メモリー38:「つながりのはじまり~ハガネやま#11~」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 どんなことがあってもボクはチカのそばを離れたりはしない………。一緒にいればどんなことがあっても乗り越えられそうな気がするから。何より嬉しそうな彼女の姿を見ると、頑張ってることが報われるような気がするから…………。


 「いやああああああ!!」
 「へへへ。どうだ?頼れる相棒がいないのは辛いだろう!?」
 「こっから脱出しようたって無駄だからな!?このまま真っ二つにしてやるぜ!!」
 「やめて!!離してええええ!!痛い!!」


 私はアサナンとカイロスのコンビに襲われていました。特にカイロスの“はさむ”による激痛が酷く、このままでは大怪我は避けられない状態でした。なんとか電撃をぶつけて脱出しようと考え、とっさにほっぺの電気袋にエネルギーを溜めていました。ですが、少し離れた場所で私の行動を監視していたアサナンによって、その考えも簡単に封じされることになったのです。「何やってるのかなぁ?」と嘲笑されながら。


 「きゃっ!?なんで!?動けない!?止めて!!離して!!痛い!苦しい!!」
 「教えて欲しいか~?“しばりだま”を使ったんだよ?せっかく面白そうな場面に水を差されたら萎えちゃうからね~?痛みと苦しみ、それから孤独のまま過ごすこの時間を楽しんでほしいし~!」
 「いやあああ!!!お願いだから離してええええぇぇぇ!」
 「そんなこと出来るかよ!!」


 一段とカイロスの“はさむ”力が強くなったのを感じました。アサナンが使ったふしぎだま、“しばりだま”によって私は技を出すことはおろか、体を捻って少しでも痛みを感じずに済むように動かすことすら許されず、とにかく悲鳴を上げ続けることしか出来ませんでした。


 そこへ再びアサナンによって、更に追い打ちをかけることが起きたのでした。


 (ひっ………なんかまた“はさむ”力が強くなった………おかしい。カイロスが頭のハサミを動かしている様子は無いのに………どうしてなの!?)
 「なんか困っているようだね?教えて欲しい?」
 「!?」

 

 私の考えは見透かされているのでしょう。一瞬自分の中の時計が止まり、思わず目を最大限にまで開いてしまいました。同時に嘲笑を深めながら尋ねてくるアサナンに対して、恐怖感による身震いを感じたのです。


 そんなことなど全く関係ないという感じで、彼はこのように話を続けました。


 「僕が“ねんりき”でカイロスの“はさむ”力を強くしているんだよ?とはいっても実際には強くなっていないけどね。“さいみんじゅつ”とコラボしたオリジナル技で、キミにそういう感覚を植え付けているんだよ」
 「オリジナル技………?そんなことって」


 予想外の答えに私は反論することが出来なくなりました。アサナンの言う通りならば自力でこのピンチを脱出出来ないことを意味するのですから。


 (………ってことは………?ユウキが戻ってこないと私は助からないってことなの?嫌だよ、そんなの!!ユウキ…………戻ってきて!助けて!!)


 私は予想以上の深刻な状況に絶望を感じました。成す術なくここで命を奪われるなんて、とてもじゃないけど受け入れることなんて出来ません。もちろん救助隊をやっている以上、この危機的状況に陥ることはある程度仕方ないことは理解していますが…………せめて彼がそばにいて欲しいと求めている自分がいました。


 理由…………ですか?ここまでユウキと私の物語を読んでいるのでしたら、改めて恥ずかしいことを聞かないでくださいよ………。私、彼がいると安心するんです。どこかで話したかもしれないけど、自分には頼りにできる仲間がいないから。だって自然災害で両親も友達も恋人も、故郷まで失って。夢を見つけたと思ったら、今度はエーフィさんにも追い出されて独りぼっちになったから。不安だったんです。自分一人じゃ何も出来ない“おくびょう”な性格だから。


 でもユウキがいるとそれだけでそんな言いようもない不安な気持ちも和らいでくれて、逆に勇気が出てきた。だから彼が苦しそうなときには私が助けてあげたくなったんです。私が彼を頼りにしているように、彼にも私を頼りにして欲しかったから…………。


 (どうせ死んでしまうのなら、彼の腕の中で優しく温かく守られながら死にたい…………。こんな独りぼっちの状況でなんか嫌だよ!!だからお願い……………!)


