前半退屈...クライマックスは興奮に号泣‼映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020) | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

 

本日鑑賞した映画は
『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』


公開日:2020年11月6日

上映時間:117分

-あらすじ-
鬼に家族を殺され、鬼となった妹を救うため
鬼殺隊となった竈門炭治朗は、
短期間に40人以上が行方不明となった無限列車の任務に就く。

炭治郎と我妻善逸、嘴平伊之助は、
鬼殺隊最強の剣士“柱”のひとりである炎柱の煉獄杏寿郎と合流し、
闇を進む無限列車の中で鬼を相手に戦い始めるのだったが...



峠呼世晴の人気コミックを原作にしたアニメ「竈門炭治郎 立志編」の続編となる劇場版。
公開から17日で観客動員数1189万人を超え、興行収入が157億を記録。
近年稀にみる社会現象を巻き起こしていることで注目を集めている。


◎◎鬼滅恐ろしや!ハマりたくなかったのに...◎◎
コロナによる自粛期間もあってNETFLIXで話題となっていた
アニメ『鬼滅の刃』を鑑賞してみたわけですが、自分はハマれなかったわけです。
(たぶん、物語がストレート過ぎたのかな...と)
ただ、終盤で登場した無限城をはじめとする世界観に魅了されたので
話題沸騰の劇場版を鑑賞してきました。

正直、最初の1時間30分ほどは驚きを隠せなかった。
アニメーションは素晴らしくも、
そのTVアニメルックな作品演出に溜息が止むことはなく、
夢=回想にキャラクターが囚われ、前に進んでいかない物語に退屈を覚えた。

個々の能力で役割が割り振られ、その役割を果たせたからこそ勝利が訪れる
という宿敵=下弦の壱・魘夢との決着はよく考えられていたものの、
『これが大ヒット映画!?』という残念な想いに駆られた。

しかし、その後に訪れたクライマックスで大いに興奮してしまった。
童心に戻ったように目の前のアクションが放つ熱量に魅了され、
本作で最も大きな存在感を放つ鬼殺隊最強剣士のひとり 煉獄杏寿郎の姿に
憧れ、涙を垂れ流す結果となった。

『鬼滅って面白い?』と鼻で笑っていた自分が鑑賞後に
品切れ状態と知りながら書店を回っていたことに一番驚いた。



◎◎映画的舞台でありながら映画的でない演出にへきへき...。〇〇演出もヒット作ゆえの問題点!?◎◎
TVシリーズの第26話『新たなる任務』から直結して始まる物語。
オリジナルストーリーではなく、物語の続きを劇場で公開なんて
一昔前だったら非難の的だったのに!
TVシリーズでは物語を終わらせず、エンディング後に
劇場版に続くことを告知した『仮面ライダーディケイド』への非難が懐かしい(笑)
鬼滅の刃は根本的に子供向けではないからもんだいないのだろうが...

話は脱線してしまいましたが、
修行を終えた炭治郎と我妻善逸、嘴平伊之助、そして禰豆子が
行方不明者が多発する無限列車に乗車し、
鬼殺隊最強剣士のひとり 煉獄杏寿郎と合流し任務に就くポイントから幕を開けます。

列車という映画なシチュエーションを用いた舞台設定に加え、
そこで人を喰らう鬼=下弦の壱・魘夢が先頭車両に待ち受けるとなれば
爆弾を止めるため先頭車両に向かってフードファイターを戦っていく
ドラマSP『フードファイト 深夜特急死闘編』が大好きな自分にとっては
不可避的にワクワクものなわけです。

そんな勝手な想像もあって物語はかなり退屈でした。
というのも数体の鬼との戦いで題材やテーマの説明、
そして、煉獄杏寿郎の強者感を見せたのちは
内面世界の葛藤に移行するものだったからです。

人物を夢に誘う下弦の壱・魘夢の血鬼術に翻弄される鬼殺隊という
現実の物語が立往生する物語に贅沢な尺を割いている本作は
自分にとってあまりに退屈の一言。


加えて、衝撃的だったのがその説明過多な演出です。
少年漫画の主人公が内面的葛藤を口に出し説明するのは
もはや日本の文化であり、実写映画ではなくアニメなので
そこに関してはあまり違和感を感じることはなかった。
夢という内面世界に舞台が移行すれば尚更いたし方がない。

最たる問題となっているのは下弦の壱・魘夢のセリフ回しだ。
内面的な葛藤を吐露する主人公とは異なり、
誰もいない場所で自分の血鬼術の仕組みを説明するだけでなく、
「今何が起こっていてどういう状況なのか?」まで流暢に説明して見せる。

これは正に観客に対する説明でしかない。
観客が映画館で集中して見ることを想定している映画において、
観客が見ていて理解できうる内容をさらにセリフで説明してくる作品には
正直覚めてしまうところだ。
映画『TENET』はくらい難解であれば別だろうが...


