手数は多くても爆発力は一切なし!?新解釈は破天荒でも会話劇に退屈!?『新解釈・三国志』 | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

本日鑑賞した映画は、
中国の「三国志」を破天荒な新解釈でコメディに仕立て上げた
『新解釈・三国志』

公開日:2020年12月11日
上映時間:113分

-あらすじ-
今から約1800年前、中国は魏、蜀、呉の三国に分立していた。
後に天下を統一することになる蜀の武将である劉備を中心とする
三国志の物語をある学者が新たな解釈で紐解き始める。



実写映画「銀魂」やTVドラマ「勇者ヨシヒコ」などを手掛けた
ヒットメーカー福田雄一監督が
大泉洋を主演に置き中国の三国志をコメディ映画化。
佐藤次郎、ムロツヨシ、山田孝之、小栗旬ら
福田雄一作品常連キャストだけでなく、
勢いのある若手から個性派まで豪華キャストが集結。

◎◎破天荒な三国志も笑える爆発力は皆無!?大泉洋はミスキャスト??◎◎
TVドラマも映画も福田雄一監督作品は概ね鑑賞している自分は
「福田雄一×大泉洋」という図式に歓喜しかなかった。

2014年に放送された「新解釈・日本史」から派生した企画とも思える本作は
三国志という壮大な戦ドラマを新解釈で解きなおし、
確かに作品をスケールアップさせることで福田雄一ワールドを際立たせているようだった。
「こんなにセットに力入れておきながら、やってること同じかよ!」という
ファンの期待に応えるだろう作風
と言って間違えないだろう。

しかし、自分だけでなく隣で鑑賞していた同世代と思われる男性も終始笑うことなく、
また、前半はまだ聞こえていた劇場内の笑い声も後半で寂しいものになっていた。

三国志が本来持つ物語を記号的にのみ抽出し、
機転となるポイントを毎度コントにはめ込んでいく
一種「三国志・オムニバスコント」とも言える本作は
三国志としても、映画としても物語の面白さはない。


ごっつやリチャホのように
それこそ毎週新しい話が放送されるコント番組内のシリーズであれば面白いだろう。
「新解釈・日本史」のように毎週30分放送れるような形式なら印象は180度変わっただろう。

そして、何より残念だったのが、笑えないことだ。
爆発力に掛けたゆるい会話劇が永遠と続くような本作は、抑揚もなくテンポも一定な印象。
これまでのような役者アンサンブルと力技で
そのゆるさを笑いに昇華してみせるような勢いはどこにも見つけることはできなかった。

個人的にその要因は大泉洋という「ボヤキ」で笑わせる人物を中心に置いたことや
声を張ってツッコミを入れる俳優や役どころが少ない部分にあったと思います。


◎◎あくまでオムニバスコント。物語を楽しむ作品ではない!◎◎
福田雄一監督の映画作品はその独特なギャグセンスを光らせながら
映画としての起承転結をお座なりにはせず、
映画としての満足感も大小あれど感じさせてくれる作品が多かったと思う。

三国の武将が凌ぎを削り、時に連合を組み戦うなど
スペクタクルはもちろんのこと個性的な武将キャラクタードラマ性としても
十分すぎる娯楽性を内包している三国志をベースとしていれば
これまで同様に映画としての娯楽性も期待
せざるを得なかった。

しかし、残念なのは三国志という特定の時代=乱世にポイントを絞りながらも
あくまで「新解釈・日本史」同様の作風・作品構成が施されており、
それが映画として、一つの物語としての娯楽性を損ねたように思える。

「新解釈・日本史」を簡単に説明するのであれば、
日本の様々な時代の史実を新たな解釈=破天荒な解釈で紐解いていくコメディドラマ。

重要なのはこの「様々な時代の史実」をというところです。

卑弥呼や織田信長、坂本竜馬ら有名な人物の物語を新たな解釈で紐解いていった「新解釈・日本史」は
時代ではなく、偉人を題材とした一種のオムニバスコントとなっており、

毎週30分一話完結という枠組みとの相性も良かった。
それをまんま「三国志」でやってのけてしまったことが個人的には要因に思えた。

それと異なり、三国がせめぎ合った「時代」をフューチャーしておきながら、
その時代がどう動いたのか。というドラマを隅に置き、
「新解釈・日本史」同様、「人物」をフューチャーしていく本作は
三国志をなぞりながらも、三国志を描く、語るまでには至っておらず、
やはり「オムニバスコント集」を一応にも繋げただけといった印象だ。


また、特定の物語ですら細分化し、物語性を欠如させていく。
クライマックスでは有名な「赤壁の戦い」が舞台となるわけだが、
「孔明の追い風を巡ったイザコザコント」「曹操の宴と疫病によるドタバタコント」
「劉備の酒飲むと英雄化する美談コント」など
一応にも赤壁の戦いの展開に沿ってコメディが連ねられていくわけだが、
ぞれぞれがぞれぞれのコントを全うするのみで相見えることはない。

一言でいえば、ここも赤壁を描くのではなく、
あくまでそれぞれのキャラクターギャグを展開させるのみなわけです。
「三国志」だからといって一つの映画としてなんらかの期待を抱いている人は
確実に痛い目を見ることでしょう。



