ポリゴンショックの100倍!鑑賞自己責任!ギャスパー・ノエ最新作『ルクス・エテルナ 永遠の光』 | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

本日紹介する映画は
ポリゴンショックを超えた映像ショック!
混沌と狂気の撮影現場が描かれる

『ルクス・エテルナ 永遠の光』

公開日:2020年11月20日
上映時間:51分

-あらすじ-
スタジオでは魔女狩りの火刑シーンの撮影が行われようとしていた。
しかし、監督と撮影監督の関係は悪化の一途を辿り現場は進まず、
その影響はスタッフ、キャストまで波及。
現場は地獄の雰囲気に包み込まれていく中、あるトラブルを気にそれが爆発してしまい...

※本映像には激しい光の点滅があります。ご注意ください。



新作が公開されるたび激しい賛否を巻き起こすギャスパー・ノエ監督最新作
魔女狩りをテーマにした映画の撮影現場が地獄と化していく様が
スプリット画面を用いたストーリーテリングと光の点滅激しいショック演出で彩られる。

◎◎予告編を見て驚愕!上映が中止になる前に...◎◎
エロいもの見たさに『アレックス』(2002)をレンタルし後悔。
それがギャスパー・ノエとの出会いだったわけですが、
パーティーがドラッグで地獄絵図に様が割っていく様を描いた
前作『CLIMAX クライマックス』(2018)には心底やられました!

そんなこともあってギャスパー・ノエは個人的に必見監督になっていたわけですが、
最新作の予告編を見て驚愕しました。

ちょうどTVアニメ『ポケットモンスター』の
俗にいうポリゴンショック世代の自分なわけですが、
それとは比べものにならないほどの激しい光の点滅!ショック映像!


「これは上映中止になるかもしれない...公開早々に見に行かねば」

予告編が公開されてからそんな気持ちで待ちわびてしまいました!

正直、『キワモノ』への興味、好奇心というものが大きかったわけですが、
「作品を作る面白さ」や「苦悩の先にある景色」など、
「映画愛」に溢れた最高の一作でした!

それをアバンギャルドな映像で語りあげてしまうギャスパー・ノエ。
監督としてのすごさとともに、その変態さにまたニヤついてしまいました。


◎◎前作を超える混沌混乱。それを体感させるスプリット画面◎◎
冒頭から思い知らされるのは、
ギャスパー・ノエの相も変わらずに端的な物語説明力。

カール・テオドア・ドライヤーの映画『怒りの日』の映像を引用して
本作が魔女狩りをテーマにしていることをオープニングで説明したのち
2人の女性が画面に登場に何気ない会話が交わされていくわけだが、
彼女らが火刑シーンを撮影しようとしていることや、
たわいもない過去の話からそれぞれのキャラクター像を構築し、
なんなら表面的な気遣いのさじ加減で監督と主演女優という関係性まで語り上げる。


また、随所に差し込まれる偉人達の言葉の引用
本作が何を描こうとしているのかを説明していくという演出も見事。
不勉強ゆえ、その名にピンとくる人物は一人もいなかったわけだが、
彼らの語る映画の理論がそのままクライマックスに紐づけられるといっても良い。
本当にスマートで雄弁なストーリーテリングだと感心してしまう。

そこに関しては一度、置いておくとして。
この作品は映し出される撮影現場の混沌をスプリット画面演出で見事に体感させに来る。

監督と撮影監督は一触即発状態。
プロデューサーはそんな状況に怒りを覚え、監督降板を目論み始める。
その亀裂は現場の雰囲気をも悪化させ、スタッフ、キャストをも巻き込んでいく。

ひとつのシチュエーションを舞台に地獄絵図と化していく物語となれば
前作『CLIMAX クライマックス』(2018)と思い出してしまうが、
スプリット画面演出が『CLIMAX クライマックス』よりも混沌さはマシマシにしている。

流れるような長回しカメラワークでパーティーが地獄と化していく様を描いた
『CLIMAX クライマックス』はまだ視覚的には整理されており事態を吞み込める範疇にはあったが、
本作はスプリット画面演出でスタジオ内の2つの物語がまさに同時進行され、
左の画面と右の画面ではまったく異なる会話が繰り広げられていく。

要するに、字幕が左右の画面に一つずつ表示されるわけです!!!!