 ……………助けに来て、ユウキ!!


 「イヒヒヒ、どうだ?身動きも出来ずに感じる痛みは?」
 「このままトドメを刺すのは簡単だけど、それじゃ面白くねぇからな。じわじわ追い詰めてやるよ!せいぜいこの恐怖感を楽しむんだな?」
 「いや!いやあああああああ!!!」
 「ギャハハハ!実に愉快!いくら悲鳴を上げようと無駄!僕は技を止めることはしないよ?だってキミが苦しんでいる姿がこんなに愉快だと思わなかったよ!」
 「ひどい…………!!」


 アサナンによる“ねんりき”がますますパワーを増しているのでしょう。一段と痛みが強くなりました。そんな様子に悪魔のように頬笑み、そして大笑いするアサナンの心情が信じられませんでした。まさに凶悪。私は彼の玩具にしか過ぎない。なんて情けなくて屈辱的な扱いなのだろうと、憎しみの感情まで出てきたのです。


 「元はと言えばお前たちが悪いんだぞ?ポケモンを助けるとか言ってずかずかと人の棲みかに入ってきたんだからな?それだけでない。勝手に生活に必要な道具を略奪したり、何の罪もない仲間や住民を攻撃したりするんだからな?」
 「それは違う!違うよ!私たちだってバトルは避けたい!誰も傷付けたく無いんだよ!!あなたたちだって、私たちの行動をよく理解しないし、話を聞いてくれないじゃない…………っ!?きゃあああああああああ!?」


 カイロスもこれまでのポケモンたち同様に、救助隊の存在を誤解しているように思いました。激痛に耐えながら私はその誤解を解こうとしましたが、そこにアサナンがまた追撃してきたのでした。恐らく自分のこの行動が気に食わなかったのでしょう。面白くなさそうに「何やってるのかな?」と吐き捨てながら、更に“ねんりき”を強めているようでした。


 「これ以上無駄口叩くと本当に命の保証出来ないよ?僕たちに命獲られたくなかったら、おとなしくしている方が身のためなんじゃない?」
 「くっ…………ううううう………」


 アサナンは笑っていたけど殺意に満ちていました。私は一瞬抵抗の意志を見せようとギッと睨み付けた訳ですが、その表情と警告にますます命の危険を感じとり、すぐにその抵抗も諦めざるを得なかったのでした。悔しい…………。本当にそのように感じずにはいられませんでした。


 「お利口さんだな。最初からそうやって言うことを聞いていればいいんだよ。そしたら俺たちだって必要以上に傷付けたりはしねぇんだからよ。どっかに飛んでいったヒトカゲを連れて、黙ってここから立ち去れば………「そんなこと出来るわけないだろ!!」」
 『!!?』


 カイロスの話を仕方なく受け入れるしか無いだろうと考えていた私のもとに届いた“彼”の声。カイロスやアサナンも驚いた表情で、メラメラとしっぽから炎を燃やしてギッと自分たちを睨み付けているその姿を見つめていました。


 「ユ………ユウキ…………」
 







 「チカを離せええぇぇぇぇ!!」


 ボクは叫んだ!しっぽの炎は更に強く燃えている。道中で拾ったたくさんのアイテムを両腕で抱えているために物理的な攻撃は出来ないけれど、口から“ひのこ”を放ちながら彼らへと突っ込んでいけばいい。燃えている気持ちを乗せてカイロスやアサナンへとぶつければ、そう苦労することなくこの場を切り抜けられるだろう……………そのようにボクは考えた。


 「ち、思ったより早く戻ってきたのか………」
 「フン、カッコつけて僕たちのことを怯ませようたってそうはいかないよ?下手なことをしたらキミの大切な相棒の命がどうなるかわからないよ?」
 「ユウキ!!助けて!!!」
 「チカ!!コノヤロー………!」
 「おっ?良いのかな?」


 ボクはますます怒りの気持ちが込み上げてくる。それでも一旦攻撃をするのを止めざるを得なかった。自分が突撃している間に、これ以上チカが攻撃を受けてしまうのだけは避けたかったから。その思惑をアサナンも把握してるのだろう。勝ち誇ったようなニンマリとした笑顔が腹立たしい。


 (一体どうすれば良いんだ…………ん?)


