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ぼくは本当に人間だったのだろうか。もしあの「もうひとつの性格」が自分の本当の姿だったらどうしよう…………。いやだな。そんな風に思いたくないな。でも何もわからない間はきっとこの不安と隣り合わせなんだろうな。
「やった!これがあれば…………!!!お願い、私に力を貸して!!ススムとココロちゃんをサポートする力を!!」
ダンジョン内に住むポケモンたちの話を耳にして、私は先回りしようと急いでいました。そんなとき飛び込んだ部屋の足元に落ちていた道具。それこそが“あつまれだま”と呼ばれる種類の“ふしぎだま”でした。
(これを使えば同じチームの仲間を自分のいる場所へワープさせられる。ススムやココロちゃんを探す時間や体力も省けるし、他のポケモンと遭遇してバトルになるリスクも負わなくて済む…………!!)
天井に向けて大きく伸ばした右手。しっかりと握ったその球から、首に巻いている青いスカーフと同じような………まるで青空のような眩しい青い光が放たされる!!!
「お願い!!臆病者な私に力を貸して!!」
さっき話をしていたようなポケモンたちに立ち向かって行く手を阻むことで、傷ついている仲間をフォローするのが本当の探検隊としての姿でしょう。きっとススムやココロちゃんならそうしているに違いありません。
………でも私にはそんなバトルの実力もないし、立ち向かっていくだけの気持ちの強さもありませんでした。知識や興味だけでは仲間を助けることは出来ないんだ………そんな現実を突き付けられたような気がして、私は悔しくてたまりませんでした。
だからこそせめて別の方法で仲間を助けなきゃいけない。自分に今出来ること………つまり、探検隊に憧れて勉強してきた知識を使って。それが今出来る場面だから。絶対にチャンスを逃したりしない!そうやって色んなことを祈るような気持ちで考えていたら、その想いが声となって出てくるのでした。
“あつまれだま”が光出してから一呼吸置いた後でした。段々とヒトカゲの形をした光、それからカラカラの形をした光がぼんやりと私の前に現れたのです。二匹の首の辺りにスカーフの形のような光もボンヤリと見えてきたところを見ると、ススムとココロちゃんで間違いありませんでした。
「ススム!!ココロちゃん!!」
私は二匹の元へ駆け寄りました。時間が経つに連れて体がハッキリとしてきて、その代わりに光は段々と消えていくのを感じながら。一方でススムとココロちゃんは一体何が起きているのか理解できず、しばらくその場でキョトンとするばかり。
なので私は彼らに事情を説明するのでした。すると二匹は納得出来たように頷いたのです。そしてこのように言うのでした。
「そうか………じゃあその“あつまれだま”ってアイテムを使ってくれたおかげで、ぼくたちも間一髪助かったってことなんだね」
「そうですね。ソラさん、ありがとうございました♪」
「いやいや、そんなに褒められちゃうと恥ずかしいな/////////。それよりもココロちゃんの毒が治ったり、ススムのケガが治せたりすることが出来たから良かったよ。ちょうどよくたくさんアイテムを拾っていたから……………」
まさかお礼を言われちゃうなんて思いもしなかったので、私は照れくさくなって赤くなってしまいました。でもこうやって、自分の頑張ったことで誰かが喜んでくれることって、こんなに嬉しいんだなって思いました。
……………そしてこのように考えたのです。
(やっぱり私は一歩後ろに下がってススムやココロちゃんをしっかり支えられるようになろう。その方がきっとココロちゃんともススムのことで言い合いにならないで済むから)
だけどこの決意にも全く不安がないわけではありませんでした。私がちょっと控えめに行動することで、ススムの気持ちがココロちゃんに傾くのが怖かったのです。この“トゲトゲやま”に入ったときに冷たくされてしまったのですから、そんな気持ちになっても仕方ないでしょう。
ふざけるな!!ソラはぼくの大切な“友達”……………いや、絶対に守らなきゃいけない………ぼくの好きな女の子なんだ………!彼女は探検隊の楽しさをぼくに教えてくれたんだ!ぼくはそんな彼女の楽しんでいて優しくしてくれる笑顔が好きなんだ!そんなソラの笑顔を守るためなら…………どんな相手であっても戦う!!
