日本映画史上最凶の悪役がコンプラ上等な東映船に乗ってきた映画「孤狼の血 LEVEL2」 | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

おつかれさまです。
SayGoです。

本日は
2018年に話題を呼んだ
<東宝じゃけ。なにしたってええんじゃ!>映画の続編
「孤狼の血 LEVEL2」をレビューします。


公開日:2021年8月20日
上映時間:139分
監督:白石和彌(「凶悪」「孤狼の血」)


-あらすじ-
大上が亡くなって3年。
その遺志を継いだ日岡は呉の裏社会を取り仕切り、
組織間の抗争を抑え込んでいた。
しかし、五十子会上林組組長 上林の出所を機に
状況は一転してしまうのだった。


時代に逆行する暴力描写とハードボイルドなバディストーリーで
ヤクザ映画を見事なまでに蘇らせた前作「孤狼の血」。
その3年後を描く本作はエンターテインメント性を拡大させながら
過激さもネクストレベルに到達。
鈴木亮平演じる上林成浩の狂気が話題を集めている。


◆日本映画史に残る悪役の誕生とスケールアップしたエンタメ性◆
コンプラ上等な過激で不適切な描写で血走る荒々しさを醸しながら
ハードボイルドなバディ要素とカタルシスある逆転劇
見事なエンターテインメント性も兼ね備えていた前作。


幼いころからVシネを見せられてきた自分にとっては
「孤狼の血」は衝撃的であり、歓喜たる一作でした。

多くの話題と評価を獲得した前作の続編となる本作は、
コンプラに引き続き中指を立てながら、
(内容は過激なのに、ハラスメント指導を取り入れた
 撮影を敢行するという意識の高さもまた面白い)

東映のみならず日本映画、現日本俳優陣の底力を
これでもかと見せつけてくる。

この作品を見た誰もが絶賛するであろう
上林成浩を演じた鈴木亮平の狂気。
日本映画史に残る極悪人の誕生を映画館で観ずしてどうするか。

目まぐるしい展開と明確なアクションのスケールアップ、
そして、キャラクターに対して筋を通す落としどころまで
エンターテインメント性も凄まじい一作。


◆上林によって狼と化す日岡の物語◆
前作で大上の遺志を継いだ日岡は、
一転ハングリーな装いに変貌して登場する。
しかし、蓋を開ければ中身は狼にはなれていない。
この狼気取りな日岡というアプローチが
熱く血なまぐさいドラマを描き出していく。

時代の流れと共に牙を丸め出した暴力団組織の姿が丁寧に描かれる
もはや大上のように暴力や手荒な行動を起こす必要もなく、
日岡は容易く呉の治安を収められている。
仕事場ではメンチを切り、プライベートな空間では笑顔を漏らす。
ヤクザ映画でありながら緊張感もない。
まるでその容姿が弱さの写し鏡にも見えてくる
順風満帆な日岡の姿が描かれるわけだが、
その秩序を破壊する男の登場で映画の雰囲気は一変する。

己の正義と恩義を貫き、
その邪魔をする者を敵味方関係なく殺めていく上林だ。

彼の暴虐によって裏社会は3年前の抗争状態に巻き戻され、
日岡はそこで自分が大上になれていないことを痛感させられる。
そして、上林と渡り合うため狼に変貌する。

大上から遺志を継いだ日岡が
上林という孤狼を追いかけ、対等になるため孤狼と化す。

作品の狂言回し的な存在であった日岡が
正義を成すために一線を越え牙を剥き出す瞬間
狼誕生劇によって凄まじい興奮を演出していました。


◆やばすぎる!最凶にして哀しみも帯びる上林の狂気◆
鈴木亮平演じる上林成浩はあまりに恐ろしい。
自分の信じる極道と忠義を通すため、
それに反する存在を敵味方関係なく、瞬発的に殺めてしまう狂気。

あまりに型破りな存在である上林が
まさにその背中で作品を牽引していくような本作は
先を読むことが出来ず、登場するだけで緊張させられる。

そして、彼の露悪さと哀しみを演出するのが
目への異常なまでの執着だ。


冒頭に用意されている混じりっけなき堂々たる

「目潰し」は、上林の狂気と異常性を
その露悪的な描写で強く印象付けるシーンとなっている。

しかし、物語中盤の上林の幼少期描写で
その目への執着は哀しみを帯び、キャラクターの深度を深める
見事な要素としても働き始める。

上林や村上虹郎演じる近田幸太など、
絶妙な塩梅で社会的な側面を取り入れ、
キャラクター造形を行っている部分もこの作品の凄み。

美術と超現実的な描写で目への執着を決定づける
上林の回想シーンは見事の一言でした。

自分が間違っていると思ったものは壊す。
自分が間違っているのなら殺してくれ。


そんな破壊願望と死への欲求が上林とい人間に
揺るぎない道理、仁義をもたらし、
悪でありながら人間的な余地も残していたのも魅力的だった。



◆最高のランデヴー。最高の決着◆
クライマックスは狼となった日岡と上林が
血みどろな死闘を繰り広げる。

3夜という邦画としては贅沢な時間がかけられた
クライマックスのカーチェイスからの殴り合いは
日本ノワール映画の底力を見せつける映像力。

映像という部分では雨のシーンも贅沢極まりない。
白石組の雨降らしは日本映画界でトップクラスと言われるだけあっ
映像の迫力もさることながら、役者の演技、キャラクターの感情を
ハードボイルドに描き出す。

話を戻します。
日岡と上林はクライマックスで壮絶な死闘を見せるわけですが、
監督がランデヴーと表現するように
強いブロマンスを感じて仕方がなかった。

他の奴はどうでもいい。
お前と2人で、2人だけでやり合いたい。

そういわんばかりに日岡をドライブに誘い出し、
人気のない場所で交わる2人の狼。

それぞれの正義をぶつけ合わせながら、
互いを認め合うゆえ狂気と歓喜が入り混じったような死闘
少年漫画のような熱さを纏う。

そして、最高なのはその決着だ。
日岡の組織への反抗や狼としての変貌を語る部分もいいが、
上林に中途半端さの一切ない退場を作り出すこの結末には
作り手のこの上ない愛を感じてしまった。

日岡が狼になるまでの物語でもあった本作にとっても
この決着は日岡の正義を確立した見事なシーンだったと思います。


◆総評◆
見事なLEVEL2。
書いてはないが日岡と警察組織のドラマも面白く、
そこもきっちり落とし前をつけカタルシスを演出してくれる
脚本、構成もエンターテインメントとして一級。
そして、何より上林を演じた鈴木亮平の狂気には圧巻させられた。

最高にエクストリームな邦画であり、
日本でもそれが可能なことを証明した一作。