 両腕で抱えていた道具の中から零れ落ちたのは“ばくれつのタネ”である。効果はボクにもわかる。噛ることで爆発が起きて目の前の相手にダメージを与える…………?


 (爆発…………そうだ、これだ!!)


 ボクは良い作戦を考えた。とはいっても格別新しいものでは無い。初めて飛び込んだダンジョン、「ちいさなもり」で似たような場面を乗り切ったことを思い出したのだ。上手くいくかどうかはわからない…………けれど、自分には悩んでいる時間はない!



 「うわあああああああ!!」
 「ユウキ!?」
 「なんだアイツ…………血迷ったか!?」


 次の瞬間、ボクは手にしていた“ばくれつのタネ”を地面に叩きつけた!!無論その衝撃で爆発が起きたことは言うまでもない。なんとか両腕で顔をガードする態勢はとれたが、ズズズと地面を削りながら後退りをしてしまった。同時にパートナーの悲鳴が聞こえる。ああ、また心配をかけているんだなぁ…………なんて落ち込みながら心の中で呟くボク。


 (ゴメンね………チカ)


 これまでがそうだったように、ボクの無茶ぶりをチカは酷く嫌っていた。例えそれで窮地を切り抜けたとしても、その代償で心が何度も傷ついてしまっていたからだ。きっとこれがきっかけで、また意見が噛み合わなくなるんだろうなと思った。


 (でも、そんなこと言ってられる暇なんてどこにもないや!)


 ボクは開き直る。先ほどの爆発によって辺りが黒煙に包まれて、しかも相手はすっかり油断している。今しか動きを止められるチャンスがないと………!


 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 『な、なんだ!?』


 ボクは思いきって腕を振ってそいつを投げた!!チカの命を奪わんとしている敵に向かって!!

    カツン!
 「ぐあああああああ!!」
 「カ、カイロス!!?どうした!?」
 「体が!しびれて…………ぐあ!!」
 「なんだって!?」


 突然の異変に驚きを隠せないアサナン。それだけではない。カイロスによって拘束されていたチカも解放され、ひとまず重大危機を乗り越えることが出来たのである。…………とはいえ、まだ“しばりだま”の効果が続いているから、自由な身動きは出来ないままだったけど。
 

 (あのヒトカゲの仕業だな!?“ばくれつのタネ”をわざと地面に叩きつけることで煙幕を作って、自分の姿を眩ますなんて………!だけど、アイツの相棒はまだ僕の手中だ)


 仲間のカイロスが苦悶の表情を浮かべていてもアサナンは振り向きもしない。むしろ不敵な笑みを浮かべていた。いや、最初からカイロスのことを“仲間”として見ていなかったのかも知れない。なんだか“でんじはのどうくつ”で出くわした“バーストボール・メンバー”のことを思い出す。アイツらも状況が不利になって仲間を見捨ていた。結果的に何匹かは命を落としてしまったし、そのことがボクを苦しめた。


 …………でも普通に考えたらそりゃそうか。アサナンもカイロスもタイプも違えば種族も異なる二匹のポケモンなんだから。ボクやチカみたくコンビとしてお互いに助け合っている方が、ダンジョンに住む彼らからしたら信じられない光景なのだろう。


 (やっぱり自然災害が続いて、ポケモンたちに余裕が無くなっているのかな…………。だとしたら早くこの災害が続いている原因を突き止めていかないと。無意味に争いをして傷つくポケモンが増えていくだけだ………)


 それがボクのたどり着いた結論。いくら救助隊がたくさん集まってダンジョンの中で待っているポケモンを助けていこうとも、根本的な部分を解決しなければ今後も次から次へと依頼が来てキリがないだろう。第一彼らの言う通りなのだ。外界に暮らしているポケモンがダンジョンの中に足を踏み入れなければ、せこで生活しているポケモンたちに誤解されて襲撃されたり、ボクたち自身も彼らを無意味に傷つけてまでして奥へと進むことも無くなるのだから。


 (決めた。ここのダンジョンを越えてディグダとダグトリオの父子を助けたら、自然災害が続いてる原因を突き止めてみよう。手掛かりが無いからすぐには見つからないだろうけど…………。でも、もしかしたらそれが“ヒトカゲ”になったことと何か繋がるかもしれない)


 爆発で生じた黒煙の中で決心を固めるボク。そうと決まれば一刻も早く目の前の敵、アサナンとカイロスを倒す必要が出てきた。


 …………と、そのときだ。黒煙の先から再びチカの悲鳴が聞こえてきたのは。


 (チカ!!!!)


