ばし、頭から地面に飛び込む形でキャッチを試みた!果たして結果はどうなるのか!?メンバーの視線が集まる…………。



    バシッ!!!

 「あっ!?」

 『!!』



 残念ながらボールはグローブの中に収まらなかった。そればかりか勢いよく跳ね返って緑の芝生へと転々してしまったのである。



 「ちきしょう!ダメだったか!!」

 「ラッシー、ドンマイよ!!」



 慌てて起き上がり、ボールを捕りに行くラッシー先輩。その悔しさをぶつけるように目一杯の力を込めてラプ先輩へと送球した!!もちろん彼女にもその想いは強く伝わっており、そのボールをキャッチすると励ましの言葉をかけたのであった。その言葉を噛みしめるように彼は最後尾へと向かった。



 「もうー。みんなどうしちゃったのさー。元気出して頑張ろうよー」



 最後に登場したのはランラン先輩。普段はのんびり屋さんで、Bグループにいるチック先輩と同じく野球部の癒し系キャラ的存在。そんな彼女でもこの重苦しい雰囲気には動揺を隠せずにいたようである。それでも………苦笑い程度だったとしても、彼女なりに明るくしようと努力していた。



 「とりあえず頑張るぞー!!こーーい!!」

 「ランランか…………よし!」



 元気よく声を出すランラン先輩の姿を見て、コクりと頷くキュウコン監督。直後に「カーーーン!」という音と共に、打球が彼女に向かって飛んでいった!!!



 「あ、ゴロだ!!!えーい!!」

 「ランラン、がんばってー!!」



 ランラン先輩と仲の良いラプ先輩が声援を送る。人間の世界で言えばアンコウの姿…………つまり魚類のポケモンである彼女にとって、それでなくても陸上での移動は容易では無い。事実この場面でも外の陸上で暮らすポケモンであれば数歩移動しただけで追い付き、そのままボールが転がってくるのを待っているだけで大丈夫な簡単な打球。



 でもランラン先輩にはバタバタと両ヒレを動かしてちょこちょこ移動しないといけないので、ギリギリその打球に追い付けるかどうかのタイミングになっていた。



 「がんばってー!!ランラン!!」

 「よいしょ!よいしょ!!」



 同じように陸上での移動が得意ではないラプ先輩には、彼女の大変さは痛いほど共感できるものだった。だからこそ応援したい気持ちは誰よりも強い。何より自分に「野球」というスポーツを教えてくれた存在だから。



    パシッ!!

 「や、やった!なんとか追い付いた!!」

 「ナイスキャッチ!!そのままよ!!」

 「うん!!えーい!!」



 そんな後押しもあったおかげだろうか?ランラン先輩はなんとかボールに追い付くことが出来た。そのままの勢いでラプ先輩に向かって送球する!!



     パシッ!!

 「ナイススローイング!!」

 「やった!!」



 その送球もラプ先輩が構えた青いミットへドンピシャに決まった!さすが普段はマウンドから18.44m離れた場所へ投げているだけあって、コントロールは他のメンバーよりも正確だった。



 「なんとか今回も1周出来たか………。まだまだ時間はある。続けるぞ!!」



 途中アクシデントがあったとはいえ、この時点で練習開始から8分。残り12分も残っている。レギュラークラスのAグループのメンバーはまだ疲れに負けるわけにはいかなかった。






 「さぁ、他のグループに負けないように元気よく頑張るよ~!!」

 「挑むところだ!!」

 「オーー!!」



 重苦しい雰囲気が立ち込めているAグループと比べて、最もこの練習を楽しんでいるグループがBグループだった。何せ野球部で一番野球を楽しんでいるチック先輩、それから打倒レギュラーを目論んでいるルーナが協力してムードを盛り上げているのだから。



 (本当にこのグループで良かった。野球ってこんなに楽しいんだな♪)

 (私でもレギュラーになって試合に出られるなら頑張れる!)



 ロビーとララも笑顔が弾けている。ノックを受ければ受けるほど、その動きも軽やかになっているような印象を受けた。



 「練習開始10分で10周!なかなか良いペースじゃないかな!!11周も頑張るよ!!」



 ます先頭として颯爽と登場したのはラビー先輩。元々サッカー部ということで瞬発力や体力はなかなかのもの。この時点で疲れは全く感じていないようだった。



     カーーーン!!

 「フライだね!!これくらいなら少し下がればキャッチ出来るよ!!それっ!」



 ノッカーを務める“みがわり”から打球が放たれた。目論見通り、高々とオレンジ色に染まりつつある空へとボールは吸い込まれていく。眩しい光でボールが見えにくくなっているそんな状況の中で、彼女は落下点を予測して動く!



