原作に忠実でエロいSPドラマ版『リング』(1995)と冒頭8分こそ怖い映画『リング』(1998) | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

ここ最近は映画館に行かず、

キム・ギヨン監督作『下女』(1960)

内藤英亮監督の『許された子供たち』(2020)

友人に勧められた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001)などなど

家で映画も漁れば

『機動戦士ガンダム』(1979)を見直したり、

今夏に公開予定の『シン・ウルトラマン』に向けて

『ウルトラQ』(1966)『ウルトラマン』(1966)のブルーレイを購入し、

予習を始めたりなどステイホームを楽しんでいるわけですが、

以前から気になっていたあるドラマを鑑賞しました。

 

そのドラマというのが、

1995年8月11日にフジテレビ系で放送された

『リング~事故か!変死か!4つの命を奪う少女の怨念~』

(自分が鑑賞したのは、これに追撮が加えられた『リング完全版』)

 

この作品は鈴木光司の小説『リング』の最初の映像作品となっており、

なにかのキッカケでこの存在を知った自分は、某動画サイトで鑑賞してみました。

その勢いで、劇場版の『リング』(1998)と『らせん』(1998)も改めて鑑賞しました。

 

今回は『リング~事故か!変死か!4つの命を奪う少女の怨念~』のレビューと

改めて思う劇場版『リング』の面白さをしたためたいと思う次第です。

 

 

 

■リングが描く『貞子の呪い』の特異な魅力■

 

『リング』で描かれる貞子の呪い。

「貞子の殺された恨みがビデオテープに移り、人を死に追いやる」

とだけ思っている方も多いかもしれないが、

この『リング』の面白さはその呪いを理屈的に形作って見せている部分にあると思います。

 

作品によって改変こそされているが、

生まれつき能力を有し、両性具有であった貞子が

人に受け入れてもらえず虐げられる苦しみや子を持ちたいという願望と

生きたまま井戸に閉じ込められた怒りが流行り病だった天然痘と融合し、

ウイルスさながら感染、増殖して人に死を与えていくというように

「呪い」に秘められた物語だけでなく、

呪いを一種計画的にも理屈的にも語り見せる部分

『リング』の特徴ではないでしょうか。

(続編となる「らせん」や「ループ」で呪いはみるみる異なる存在に変わるのですが、

今回は『リング』の中だけでとどめたいと思います)


そして、言うまでもなくその呪いをVHSという

平成初期の時代のアイテムを用いて感染、増殖させていくというアイデアがもたらす

サスペンスと恐怖。

 

後に「回路」(2001)でインターネット、

「着信アリ」(2003)では携帯電話など

時代を象徴するアイテムと呪いを掛け合わせる作風は

一過性なものであるからこそ呪いを起こりうる恐怖に助長するパッケージとなり

Jホラーの黄金期、その一角を支えていくことになったのは言うまでもない。

 

貞子の呪いの特異な部分はそれだけでない。

『リング』の呪いは時に被害者を加害者に変貌させ、

人間が本質的に持つエゴや恐怖を掘り下げてもいく。

 

記憶が曖昧だがTVドラマ版『リング~最終章~』(1999)は

その人間ドラマをサスペンスフルに描いていたように思えるが、

結末で主人公に罪を背負わせるようなSPドラマ版も劇場版も味わい深い。

呪いの先で人間ドラマを描いているからこそ、

『リング』は一過性なホラーにはなっておらず、今も傑作とされているように思える。

 

 

■美しいからこそ恐ろしい貞子。原作に乗っ取った物語■

 

『リング~事故か!変死か!4つの命を奪う少女の怨念~』は

天然病の有無や細かなキャラクター設定を除き、

原作に忠実な作品と評される『リング』の最初の映像作品となっている。



このドラマ版が映画と比較してミステリー性が強く残されており、

『7日間で謎を解くことができるのか』という切迫感ある物語が展開されていきます。

 

呪いのビデオを見てしまった高橋克典演じる主人公 浅川と

同じくビデオを見た原田芳雄演じる大学教授 高山が

呪いのビデオを細かく解析、調査して山村貞子という人物に迫っていく物語は

バディムービーとしてのドライブ感や勢いも味わえるものとなっている。

 

高山が頭脳となり、浅川が足となり、呪いに隠された真相に近づいていくという

刑事ドラマさながらのストーリーテリングは物語を常に前進させていくため見心地がよく、

高山の妙な冷静さとの対比で浅川の抱く切迫感や恐怖が引き立てられているのも印象深かった。

 

そして、驚かされるのは山村貞子の物語を約90分内にしっかり盛り込んでいる構成力

短時間で彼女の出生や境遇のみならず、父との関係や両性具有という原作の要素まで

無理なく組み込み、呪いの背景を理屈的に紐解いて見せる。

 

『リング』の世界観を味わうという意味では

劇場版より圧倒的に優れた作品と言って過言ではないでしょう。

 

また印象的なのは、エロ描写

映画では一言で済まされるカーセックス描写がしっかり描かれ、

また、山村貞子に関しては近親相姦やレイプシーンまで描かれていく。

もちろん、どれもトップが露出した状態のもの。

 