『鬼滅の刃は子供向けだからいいじゃないか?』
と思う方も多いだろうが、個人的にはそうは思えない。

バイオレンスや残虐描写に関してはさておき、
本作ではハッキリと自決描写があり
なんならそれを連発するシークエンスが存在
している。

主人公 炭治郎が自分の首を切る行動には
「夢から覚めるため」「現実に戻るため」という理屈があるのだが、
そこに関して言葉によるフォローがない本作は
決して子供向けではないだろうし、PG-12、親の教育は必要不可欠だ。

ただ、この描写に関して決して悪いとは思わない。
作品の大正という時代が放つアンダーグラウンドな世界観や
死が複雑に絡み合うことで魅力を放つ『鬼滅の刃』においては
もっともな表現にも思えるからだ。
これは想像以上のヒットによる弊害だと自分は思います。

とはいえ、とても面白いと言えた作品には
この時点ではどうしても思えなかったわけで...


◎◎勝利にキャラクターロジック!アニメーションの幅広さ!◎◎
下弦の壱・魘夢との戦いを内面的な葛藤で描いても行く本作だが
その退屈さに反してよく計算されてもおり、
また幅広いアニメーションをスクリーンに映し出していくのも事実だ。

物語の途中から幕を開ける本作ではあるものの、
それぞれの内面世界=夢を雄弁に見せ、語っていく本作は
非常に丁寧なほどにキャラクター説明を行っていく。

キャラクター説明シークエンスを下弦の壱・魘夢との戦いとして用いている本作は
この作品から見た方にも間口の広い作品となっており、
本作の主軸となる炭治郎の復讐劇の発端を端的に説明しを得るのみならず、
その成長まで描いている部分には驚かされた。


そして、それらキャラクターに色を与えるのが
素晴らしいアニメーション演出だ。
アクションシーンや着物の柄にまで行き届くディテールなども驚くが、
ベテランから若手まで様々なアニメーターの個性を活かしながら
複数の技法を用いることでキャラクターの個性を表現しているともいえる
夢シークエンスもかなりの熱量を放っている。


このキャラクターはリアルルックにシリアス色調に。
このキャラクターは児童アニメーションルックでポップな感じに。
それぞれのキャラクターの個性にあったアニメーション演出があり、
それが作品を重くしすぎない部分もこの作品が人気を集めている要因だろう。

そして、意外にもしっかり設計されていたのが
宿敵=下弦の壱・魘夢との直接対決
です。

「敵が容姿を変貌させ、巨大化する」展開が好みではない自分は
この下弦の壱・魘夢との直接対決に興奮することはなかったものの、
ここでもキャラクターの個性を活かし、
彼らが能力を適材適所で発揮したから勝利できたという
勝利に明確なロジックが用意されている部分には脱帽した。


なぜならば、この手の作品の多くはただただ必殺技という力押しか
なんらかの奇跡的なパワーで勝利することが多いからだ。

自らに課せられた場所で全力を尽くし下弦の壱・魘夢に立ち向かうという構造は
ハッキリとしたチームプレーを演出。
最強剣士のひとり 煉獄杏寿郎がサポート的位置を担当する部分や、
だからこそその異次元な強さが語られる構造も見事なところでした。

満身創痍になる主人公。ついに動きを止める無限列車。
そんなようにして下弦の壱・魘夢との戦いに決着がつけられます。


ただ、この時自分は思いました。
「あまりにも普通の劇場版だ...どこに泣くポイントがあったのだろうか...」と。



◎◎劇場版でこの物語を知れて良かった!煉獄杏寿郎かっこよすぎる◎◎
とにかく不平不満を募らせていた自分でしたが、
その後に訪れる本当のクライマックスでそれらは消えてしまいました。

漫画未読、結末を知らなかったことをここまで喜んだことはありません。

熱量が線や作画、コンテに現れているようなクライマックスには
童心に戻って釘付けになりました。
その戦いから紐解かれる煉獄杏寿郎のキャラクター性には惚れ混む。
活躍はほぼ本作が初めてと言っても過言ではない煉獄杏寿郎に
ここまで思い入れを持つようになるとは驚きました。

そんな煉獄杏寿郎の過去とある行いが紐づく静寂には涙しました。
そして、上に立つ者の手本たるその姿はやはりかっこいいの一言ですね。

加えて、恐ろしく計算されているのが
このクライマックスが炭治郎の物語の新しいブリッジとなっていること。
目上の力、この先の道の険しさを目の当たりにする衝撃に加え、
炭治郎は家族を殺した鬼への復讐だけでなく
また新しい想いに動かされていく。
そして、炭治郎の持つ力の真相への扉の鍵まで残していくとなれば...
本当に早く漫画を買って読み漁りたい想いでいっぱいです。


極上の美術で描かれた「夜明け」で人と鬼を仕切りながら、
観客の意識、興味を次の物語に運ばせるこの構成は恐ろしい。
これは映画というより峠呼世晴さんの手腕に違いない。

◎◎総評◎◎
『この映画を見てハマったらどうしよう...』
そんな嫌な予感が的中してしまった作品でした。
途中までは映画としてなかなかに惨いものでしたが
クライマックスですべて帳消しにしてくる。

しばらくは、煉獄杏寿郎が脳裏から離れない気がする。