 






 「フッ、恨むならお前の相棒を恨めよな?」
 「いやっ!!離して!!もう止めて!!」


 一難去ってまた一難。今の私が置かれた状況は正にそんなような感じでした。ユウキの戦略でカイロスから解放されたとはいえ、身動きはまだ出来ない状態。完全に丸腰状態だったのです。それを確認したアサナンが冷酷なまでの笑みを浮かべ、私の所へジリジリと迫っているものですから、また命の危険から来るあの恐怖感が私を襲っていました。


 「キミの体の大きさだったら、僕の“ねんりき”で充分宙吊りにすることくらい簡単に出来るんだよ?天井高くね?そこでフッと技を緩めてみたらどうなるか………ワクワクしない?」
 「いやぁ!!ワクワクなんかするわけないよ!!お願いだから本当に離してよ!!さっきから何度も言ってるように、私たちは困っているポケモンたちを助けにきただけなんだよ!?なのにどうしてここまで酷い目に遭わなきゃいけないの!?」
 「知らないね。せいぜい救助隊になったことを後悔することだな?」
 「!?」


 救助隊になったことを後悔しろ?…………聞き覚えのあるフレーズに、私は一瞬自分だけ時間が止まったような錯覚を感じました。大きく見開いた黒い瞳に写し出されたのは、ユウキとチームを結成したあの日の夜。冷たく笑うエーフィさんの姿でした。


 いずれ後悔する日が来るわ…………。


 「………!?いやあああああああああ!!止めてえええええええええええええ!!!」


 もし私が自由に身動き出来ていたら、両耳を塞いだり、赤い電気袋から電撃を放っていたことでしょう。それくらいあの日の夜の出来事は悪夢のように私の記憶に焦げ臭く残っていたのです。救助隊を結成した結果がこれだとしたら、私の抱いていた小さな望みは一体なんだったのでしょう。両親も友達も恋人も故郷も………すべて失った絶望の中、エーフィさんに優しく護られながら一途になって勉強してきたのに…………。誰かのために役に立ちたいというその想いだけを心の支えにして。


 (それさえも否定されちゃったら、どうしたらいいの?私には何もする権利が存在しないの?)


 イシツブテたちとのバトルで既に怪しい部分はありましたが、ますます自分の想いは粉砕されそうでした。以前の私であればここですっかり気持ちが折れていたことでしょう。でも、今は違う。私には自分の想いを守ってくれる“リーダー”がいる。ユウキという存在が。


 (そうだ。だから私は自分で投げやりにならなくても大丈夫なんだ。頑張らなくちゃ!)


 私はまだ自由に身動きできる状態ではありません。それでもユウキならきっと何とかしてくれるはず…………そのように強く信じて、アサナンからの攻撃に耐えようと決めたのです。…………だってユウキが教えてくれたから。


 ……………………大丈夫!ピカチュウの夢はみんなが決めることじゃないから!どんなに遠いところにあっても、ピカチュウが前に進む限り、絶対消えることなんてないから!だからさ……がんばっていこう!一緒に世界一の救助隊になれるように……どんなことがあっても負けないでがんばっていこう!!…………………………


 (うん…………そうだよね!)


 そのときです。地上からアサナンの声が聞こえてきました。小馬鹿にしたような笑い声と一緒の「覚悟しろ!」という声が。次の瞬間、宙に浮いている感覚も消えました。“ねんりき”を解いたのでしょう。そしたら私は成す術なく地面へと落下してしまう。そしたらきっと無事では済まされない………怖い。その感情を表すように涙が出てくるのでした。


 (ユウキ…………!!ユウキィィィ!!)