(…………大丈夫だよね。だって昨日アーマルドに襲われたときに必死になって守ってくれたし、ハッキリと私のことを好きって言ってくれた…………だからススムの気持ちを信じても大丈夫だよね?いや、信じなきゃ…………。私自身が)
元気になった二匹が喜ぶ様子を見ながら、そんな風に私は複雑な気持ちを抱いてました。でもここで迷っている方が、“リーダー”を支える“パートナー”としては賢明ではないと思い、強く気持ちを持とうと考えたのです。
…………そのときでした。ススムが私の名前を呼んできたのは。思わず私は彼の目をまじまじと見つめてしまいました。一体何を言われるんだろうと不安な気持ちを抱きながら。
「ソラ、ゴメンね。さっきは酷いこと言ってしまって。わかって欲しかったんだ。ぼくのことだけじゃなくて、ココロのこともちゃんとサポート出来るようになって欲しいって」
「ススム………うん!大丈夫だよ。私もそうなれるように頑張ってみるから!だって同じ“トゥモロー”の仲間だもんね」
「ソラさん………」
ススムのその言葉に私は安心感を覚えました。彼も考えていることが同じだったから。これで自信持って自分の役割に集中出来ると思い、自然と彼が好きでいてくれる笑顔になれるのでした。
「さて、みんな揃ったところだ。もう一度頂上目指して頑張っていこう!!」
『うん!』
元気を取り戻したぼくたちはもう一度気持ちを入れ直して歩き始める。次の2階につながる階段を目指して。ソラに忠告されたように、他のポケモンと出会わないように気を付けながら。とりあえず全員が揃った部屋を出て、もっと先の道へと進む。
(少なくともぼくやココロより歩き回っているであろうソラでもまだ階段は見つけてなかったんだ。注意深くよく周りを見て探していかなきゃな…………)
ぼくは難しい表情をしてしまう。少し歩いていくと、また目の前に左右に伸びる通路が見えてくる。とは言っても左側は行き止まりになっている様子が確認出来たので、右側へと向かった。そこを進んでいくとさらに右側へと道が出てきた。いわゆる丁字路みたいな場所である。
「どっちに行きますか?」
後ろからココロが話しかけてくる。正直迷いどころだ。でも何となく嫌な予感がしてまっすぐ進むと、ワープする前の場所へ繋がりそうな気がした。ソラの話から推測するに、恐らくダンジョンに住むポケモンたちはボクたちがいた場所を中心に探し回っているはず。ここは自分のこの嫌な予感を察した感覚を信じてみることにした。
「よし!右に行ってみよう!!」
「はい!」
自分の決断に背後にいるココロは従ってくれた。ソラは恐らく彼女にいてサポートに徹してくれているんだろう。特に返事はなかったけれど、彼女なりに一生懸命チームに尽くしてくれるはず…………そうやって信頼してあげて、特に振り返ることもせずにぼくは先を急ぐ。
「あっ!階段だ!!」
「凄いですね、ススムさん!!ビックリしちゃいました!!」
「私も!!これで2階に進められるね!」
どうやらその判断は吉と出てくれたようだ。曲がってまもなく見つかったさほど大きくない部屋。そこに飛び込んでみると探していた階段が見つかったのである。嬉しさのあまり気持ちを爆発させてハイタッチをするぼくたち!!…………と、そのときだった!!
「あっ!!お前ら探検隊だな!」
「もう逃がさないぜ?」
「いけない!」
「見つかっちゃった!?」
「早く階段を上らなきゃ!!」
後ろからぼくたちを追いかけてきたと思われる住民のポケモンたちが姿を現した!慌ててぼくを上っていく!ソラもココロも後に続いたのであった!!