これが「新解釈・日本史」と同様の枠組みや
コント番組内のシリーズコントとして鑑賞することができたのならば面白いに違いない。
自分は「新解釈」を映画化するにあたり、
一応にも物語が紡げる「三国志」という時代に絞ったと思ったのだが、
どうやらそうではなかったようです。

良くも悪くも「新解釈」の持ち味をそのままに映画化した一作でしょう。



◎◎ボヤキ芸の大泉洋と福田雄一映画は相性が悪かったのかもしれない◎◎
物語以上に残念だったのが、ギャグや会話劇そのものに笑えなかったことです。
これまでの福田雄一監督映画作品史上最もボケが手数多く詰め込まれていると言って
過言ではないコメディ映画になっているとは思うが...

例えるなら、こうだ。
これまでの福田雄一監督作品同様、本作も「100の笑いポイント」を内包しているとする。

これまでの作品は「ここでは5」「ここは20」「ここは反則技で30」と
大小さまざまなギャグを用意し、ここぞというポイントで畳みかけて見せていた。

それが作品の緩急となり、ギャグに勢いをもたらし、
日本映画で稀な笑えるギャグ映画を作り上げることに成功していたと思う。

しかし、本作「新解釈・三国志」は
「ここで1」「ここでも1」「次も1」「ここは少し激しく5」という感じで
細分化することで手数は爆発的に増やして見せた。

ただ、こうすることによって爆発力ある笑いは無くなっており、
また、一定のテンションが保たれ続けるため作品も単調になる。

我ながらうまく例えられたような(笑)
ほぼ全編を通してそんな会話劇となっている本作に睡魔を覚える人もいることだろう。

そして、心底思ったのが大泉洋さんが「ボヤキ」で笑いを誘う人間であるということだ。
自分はTV番組でボヤキ、正論でありながら捻くれてもいる大泉洋さんの
バラエティー番組内での立ち回りに大笑いしている。
しかし、それは完全な自由があってこそのものなのだろう。

福田雄一監督作品の要は
俳優陣の振り切った「顔面芸」と「声を張ったツッコミ」にあると思う。

それこそドラマ「半沢直樹」的な勢いにあると思う。

「今日から俺は!!!」の賀来賢人、「銀魂」の小栗旬、
「女子ーズ」の出演女優をはじめ、
多くの出演者は役者生命を掛けたような振り切ったアクションを見せてきた。
だからこそ、タンタンとアドリブを展開するムロツヨシ、佐藤次郎が際立つというのもある。

しかし、本作で主演を張る大泉洋さんはTVと違い、
不可避的に役者の面を多く見せており、
加えて、劉備のキャラクター性もあってか、
声を荒げてツッコムというよりボヤキを発し、顔芸は皆無なものとなっていた。

これもまた、「新解釈・日本史」のようにTVであったら笑えたのだろうが、
映画となる本作において、いつもより自由が制限された大泉洋さんのボヤキも
劉備というキャラクターのコメディーリリーフとしての弱さも感じざるを得ないもので
笑っても息が漏れる程度のものだった。

そして、これは大泉洋さんだけではない。
本作の脇を固める実力派俳優やイケメン俳優の勢いが弱く、
また、福田雄一監督作常連俳優に至ってもテンションが低いように思えた。
ここには少なからず、「作品への愛」の有無はあったとしか思えない。


それに引っ張られるように編集にもいつもの勢いがないようにすら思えた。
ズーム演出や音演出に至るまで、これまでにあったごり押し感がない。

「役者がつい笑ってしまった」シーンがないということが
すべてを物語っているようにも思える。


◎◎もうひとアイディア欲しかった。西田敏行演じる語り部によるストーリーテリング◎◎
「新解釈・日本史」と明確に異なっているのは、
西田敏行演じる学者によって新解釈が提唱され、語られていくということ。
この学者によるストーリーテリングという構成があることで
随所で三国志の知識や現行正しいとされる史実を説明し、新解釈の娯楽性を高めていく。

三国志の記憶がかなり曖昧になっていた自分にとって
この構成は非常にありがたいものとなっており良かったわけだが、
西田敏行という俳優さんをキャスティングしておきながら
ただの語り部という役どころにのみ収まっていたのが残念なところでもあった。

もし、あそこに新解釈に異議を問う人物が一人でもいたら。
それが口論に発展したり、はたまた何を反論されても
どんな妨害を受けても無視して永遠と新解釈が語られていったら。

そんなようなひとアイディアで学者シークエンスもコメディの一部にしてほしかった。
自分の中で西田敏行さんは温厚な外見を持つドSキャラなので
そんな展開が繰り広げられたらヒヤヒヤしてしまうが(笑)

本編が本編なだけに
つまらない歴史の授業をウンチクを交えながら永遠と聞かされたような映画だった。


◎◎総評◎◎
もしかしたら福田雄一ファンであればあるほど
本作に残念な感情を抱くかもしれない一作。
「福田雄一監督×大泉洋」というメインカードが
蓋を開けたらジャブの打ち合いで判定試合。
そんな印象を受けてしまった一作。
正直、今年ワースト10には入る一作。