 「大丈夫か!?」

 「平気だよ!!サッカーでも高くボールが上がる場面はあったんだから心配するな!!」

 「いや、ボールのサイズが違うだろ!?」




 ラビー先輩の自信に満ちたコメントに、ルーナが思わずツッコミを入れてしまう。野球経験が長くても日差しが目に入って打球を見失い、思わぬ落球エラーをしてしまう…………ということも知っているが故の、彼の心配も杞憂のようだった。



 (まあ、アイツが大丈夫ってなら任せた方が良いか)

 「よっしゃ!!キャッチ出来た!!行くよ、ユーマ!!」

 「ああ!!いつでも来やがれってんだ!!」



 直後に「パシッ!」という乾いた音が響いた!!すぐさまそのボールをユーマ先輩へとジャンプしながら力強く送球する!



 「良いぞ!ナイススローイング!!」

 「よっしゃ!!」



 その場でガッツポーズを見せたラビー先輩。手応えをさらに感じて、駆け足で最後尾へと向かうのであった。



 「次は僕の出番だ!!リズム良くいかないとね!!こーーい!!」

 『頑張ってくださーい!!』



 続けて登場したのはブイブイ先輩。同学年であり、同じ初心者という立場のラビー先輩の活躍に刺激を受けている様子だった。そのおかげなのか自然と声も大きくなっているような気もする。そして何よりもこのグループで野球の楽しみを知ったロビーとララの声援も一段と大きかった気がした。



    カーーーーン!!

 「よし、ゴロだ!!!」



 直後にみがわりから打球が放たれる。さほど難しいものでは無いだろうとラビー先輩は判断する。確かにそれなりのスピードはあったが、数歩右寄りに動けば体の正面でキャッチできた!



 「ナイスキャッチ!!」

 「ありがとうね!!いくよ!!」

 「お、良い送球だね!!」

 「ヘ!どんなもんだい!!」



 ボールをつかんでからユーマ先輩へと送球するまでもリズムが良い。そのことが経験者であるチック先輩にも好印象に繋がった。これで彼女はますます得意気になり、自信にもなった。







 「次は僕の出番!!がんばるぞ~!」

 『がんばれー!!』



 続けて登場したのはブイブイ先輩。こちらもラビー先輩、ルーナに負けじとハイテンションを保ったままだった。背に受ける歓声もターンを増すごとに大きくなっていく。




       カーーーン!!

 そんな中みがわりから放たれる打球。今回は高く空へと吸い込まれていくようなフライ。四足歩行である彼にとっては、周りのメンバーより視線が低い分、余計にボールと夕日が重なって落下点の見定めがより難しいように感じた。



 「だけど、スピードじゃ負けないよー!!」

 「!?」



 しかしサッカー部で鍛えた瞬発力であれば、多少の感覚のズレも気にするレベルじゃなかったようだ。更にふわっと高い軌道を描いた分だけ落下するまで時間を費やしたことも、有利に働いた。文字通り彼は“でんこうせっか”のごとくボールの落下点までたどり着き、左の前足にはめた茶色のグローブで難なくキャッチしたのである!



 余談だが、手にはめるタイプ、足にはめるタイプ、ヒレや翼にはめるタイプ…………それぞれの種族に合わせたグローブが使われている。だからブイブイ先輩やチコっち、ランラン先輩などのメンバーもボールのキャッチに関して不利になって無いのでご安心を。



 ………?気のせいかな?「何で私を例えに使うのよ!」って、チコっちの不機嫌そうな声が聞こえたような………。




 「行くよ、ユーマ!!」

 「よし、ナイススローイング!!」



 その後素早くブイブイ先輩が送球する。それなりに勢いもあり、ちゃんとユーマ先輩がミットを構えた位置へと届いた。まだまだ慣れていない部分も多いとはいえ、確実にその技術は磨かれているようだった。








 「それじゃあ次はボクの出番だね~♪」

 「頑張ってください!!」

 「もちろんだよ~♪ワクワクするな~♪」



 続けて登場したのはチック先輩だ。毎度おなじみのようにルンルン気分でクルっと一回転してから、打球が飛んでくるのを待つ。



     カーーーン!!

 「バウンドだ!!よーし!!」



 準備が出来たと判断したのだろう。“みがわり”がチック先輩に向かって打球を放つ!!今回は勢いもあり、ボールが弾むタイミングが掴みにくいものだった。それでも彼は動揺することもなく、そのバウンドにうまくタイミングを合わせてボールをキャッチ!!