「…………ふうっ。危ない危ない」
「間一髪のところでしたね」
「うん………」
ここは2階。ぼくたちはさっきと似たような大きさの部屋の中で座り込み、呼吸を整えていた。階は変われど、辺りは特に変わった様子は見られない。それよりもぼくらさっき遭遇したポケモンたちが1階からやってこないか心配で、しばらく階段から視線を離すことが出来なかった。するとそんな様子が可笑しく感じたのか、ソラが口元を押さえてクスッと小さく笑い出す。ぼくは思わず恥ずかしくなってしまった。
「な………なんだよ、ソラ!!」
「ススムってなんだか純粋なんだなって」
「はぁ!!?」
ますます恥ずかしい。だって真剣なのにからかわれた気がしたから。自然と声が大きくなってしまう。ココロがオロオロとぼくとソラの顔を行ったり来たり眺めて何か声をかけようとしているのも目に入った。
「ほーら、ススムってば!!すぐそうやって怒り口調になるんだから。ほのおタイプだから仕方ないことだってわかっているけど、少し落ち着いて最後まで話聞いてよ」
「ゴメン…………悪かった」
ぼくが謝罪したことで安堵したのか、ココロがホッと一息をついた。ソラは困ったような表情だ。確かに冷静に考えれば、本気で彼女がぼくのことを小馬鹿にするなんて考えられにくい。それなのにイチイチまともに受け取る辺り、良くも悪くも“すなお”………つまり純粋なな性格なんだろうなって認めざるを得ない。
「きっとココロちゃんなら知っていると思うんだけど、階段を使って移動をするとダンジョンの造りは変わっちゃうんだ。だから下のフロアのポケモンたちも目の前から階段が消えたり、あるいはグループもランダムにバラバラにワープされていると思うんだ。それに追いかけてきたとしても、元の場所に帰れない可能性もある怖さもあるから、ほとんど上下のフロアを移動するポケモンはいないと思うよ」
そうか。だからソラは微笑ましい感じでぼくを見ていたんだなぁ。納得。
「そうなんだ。じゃあ気にすることも無いんだね」
「ですね。あたしもダンジョン内でよく修行していましたけど、前の階からポケモンが追いかけてきたって経験は無いので大丈夫だと思います」
「そうか。ココロがそうやって言うなら、間違いないだろうね」
「え~!?もしかしてススム、私のこと疑っていたの?」
「違うよ!!変なこと言わないでよ!」
「フフフ、ススムさんってば可愛い♪」
「か、可愛い!?ココロまでボクのことからかうの?」
「ウフフ、冗談ですよ♪本当に“すなお”なんですから♪」
「もう………仕方ないなぁ………」
ぼくは呆れながらも自然と笑顔が溢れてくる。しかし、ソラとココロのおかげでまたダンジョンのことを勉強になったのは確かだ。まだまだ覚えることはたくさんありそうだなと思ったけど。仲間をまとめて守り抜く“リーダー”という役目を果たすためにも、少しずつでも理解していかないと…………なんて思った。
…………まあそんなこんなありながら、ぼくたちは階段のあった部屋を抜ける。先程の部屋は前後に道があったが、ここはひとまず前の道を進むことにしてみる。するとそんなに歩くこともなく、次の部屋に突入することができた。
(ここには…………何にもないか)
特に気を止めることなくその部屋を抜け、ぼくたちはその先の道をひたすら進む。途中に右側にだけ分かれ道が続く交点もあったけど、迷いはなかった。そうしているうちにやがて直進は行き止まりになり、ぼくたちは右へと曲がっていった。ここまで特に他のポケモンと遭遇することはなく、むしろ静か過ぎるくらいで不気味な感じがした。
(また右側と直進しか道がないや。右に進むか…………)
次に見えてきた交点をまた右に曲がる。この2階フロアの外周部分をぐるっと回るようにして歩いてきたんだなと、なんとなく理解したからである。だから直進したところでいずれまた行き止まりの予感がしたのである。
「おい!!探検隊がいるぞ!!」
「追い出せ!追い出すんだ!!」
「前からポケモンたちが来た!!二人とも、戻るよ!!」
ぼくの指示に彼女は小さく頷く。そうして進んできた道を引き返す!本当ならどこか広い部屋があればバトルをしやすいのだろうけど、そんな場所は存在しない。だとしたら丁字路みたいな通路でバトルをした方が良いだろうとぼくは考えたのである。三方向を一匹ずつでガッチリ構えることが出来るのだから!