 「そうはさせるかぁぁぁぁ!!」
 「!!」


 ボクは爪を尖らせながら黒煙の中から飛び出し、アサナンへと突撃した!!意識が完全にチカの方へと向いていたアサナンは背後からの攻撃など避けられるわけもなく、もろにボクからの一撃を受けてしまい、「ぐぅ…………」とその場でうずくまってしまった。


 「チカアァァァァァァァァァァ!!!」


 これで終わりではない。ボクはすぐさま落下するチカがダメージを受けないように、腕を大きく広げて彼女をキャッチする態勢をとった。相手は女の子だから多少抵抗感はあったけれど、今はそんなこと言ってられる余裕なんかない!


 「仲間の命すら守れないヤツが、救助隊や“リーダー”なんか名乗れる訳無いだろう!!!!」


 ボクはしっぽを地面に叩きつけ、その反動で高く空へと跳んだ!!そしてチカへと叫んだ!


 「チカ!目一杯体を広げるんだ!」
 「え!?で…………でも、怖い!!」


 ………私にはユウキの指示を上手く実行できる自信がありませんでした。地面に叩きつけられたときの衝撃を考え、逆に私は本能的に小さく体を丸めて防御態勢をとってしまったのです。


 …………それでもボクは諦めなかった。どうしてって?今さらそんなこと聞かなくても良いじゃないか。彼女は自分にとってのたったひとつの希望なんだ。決して失ってはいけない温かい光。だから…………


 「大丈夫!!ボクが絶対にキミのことを守るから!絶対に独りにはさせない!!うおおおおおおおおおお!!」
 「いやあああああああああ!!」


 ボクは目一杯に腕を広げて、落下してくるチカを強く抱き締めようとする。体を丸めていたこともあり、こんな短い腕では正直彼女のことを完全には保護しきれないだろう。それでも少しでも地面に衝突したときの衝撃から守ってあげたい…………と、必死だった。



 「うぐぐ…………。こ………こしゃくな………!お前らの勝手にさせるかよ!!」


 しかしながら簡単には事は進まない。ボロボロになりながらアサナンが再び“ねんりき”を繰り出してきた。しかもその技単品だけではない。ボクが道中で拾い、両腕で抱え、そしてチカを助けるべくその辺りにバラバラと散らばした道具、それから爆発で崩れて散らばっている石を操って四方八方からぶつけてきたのである!!


 「うがあああああ!!」
 「キャッ!!痛い!!」


 ぶつけられた道具の中には”オレンのみ”といった回復道具もあったので、一方的体力が削られている……………ということでは無かった。しかし体力が削られたり回復したりを急激に繰り返すことが、かえってボクやチカの体には大きな負担となってしまった。上手く言えないのがもどかしいところではあるが、なんだか目眩を感じたのは事実である。グッと意識を集中させないとその場に倒れてしまいそうな…………そんな気がした。


 …………それでもボクは諦める訳にはいかなかった。頂上まで一歩手前のところだし、そこには身の危険と隣り合わせという恐怖と懸命に闘いながら、ボクたちのことを信じて待ち続けている父子がいる。一度切れかかったつながりが再び始まりを告げたばかりでもある。だから…………、


 「こんなところで諦めないぞ!!!ボクは…………みんなで一緒に帰るんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 「な……………なんだ!?うわああ…………!!」
 「熱い!熱い!!!」


 次の瞬間、ボクの感情が爆発した。それを表現するようにしっぽの炎が巨大化し、自らの体がその炎に包まれる。周囲はみるみるうちに高温となっていく。アサナンやカイロスはもちろんのこと、仲間であるチカでさえ「熱い………!ユウキ、熱いよ~!」と、苦しみの声をあげる程だった。敵も味方も関係無く誰も近寄ることが出来ない状況となったのである。それだけではない。


   ズガーーーーーン!!
 『ぐわああああっ!!』


 爆発が生じたのである。これも感情が反映された結果なのかもしれない。爆風や衝撃、そしてそれらに巻き込まれたアサナンとカイロスの苦痛の叫び声が、この階層全体に轟いた。


 「いやああああああああ!!」
 「チカ!?しまった!」


 もちろんチカも例外ではない。せっかくボクの目前にまで迫っていたのにも関わらず、自ら引き起こした爆発によって、吹き飛ばしてしまったのである。彼女の悲鳴が聞こえてきた瞬間にその事にボクは気付いた。崩れてくる天井から逃れることが出来なかったアサナンとカイロスのことなど気に留めるわけもなく、ただチカを助けるべく必死にフロアを走り抜けた。