時代という言葉で片づけることもできるが、

この生々しさが山村貞子の物語を掘り下げていたようにも思える。

 

女であり男でもある、逆を言えば、女でもなく男でもないことに対する

山村貞子の感情は性描写によって強烈に焼き付けられるゆえ、

彼女の怒りや苦しみは掘り下げられるからこそ呪いにはしっかり感情が宿っている印象

 

また、続編『らせん』で明かされる真相、貞子の思考への地繋ぎとしても

このドラマの性描写はしっかり意味を成しているように思える。


高山の『貞子という娘が、人間の持つあらゆる美しさを兼ね備えていたということだ』

というセリフを体現するような三浦綺音の演技、スタイルも見事だった。

 

結末も味わい深い。

高山の行動は理に適いながら、続編を踏襲したものとなっているし、

罪を背負わざるを得なくなった浅川の姿にドラマが垣間見える。

 

某動画サイトで「リング ドラマ」で検索すれば見れるかも...

『リング』好きと言わず、ホラー好き、サスペンス好きにもおススメできる作品でした。

 

 

 

■それでも傑作は劇場版。開始8分で酔いしれる中田秀夫監督の手腕■

 

ドラマ版を見てからだと劇場版はかなり説明不足な印象を受けた。

真田広之演じる高山の超能力という荒業で

山村貞子の呪いにアプローチしていくことに加え、

様々な貞子のキャラクター性や背景が削り落とされた物語は記号的であり、

松島菜々子演じる主人公の浅川も大きく取り乱さないため、

『7日間』という切迫感も弱い印象を受けてしまった。


しかしだ。やはり劇場版『リング』は素晴らしい傑作だったと改めて思う。

 

怪談に心霊がTVプログラムを賑やかにしていたこの時代、

「呪いのビデオ」の存在を都市伝説で説明する改変もスマートだし、

物語を不明瞭にすることで心霊ホラー色を強め、恐怖を煽っている部分こそ

この劇場版の特色だと思う。


足音を立てず現れる人物の不気味な演出や、

予兆を感じさせる前に音と画で恐怖を畳みかけてくるホラー演出も印象深い。

 

細かい部分で言えば、

終盤近く、すべてが終わったと思わせたところで、

カウントダウンを刻んでいた「日付のテロップ」を表示し、

呪いが終わっていないことや不吉な予感を漂わせる演出なんて痺れるばかり。

 

そして、言うまでもなくこの作品最大のポイントは

ブラウン管から登場する貞子という映画オリジナル演出だ。

 

黒髪の長髪に白い服。

今やポップアイコンにもなった貞子だが、

爪がはがれた指で、井戸から這い上がろうとした山村貞子の苦しみを見せるなど

見事なキャラクター造形がなされたこの貞子はやはり素晴らしい。

 

そして、個人的に考え深いのが

直接的に映さない、映してもぼやけさせていた心霊描写を

はっきりとした実態として演出したことです。

 

不明瞭なブラウン管内の貞子が画面から飛び出し実体化するこのシーンには

Jホラーそのものの進化を思ってしまうし、

やはり『呪怨』(2000)の原点もここにあったのではないかと思ってしまう。

 

もちろん、画面から侵食してくる映像のショッキングさは興奮もので

今見ても色あせることがなかった。

 

「ダビングすれば助かる」というモノローグで

呪いの増殖と擦り付け合いを予感させながら、

主人公が苦肉の策とはいえエゴを覗かせるラストの味わいまで最高だ。

 

とつらつら言ってきたが、

映画『リング』を改めて見て思ったのは冒頭約8分の見事さ。

すべてが完璧としか言いようがないものだった。

 

主人公の姪である竹内結子演じる女子高生 智子の死を通して

呪いのビデオの存在と呪いの詳細を説明するオープニングなのだが、

すべてがすべてスマートだ。

 

智子は友人が話す「呪いのビデオ」の都市伝説に顔を曇らせた後、

「実は私、変なビデオ見て、あと少しで7日経つんだ」と告白する。

 

友人と智子の温度差や告白を機に一変する空気感もさることながら、

「死を予告された時間に一人でいたくなかった智子」の心情を

シチュエーションで見事に切り取って見せるのがこのシーン。

 

智子はまるで自分に言い聞かせるように「冗談」だと言う部分も

それを忘れるように、まるで身を寄せるようにじゃれ合う2人の姿も

とにかく生々しいわけだが...

 

絶妙なタイミングで、絶妙にうるさい音量でなる電話の受信音に

2人の動きが止まるという...

目を逸らしても逸らせない、逃げようにも逃げれない絶望感を

このオープニングは映画的に見せている。

 

 

電話に出るとお母さんでした!みたいな安堵の後に...

という王道さもまた楽しいわけですが、

この序盤の呪いを嘘だと信じたい2人の生々しいやり取りは必見です!

 

 

■『リング』はやっぱり傑作ホラーでした■

原田芳雄の高山も良いけど、やっぱりミステリアスな真田広之の高山もいい。

原作に忠実なドラマ版も面白いし、

要素を抽出してホラー性を高めた劇場版はやはり傑作。

 

改めて『リング』シリーズ鑑賞してみてはいかがでしょうか。