「1階のヤツらが騒がしいから何事かと思ったが、お前らの仕業だったんだな。覚悟しろよ!」
「うるさい!!ぼくたちの意見も聞かないで勝手に判断するな!!“ひのこ”!!!」
「うわっ!!やりやがったな!?“けたぐり”!!」
「ぐあっ!!負けるもんか!!」
その考えを実行できる場所にたどり着いたぼくは、追ってきたワンリキーとのバトルに専念した。背後の左右に伸びる交点では左側にソラ、それから右側にはココロが構えてくれている。この作戦が上手くいけば、それぞれどのポジションにいても背後から攻撃されることが無くなり、自分の目の前にやってくるポケモンを倒すことに専念すれば良くなる。つまりお互いに周りを気にすることなく、任されたポジションや役目ををガッチリこなしていく…………これだって立派なチームプレイなのだ。
「ススム、大丈夫!?」
「ススムさん、無茶はしないでくださいね!!」
「ありがとう!!」
とはいっても、やはりソラとココロは自分のことを心配してくれた。それがぼくには凄い安心感を与えてくれる。だからこそ頑張っていける。だからこそ……………
(ぼくは二匹を守りながら強くならないといけないんだ!!!)
もはや燃え上がる炎の塊は、“ひのこ”とはケタ違いの大きさになっていた。自分の感情がしっぽの炎に反映されるような仕組みで、自分の技にも反映されているのだろうか。よくわからなかったが、この炎はあっという間にワンリキーを飲み込んでK.Oした。後ろにもう一匹ワンリキーがいたのだが、予想外の結果に戦意喪失したのか「うわあああああ!!逃げろおおおおおおおお!!」と、その場から逃げ去ったのである。
「良かった………さぁ先を急ごう」
「うん!」
「そうですね!」
部屋に通じる道ではなく、今度はまっすぐ進むことにしたぼく。その後ろにココロ、それから全体をサポートすべくソラが一番後ろを歩く。だけどこの陣形にココロがこのように意見してきた。
「ソラさん、あたしと場所を入れ替えませんか?」
「え?良いの?」
「勿論ですよ。あなたは“リーダー”を支える“パートナー”ですもの。ススムさんからそんなに離れているとサポートするのが難しいでしょ?」
「ココロちゃん…………」
「ココロ…………」
意外だった。それまでぼくの周りのポジションを巡ってソラと言い合いをしてきたココロが、自らの意志で場所を入れ替える提案をしたのだから。これにはソラも思わずキョトンとしてしまう。
「ほら。何をしているんですか?」
「でも…………そうしたらココロちゃんが」
「あたしのことは気にしなくて良いから…………ね?」
気にしなくても良い…………そう言いつつもココロの表情は決してスッキリしたような感じではない。チラッとぼくの方をちょっとだけ顔を赤くしながら寂しそうに見つめた辺り、苦しい決断だったのかもしれない。だけど次にソラの方を振り返ったときにはニッコリとした笑顔だった。
「ココロちゃん…………うん。わかったよ♪ありがとう」
ソラもココロの気持ちを察したのか特に理由を尋ねることもなく、彼女と場所を入れ替えた。満面の笑みを浮かべながら………………。
だけどこういうしんみりとした話にはオチをつけないといけない………………え、どういうことなの作者さん?