 「いっくよー!!それ~!!」

 「ナイススローイング!さすがッスね!!」



 その後の送球も見事だった。キャッチしてからボールを持ち変えて投げる………そういう流れなのだが、彼の場合は一つ一つの動作にとにかく無駄がない。やはり専門職であるサードは一塁ベースから遠く離れているポジションだから、わずかな遅れでセーフになってしまう可能性があるのだろう。そのボールもきちんと狙ったところへ決まったので、ユーマ先輩もラクにキャッチ出来たのである。



 「次は自分の出番ですね!」

 「頑張ってくださいね」



 次に登場したのはメガネをかけたツタージャ、ロビー。先輩たちのプレーに勇気をもらったのか、初めの頃よりも表情がだいぶ明るい。ララもリラックスしているのか、そんな彼のことを自然と笑顔で励ましていた。



 「さぁ、いつでも来てください!!」



 ロビーの言葉に準備が出来たと思ったのか、“みがわり”がコクりと頷いた。その次の瞬間、白球をほぼ夕焼けに染まった空に向かってポーンと放り投げる。そして落下してきたタイミングでバットを振り抜き、彼のもとへと弾き返したのである!!



 「ライナーですね!!任せてください!」



 かなりスピードがあり、それも自分の背丈の倍の高さのライナーだった。それでもロビーはバタつくことはしない。きょうの部活がスタートしたときの“おくびょう”な雰囲気はそこには無く、むしろ冷静に対処できる自信を持っていた。



 「えーーい!!」

 「!!」

 


 そう、彼は打球が自分のところに到達するタイミングで思い切りジャンプをしたのである!!そして左手にはめた緑のグローブで白球をガッチリとキャッチする!!



 「離すもんか!!」



 それなりに打球の勢いも強いので、反動でロビーもズリズリと後退りしてしまう。それでも彼はグローブからボールをこぼすことはなかった。やがて勢いも落ち着いて後退りも収まる。



 「よーし今だ!えーーい!!」

 「ナイススローイング!!」

 「良いよ!その調子!」



 絶妙なタイミングでロビーはユーマ先輩へと送球した!!さすがにチック先輩に比べたらまだまだボールの軌道も山なりを描き、勢いもさほど強くはない。けれどもちゃんとユーマ先輩の構えた青いミットに到達させる正確さが出てきたことに関して、チック先輩は評価したのである。



 「ありがとうございます!!チック先輩のおかげで何だか少しずつ自信が出てきました!」

 「その気持ちって凄く大事だよ♪思いきって体も動かせるようになるし、ボールを怖がることも無くなるからね♪」



 ロビーの嬉しそうな様子に再びチック先輩が満面の笑みを浮かべ、このように説明するのであった。








 「お疲れ様。私もロビーさんに負けないように、頑張らなくちゃ………」

 「大丈夫だって。そんなに背負わなくても。緊張してるならそのまま緊張した状態で、自分が出来ることをやれば良いんだよ」

 「だと良いんだけど………」



 ロビーが背中を後押ししても、ララの不安が消えることはなかった。



 「(と、とりあえず頑張るしかない………)き、来てください!!」



 彼女の言葉にコクリとうなずく“みがわり”。その次の瞬間、自分のいる場所から右方向へ10mは離れている場所に向かって強いゴロが放たれた!!!



 「きゃ!ま、間に合うかな!?」

 「が、がんばれー!!」



 その打球に動揺したせいか、一瞬ララは身動きが出来なかった。そんな彼女のことをロビーが声援で後押しする。



 「無理!絶対追い付けない!!」

 



 それでも一歩目が遅れた影響はかなり大きい。打球はあっという間に彼女の右側を転がってしまったのである!ガックリと項垂れていたララだった…………しかし!



 「ちくしょう!!たぁぁぁ!!」

 「え!?」



 そんな彼女を見ていられなかったのか、突如として最後尾にいたロビーがそのボールをキャッチしたのである!!



 「よっしゃ!!ララ!!受け取って!!」

 「あ、ありがとう…………」

 「ナイスカバー!!」

 「やるねぇ、新一年生!!見直したよ!」



 息を切らせながらロビーがララへと送球する。もちろん彼女には自分を助けてくれた理由は知る由も無く、ただただポカンとするばかり。その周りのメンバーも一瞬静けさを保っていたのだが、直後に賞賛の声をロビーへと向けた。



 「ありがとうございます!この調子でドンドンと自信をつけていけるようにしたいですね!」



 “10まんノック”第2セットも終盤へ。ひとつの若芽が確かに成長を始めていた。



 春の夕焼け空の先にある、栄光に向かって。



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