 危機的状況になったとき、より多くの命を救助することは同時に誰かを犠牲になるリスクもあるということ。もちろんそんなこと誰も望む訳がないが、それが現実というものかもしれない。ボクもチカもそれを受け止めないといけないのは理解していた。だからこのあとの時間で周りから非難されることはあっても、内部でお互いに相手を非難することは二度と無かった。






 「チカアアアアアア!!」


 爆風で吹き飛ばされた彼女は今どのように考えてるだろうか。あくまでボクの都合に過ぎないけれど、少なくとも自分のことを再び信じ始めたかもしれない。それなのにボクは目下の敵を倒したいが故に感情を爆発させてしまった。チカのことまで巻き添えにして。そんな自分に怒りと悲しみの感情を抱いているだろう。


 「ハァハァ…………ごめん!!ゴメンよ、チカ!!」


 ボクは涙を散らばしながら走り続ける。しかし、今は後悔している暇なんて無い。とにかくチカを助けないといけないのだから。少なくとも彼女のことを追い越して両腕でも、あるいは背中でも良いから受け入れなければならなかった。こういうとき、自分に“でんこうせっか”が使えたらどんなに良かっただろうか。きっと間に合うことなんて出来ずに、チカのことをケガさせてしまうんだろうな……………正にリーダー失格としか言いようが無い。


 それでもボクは最後の最後まで諦めなかった。無我夢中で走り続ける。もう気力だけだったと思う。もう結果さえ最悪なものにさえならなければそれで良いと思って。


 「ユウキイイイイイイ!!…………!?」


 私は運に恵まれていたように思います。爆風に吹き飛ばされた直後は仰向けの状態だったのですが、体か回転していたこともあってか、いつの間にかうつ伏せの状態となっていたのです。つまり地上で懸命に走っているユウキの背中もちゃんと見える状態。その事に気付いた私は強張る体に必死にお願いして落下していくなか、なんとか彼の背中に受け止めて貰えたら良いのでは………と、考えたのでした。


 (そうだ。そうすればこのピンチも切り抜けられるかもしれない…………!)


 悩んでいる時間はありません。だから私は地上で猛スピードで駆け抜けている彼に向かって、こうやって叫んだのです!


 「ユウキ!!!私の考えを聞いて!!あなたの背中に………私のことを乗せてほしいの!!」
 「チカ…………!!」


 彼は私に呼び止められてビックリした表情をしていましたが、すぐに大きく頷いてクルリと背中をこちらに向けたのです。なぜなら彼は既に私のことをかなり追い越していたから。折り返して正面からってことが間に合う様子はありませんでした。ですから彼の表情を見て安心したいってことも叶わないけれど、それくらい無我夢中に私のことを考えて行動していたのでしょう。自分の勝手な想像に過ぎないですけどね。それでも私は嬉しくなってちょっぴり赤面していたかもしれません。だって「やっぱりユウキは自分を守ってくれるんだ」って感じたから。それに背中に着地出来たときにしっかりと離さないように、と考えたのでしょう。彼は両腕を背後に伸ばして私を受け入れる態勢をとっていたのでした。


 …………ボクだって嬉しいよ。強引に自分の作戦の巻き添えになってしまったのに、それでも信用してくれているんだって思えたから。こんなに不甲斐ないリーダーにチャンスをくれるのは、きっとキミしかいないだろう。本当ならしっかりとキミと目と目が合うように正面から受け入れたかったところだけど。でも、今はキミが無事ならばそれでいい!!


 「さぁ、来るんだ!!!!」
 「うん!がんばるね!!うわああああああああ!!」
 「うああああああああ!!」




 「はあ………はあ…………良かった………」
 「ユウキ…………怖かった……………怖かったよ………」
 「うん、ゴメンね。チカ………独りにさせてゴメンね…………。これからは絶対に離さないからね………。“いっしょにいこう”ね」
 「うん。約束だよ?ユウキ…………」


 ボクもチカも安堵したせいか、震えながら泣いていた。そう。お互いに相手のことを失ってはいけない存在のように感じていたのである。


 ……………これが“メモリーズ”結成6日目にして生まれた本当の意味での「つながりのはじまり」だったのである。




         …………メモリー39へ続く。