「でも、ダンジョンの中だけですからね。ギルドの中ではあたしがススムさんの“パートナー”になって、そばにいさせて頂きますから♪」
「え!?もうっ!!!ココロちゃんってば!!!」
「約束ですよ♪………ね、ススムさん?」
「えっ?あ、ああ…………二人が良いなら別にぼくは良いけど………」
「良かったぁ~♪決まりですね、ソラさん」
「もうっ!!ススムまで!!いじわる!!もうだいっきらい!!!」
「そんなぁ~」
「ウフフ」
ココロの一言でソラがリンゴのように真っ赤になってしまった。さらにぼくの曖昧な返事がアクセントになってしまったのか、彼女はますます機嫌を損ねてしまったのである。
(やれやれ、これじゃ探検活動っていうよりピクニックだよ………。でもまあいっか………。ソラもココロも楽しそうだし、ぼくも楽しいし)
嫌なこともあるけど、それより楽しい時間がもっとたくさんあれば良いな。そんな風に思いながらダンジョン内を進むのであった。
「よし。3階に来れたね」
「うん、でもまだ先は長いから気をつけて行こう」
「ソラさんの言う通りですね」
それから2階では特に目立った出来事もなく、思っていたより早く階段を見つけることも出来た。思わず嬉しくなってみんなでハイタッチをしたのはいつものこと。そうしてから上ってきたこのフロアも、これまでと特に変化がある様子は見られない…………と、思ったのも束の間。
「いた!!アイツら探検隊だぞ!!」
「待てドードー!!ピカチュウがいるぞ!近寄るのはあぶねぇ!!“どろあそび”!そして“どろかけ”をお見舞いだ!」
「きゃあああ!!」
「ソラ!!」
今回の部屋はかなり広めだったので、遠くからポケモンたちに襲撃されてしまった。どうやらダンジョン内に住むポケモンはレベルが高いほど、ぼくたち探検隊の動きを見て行動を変えたり遠距離攻撃の可能範囲が広がるようだ。それにソラは完全にイシツブテのターゲットになっていたようで、彼女のことを守ることが出来なかったのである。
「これでオレは気兼ねなく動けるな!!“みだれづき”!!」
「きゃあ!!」
「ココロ!!」
更にココロまで守ることができず、ドードーからの攻撃を受けてしまった!しかも一度で終わるものでなく、何度も攻撃をされる“みだれづき”だったため、守りにそれなりに自信があるカラカラでも体力がどんどん削られていくのである!!!
「お前ら!!やめろ!!!!“ひのこ”!!」
「うわっ!!!」
「何しやがる!!!」
ぼくは“ひのこ”を乱れ撃つ。直接的なダメージを与えることは出来なくても、一瞬の隙を作り出たり意識をこちらに向けさせることで二匹を攻撃から解放出来ると思ったからだ。
「チョロチョロうるさいんだよ!!“トライアタック”!!」
「!!!?」
「いけない!!ススム!!」
ぼくの思惑は上手くいった。けれど問題はそのあとだった。相手のドードーが電気エネルギー、熱エネルギー、それから氷のエネルギーを三角形状に組み立てて放つ技………“トライアタック”を繰り出してきたのだ。“とくしゅこうげきりょく”が決して優れてる訳ではない種族ではないので、致命的なダメージになる可能性は低いが、たまに“まひ”、“やけど”、“こおり”のいずれかの状態異常を起こしてしまうのが厄介だった。それを心配したソラの叫びが響く。
「な、なんとかしなくちゃ!!“でんきショック”!!」
きっと彼女は電撃で“トライアタック”のことを迎撃しようとしたのだろう。“どろかけ”が目に直撃して視界は奪われてしまったが、ハート型しっぽを立てることで周囲の様子を探ることは可能だった。そうすることでぼくやココロの位置、敵ポケモンの位置などを把握したソラは迎撃の為に電撃を放ったのである。もちろんその間でも小さな両手で顔についた泥を懸命に拭っていたので、段々とその視界が鮮明になっていた。…………ところが直後に彼女は絶望にも似た感情を覚えてしまったのである。
「嘘でしょ!?電撃のパワーが落ちている!?なんで!?」
そう。目一杯の力を込めて放ったはずの電撃が、とても弱々しいものだったのだ。到底これでは“トライアタック”を迎撃して打ち消すことなど出来ず、むしろ逆に“でんきショック”の方が打ち消されてしまったのである!