一言一句逃さず鑑賞することは聖徳太子意外無理でしょう!
 

しかし、この型破りな演出、観客に事態を整理させず混乱させる演出が
「険悪でスタッフ、キャストによる混沌の撮影現場」を体感させてくれます。

観客に有無を言わせず、時間だけ前に進めていく
強制的なライド感も映画的な娯楽に富んでいました。

左の画面ではキャストが不平不満、右の画面では監督と撮影監督が喧嘩と
そんな風にもうめちゃくちゃなわけですが、
「契約があるから難しい!」
「こんなの契約書になかった!確認して!」
というリアリティーに溢れているのも魅力です。

あまりの混沌と収集のつかなさ加減に自分はかなり笑ってしまいました。


◎◎個人的には高揚感に溢れたラスト!目に負担大なので注意◎◎

ついにやっとのことで火刑シーンの撮影が始めるわけですが、
監督と撮影監督はまったく意思が取れず衝突を繰り返します。
そんな時、背景を映し出していた巨大モニターがトラブルを起こし...


※ここからはネタバレも含みます※


巨大モニターがトラブルを起こし、RGBの画面を点滅させ出します。
ここから強い光の点滅が永遠と続いていくわけです。
現場では責任転嫁の擦り付け合いと激しい口論が巻き起こりカオス状態に。
撮影を続行する撮影監督と撮影を止めようとする監督の悲痛な叫び。
磔状態のまま放置される3人の女優の姿が激しい点滅とともに映し出されていきます。


とにもかくにもいままで経験したことのない映像ショックです!
こんなトリップ体験はなかなかないでしょう!確実にキメに来てます(笑)
この映像体験は今、この時しかできないでしょうから、今すぐ映画館に行きましょう。

それだけで終わるならただのキワモノ作品なわけですが、
自分は本作のラストに映画愛、もっと言えば
「こうだから作品(映画)製作はやめられない!」という
ギャスパー・ノエ監督のメッセージを感じ、感動しました。


激しく光が点滅する中、監督の阿鼻叫喚もむなしく、
撮影監督はひとりカメラを回し続け、主演女優はある境地に達します。

場面は地獄絵図そのままなのですが、カメラは映画の奇跡を映し出します。
この奇跡というのは、この作品では超常的なものともとらえられますが、
そうではなく、
「様々な影響が偶然重なったことで演者が境地に達し、それをフィルムに収めることに成功した」
という奇跡です。


監督と撮影監督のこの上ない険悪な関係。
それもあり、なにひとつうまく嚙み合わない撮影現場の混沌。
自らの娘が苛めを受けたかもしれないという疑念。
そして、それらが臨界点に達したときに起こるモニタートラブル。

それらの物語は一切収集のつかないまま終わりますが、
それらの「地獄要素」があったからこそカメラはひとつの奇跡を映し出します。

これは映像制作の酸いも甘いもすべてを凝縮したクライマックスになっていたと思います。

様々な偶然が重なり、意図せずとも想像を超えたシーンをカメラに収めた瞬間や
苦しみの果てにたどり着いた映像に直面した瞬間の興奮と高揚感。
この作品が終始描く地獄も映像制作の過酷さそのものでしょう。

ともあれ、だからこそラストは見ていて感動しました。
今年トップ級に高揚しました。

アバンギャルドな作品ですが、
強烈な映像を通してギャスパー・ノエ監督が
自らの映画愛を語った映画だと思います。


そして、エンドロール!
収まることのないRGBの光の点滅の中に流れる
これぞギャスパー・ノエ!と言わんばかりの書体、デザインで
流されていくキャスト・スタッフロール!


もうここに極まったと言ってもいいでしょう!


◎◎総評◎◎
上映時間51分!体感時間10分!
個人的には今年トップレベルの感動と高揚感!
賛否不可避というより害不可避な映像作品ですが、
個人的には今年のダークホース的、最高の一作でした。