いよいよ大学病院での診察の日。

大学病院を紹介された時点で、覚悟を決めて受診しました。

優しい男の先生でした。

赤ちゃんは無頭蓋症であること。
このまま妊娠は継続できるかもしれないが、生まれてもすぐに死んでしまうこと。

予想していたこととはいえ、目の前にその現実が突きつけられると、悲しくて辛くて涙が止まりません。

まだ時間はあるので、すぐに決めなくても大丈夫だけど、
妊娠を継続するのか、諦めるのかを考えてください。


私は、横にいる夫を見て
「もういいよね。待たなくてもいいよね」
と言いました。

夫も頷きました。

「大学病院で処置できるんですか?」
と現実に向き合った質問をしました。

その後、人口死産について、どのような経過をたどるのか、
入院する期間のことなど、先生は優しく教えてくれました。

明日から入院でもいいし、来週月曜日からの入院でもいいということで、
仕事の関係もあり、来週の月曜日からの入院を決めました。


診察から程なくして、私の赤ちゃんの運命が決まってしまいました。
決めたのは私たちです。
この道しか選べなかった私たちです。
14週の検診の翌日。

それまで赤ちゃんの異常は夫と私だけの秘密でした。

母に話すことができませんでした。
泣いて話をすることで母を心配させてしまうのが嫌でした。

でも、大学病院に行く前に話そうと決めて、実家に行きました。

冷静に話そうと思ったのに、
「あのね」
と言った瞬間にぼろぼろと涙が出てきてしまいました。

「どうしたの?赤ちゃん?!」

流産したと思ったみたいです。

「流産ではないんだけど…」

とこれまでの経緯を話しました。


母は強かったです。
いよいよ運命の日。
異常が見つかるのか、消えているのか。

異常が見つかったら、羊水検査をするのか、結果が出たらどうするのか、
その先のいろいろなことを夫婦で話し合いました。

私たち夫婦は、方向性が一緒だったので、結論を導くのはそう難しくありませんでした。
だけど、もし片方が妊娠の継続を希望したら?…答えは出ませんでした。


その日の検診には、夫も同行しました。
異常が告知されたら、一人でいるのが辛すぎるから。


無理矢理入れてくれた予約だったので、午前中一番最後の診察でした。
先生の配慮だったのかもしれません。


お腹の上からのエコー。

心臓は元気に動いているね。
ここは足で、ここは手で。

まずは元気に生きていることを教えてくれました。

先生は、何度も何度も場所を変えながら、赤ちゃんのある場所をはっきり見ようとしています。
それは頭部でした。

「うーん、ちょっとよく見えないね。中からも見てみましょう」

内診に切り替わりました。

そこでも何度も場所を変えながら、赤ちゃんの頭を確認してくれました。

「今ね、お腹の上からも、中からも見たんだけど、赤ちゃんの頭の部分がはっきり見えないんだよね」
「この時期だと、こんな感じに骨は白く映るんだけど、境がはっきりしないんだよね」
「これ以上のことは、ここではわからないので、大学病院で診てもらいましょう」


診察台の上で、その言葉を聞きながら、涙が止まりませんでした。
立ち上がったときにはフラフラで、夫がいてくれてよかった、と心から思いました。
この現実を受け止めることができなくて、一人で待合室にいることなんてできなかったと思います。

この日は9/28。
大学病院には二日後行くことになりました。

赤ちゃんの異常は、私の思っていたよりも大きなものでした。
もらってきたエコー画像をずっと見つめていました。

首の後ろというより、後頭部の異常でした。
今見れば、ですが。

そのときは、首の後ろに異常がある→ヒグローマ?→染色体異常、
という思考回路に陥っていて、頭の異常だとは思いもよりませんでした。

ただ、調べて行くうちに、頭の骨が形成されていない、と書いてある記事を見つけて、うちの子はそうじゃないんだよな、って思ったことがありました。

二週間後、この黒くて丸いのが消えていてほしいと、毎日願っていました。

ブドウ糖負荷テストから一週間も経たずに、12週時の検診がありました。

その日は副院長先生。
とても優しくていい先生です。
院長先生も優しいけど、どっちかというと副院長先生の方が丁寧でした。

いつもの通り内診が始まり、
いつもの通り内診が終わろうとする頃、
前回と同じ質問をしました。

「前回は異常ないって言われたんですけど、首の後ろはどうですか?」

大丈夫だよ

その一言が聞けると思って、
ただ普通に質問しただけでした。

「異常ないって言われた?そっか…」

先生の顔、声が一瞬曇りました。

終えようとしていた内診が続けられ、エコーに映った我が子の首の後ろを先生が指差します。

「ここね、黒く丸く写っているところ、ここがちょっと気になるね」

頭が真っ白になりました。
ヒグローマ?浮腫?5mm?
異常があるの?

一瞬でいろいろなことが浮かびました。

内診が終わりました。

「こういうリンパ液がたまっているようなことは、時々、うーん時々でもないか、あるので、あまり気にしすぎないようにしてね」

優しい先生の言葉も届きません。
気にしないなんて無理です。

「一週間後、うーん、二週間後の方がお腹の上からエコーしてよく見えるから、二週間後にまた詳しく見てみましょう」

これから二週間、ただただ不安な日々を過ごさなくてはならなくなりました。