「おかしい。別に技をたくさん使った訳でもないのに。パワーが落ちるなんてあり得ないよ!!」
「フハハハハハハハハ!!」
「何がおかしいんだ!?」
愕然としたソラが嘆く。そんな姿を見たイシツブテの不気味な笑い声が次いで聞こえてきた。イライラしつつあったぼくがその理由を聞いてみる。すると彼はこのように言ったのだった。
「面白れぇヤツだと思ってな。さっき俺が“どろあそび”を繰り出したことを忘れたか!?」
「そう言えば………!!」
その言葉に何かを察したのだろう。ソラがますます愕然とした表情となってしまう。そう、“どろあそび”を繰り出されたことが全ての原因だったのだ。この技を使われてしまうと、でんきタイプの技の威力が半減してしまうのである。つまりでんきタイプの技を駆使するソラにとってはかなり不利な状況に追い詰められている結果となってしまったのである。
「そういうことだ!!何せこの山にはひこうタイプのポケモンも暮らしている。お前ら探検隊を追い払う為にはお互いにカバーしねぇといかないからな!!“たいあたり”!!」
「キャッ!!」
「ソラ!?うわああああああ!!」
「ススムさん!ソラさん!!」
「よそ見してんじゃねぇよ!お前の相手はこっちだ、馬鹿野郎!」
「キャッ!!!」
ソラが“たいあたり”によって吹き飛ばされてしまった。彼女を助けようとして動こうとしたが、直後に「ドーーン!」という轟音と共に、“トライアタック”が直撃した。その結果ぼくは大きなダメージを受けてしまうことになったのである!ココロが慌ててぼくやソラのことを助けようとしたが、そんな彼女も自らの目の前にいるドードーから“でんこうせっか”を受けてしまい、その場にうずくまってしまうこととなった。
「ソラ…………ココロ…………ぐうっ!!」
二匹を助けようと動こうとしたぼくだったが、肝心なその体が動いてくれない。それもそのはず。ぼくは“トライアタック”の電気エネルギーのダメージによって“まひ”状態になってしまったのである。
(なんてこった…………これじゃ全員この場所で倒されてしまう!!)
ぼくは焦りを隠せずにいた。恐らく現状三匹の中で一番自由な動きが出来るのは、敵ポケモンたちから離れているソラだけだ。何とかして彼女にこの状況を打破できる策を打ち出してほしいと思った。
(も………もちろんだよ、ススム!!一番素早い身動きが出来る種族だし!離れた場所からでも攻撃が出来る!!私が何とかしなくちゃ…………“パートナー”として頑張らなくちゃ!)
不思議なことにススムの考えていることは、私にも伝わりました。というより周りを見たときに自分しかこの状況を打破できるメンバーはいないと直感で感じ取ったのです。………とは言うものの怖がりな性格も邪魔してしまい、私はどうしたら良いのかすぐにはわかりませんでした。
(何か道具箱になかったかな………そうだ!!あれがあった!!)
肩から提げている道具箱。それを開いてみたときに飛び込んできたそのアイテムを見て、私は糸口を見出だしたのです。
「いっけええぇぇぇぇ!!」
『何だ!?』
私は叫びました。道具箱から“ひかりのたま”という“ふしぎだま”を取り出し、再び天井へと高く右腕を上げたのです。本来的には使用したフロアの全体像や相手ポケモンの位置、階段の位置などを把握するためのアイテムでしたが、その強い光で“フラッシュ”を繰り出したときのように、私は目の前のポケモンたちを撹乱出来るかもしれないと考えたのです。次の瞬間、眩しい光が「ピカッ!!」と部屋全体に散らばりました!!
「うわあああ!!!」
「前が見えない…………!!!」
私の思惑通り、イシツブテとドードーの二匹は目をつぶって光が入り込むのを防ぐのに必死な様子でした。「今だ!」…………私はこの隙をついてココロちゃんに叫んだのです!!
「今だよ!!逃げてー!!」
「でも、ススムさんが!」
ココロちゃんはススムのことを心配していました。確かに彼女の思うように、ススムは“まひ”状態。素早く行動するどころか自由に行動することさえ、ままならない状態。例え“ひかりのたま”を利用して一時的に動きを封じ込めたとしても、その間に逃げることが上手くいくかどうかは怪しかったのです。
「いいから!!ススムのことなら私が何とかするから!あなただけでも早く!!」
「ソラさん…………!!わかりました、では!!」
私は思いきってココロちゃんに指示をしました。自分の意志を汲み取ってくれたのでしょう。小さく頷くと彼女はその場から避難し、体勢を立て直すことに専念してくれたのです。
(これでなんとかなるはず………!!?)
ココロちゃんが逃げていくのを確認して安心したのも束の間。私は背後から攻撃を受けてしまったのです。