映画『マインド・ゲーム』レビュー 100点 もはやアニメーション・ミュージカル! | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

『マインド・ゲーム』

公開日:2004年8月7日

上映時間:103分

 



アニメ『クレヨンしんちゃん』シリーズで注目されて以降、

外連味溢れるアニメーション意表を突く見事な物語

今や世界屈指のアニメーターとなった【湯浅政明監督】

ロビン西の原作をアニメと実写を融合という実験的な映像で映画化した2004年公開作。

 


初恋の女性 みょんちゃんと偶然再会した西くん

彼は彼女の姉 ヤンが営む焼き鳥屋で再会の喜びに浸かり、

みょんへの想いを再び噛み締めるのだった。

しかし、運悪くみょんの家族が抱える借金を取り立てるために

2人のヤクザが店を訪れ、西は殺されてしまうのだった

神様に抗い地上に舞い戻った西は、みょんとヤンを連れ逃亡。

挙句の果て、鯨に飲み込まれてしまい...

 

 


ライムスター宇多丸さんが事あるごとにこの作品の名前を挙げていたので

以前から気になっていましたが、DVDを購入して鑑賞しました。

まず、結果から言うのであれば...

これまで観てきた【アニメ作品の中でNo.1】でした。


湯浅政明監督作品のファンですが、彼の作品の中でも

本作のアニメーションは群を抜いていると思います。

過去作ですが湯浅政明監督の集大成にすら思えてしまう。

 


ざっくり物語を説明するのであれば、

ずっと好きだった女の子と再会した主人公が、

ヤクザに苦しめられる彼女とその姉を助け逃亡するも、

その先で鯨に飲み込まれ、そこからの脱出を試みていくというもの。

 


まぁ、なかなかぶっ飛んでおりますが、

クライマックスではその【緻密に計算された演出】に驚かされます。



観やすかったため2回鑑賞しましたが、

1回目はエネルギッシュなアニメーションに【ぶっ飛ばされ】

2回目は点が線でつながっていく【作品ギミック】【物語テーマ】に感服しました。

とりあえず、こんなアニメーション映画見たことがありませんでした。

 

まずは、湯浅監督らしいアートアバンギャルドであるからこそ

高いエンターテインメント性を放つアニメーション描写の高揚感。

 


今田耕司をはじめとする声優キャストの顔をキャラクターにはめ込むなど、

【アニメと実写映像との融合】という実験的なアニメーションは

あまりのフレッシュさでぶっ飛ばされたわけですが、

やっぱり強烈に観る者を翻弄してくるのは

【アニメーションの可能性を探求する】ような映像です。

 

このシーンではこんな演出。このシーンはこんな世界観で。

といったよう様々なアニメーション描写で物語展開させ、

はたまたキャラクターの内面を描いていく本作は

オムニバス・アニメーション作品にすら見えるほど彩り豊か。


歌うことはないですが、もはや【アニメーション・ミュージカル】ですよ。

 

シンクロナイズドスイミングシーンは

全体を見せる優雅な画づくりと滑らかなモーションで。

ダンスシーンはキャラクターの等身を過剰にデフォルメし、

実写では不可能なエネルギッシュな描写で。

 

常に【新しいもの】を提示し続けてくれる本作は

映像作品として全くフレッシュさを損なわず、飽きが決して来なかった。

 

そして一貫して存在しているのが湯浅監督らしい

【外連味溢れるアニメ演出】【センスが光るユーモア】

 

飯をたくさん食べたら異常に膨れ上がる腹!

痛めた足が異常に赤く腫れあがり、それがドクドク脈打つなど、

アニメーションだからこその醍醐味が満載。


人物の【歪み】にリアルとは縁遠いい【遠近感】

この上なく【縦横無尽な演出】などで

人物の感情やシーンそのものに熱量を与えているのも相変わらず流石なもの。

 

時に大胆なほどアバンギャルドで、時に懐かしい程王道をシュールに。

アート性と娯楽性の両方が相乗効果的に際立つ

湯浅政明監督の特色をこれ以上になく味わえる作品でした。

 

ここに関しては湯浅監督か原作のロビン西かわからないが、

あまりにもユーモアのセンスが良すぎる

 

どんなものかわからない。ならどんなものでもなくしてしまえ。

そう言わんばかりにコロコロと容姿を変える神様のバカバカしさは

面白さだけでなく、的も射てくる見事な造形。

 

男の下心を軽快に描き、しっかりギャグに落とし込む

ルパン三世顔負けのセンスも親しみがあっていいし、

一番笑ったのはクライマックスの

足折れた→昔、牛乳飲んでなかったからか!(後悔)

→隠れて母親が料理に牛乳入れてました→折れた骨、修復!

という回想を絡めたひと演出!

 

テンポもいいし、可愛いし、やっぱり外連味効いてるし。

声に出して笑いましたね。

 

やはり湯浅政明監督流石!という一言に尽きる

アニメーション映像表現に本作は溢れていました。

 

そして、物語です。

正直、物語冒頭からクライマックス直前まで舐め切っていました

映像先行の作品だろうなと...

しかし、これがラストで見方もとらえ方も一変させられます!

 

冒頭の再会からヤクザとの逃亡劇はあくまで土台作りであり、

本番は鯨に飲み込まれてから始まります。

あまりネタバレしたくないので避けますが、

 

自分たちがいた世界から隔離されたキャラキターたちが、

その生活の中で自分をさらけ出し、楽しみ始める。

それは【諦めていた、忘れていた夢への想い】を再び呼び起こし、

無限の可能性がある外界(自分たちのいた世界)に戻るために

クライマックスでは壮絶な脱出に挑んでいきます。

 

鯨に飲み込まれたから脱出するのではなく、

自分の可能性を信じて、後悔していた人生をやり直すため

世界に飛び出そうとする本作の物語は心を揺さぶってきます。

 

彼らが抱える後悔とは。彼らが抱いていた夢とは。

その根底たる部分がとても重要になってくるわけですが

そこをセリフではなく、あくまでアニメーションで描いているところが

この作品の素晴らしさです。

 

映像作品として優れていたアニメーションシークエンスが

クライマックスではキャラクターの

【後悔】【想い】【可能性】に変わっていく部分に驚かされました。

 

そして、冒頭と対になりながら些細な変化で

【がんばれば人生、やり直せる】というメッセージを打ち出し、

点かと思われた登場人物の人生が、ここまでの物語によって線で繋がり、

【壮大な人間ドラマ】であったことを明かして見せるラスト。

 

疾走感からの解放感。

不変的でエネルギッシュな物語の結末。

想いもよらなかった作品ギミック!

あまりの高揚感にそのまま2度目の鑑賞になだれ込みました。

 

いろいろな伏線が張られていることや、シーンの意味がわかるので

2度見て尚楽しい作品でした。

 

 

アニメーションを最大限に楽しみ、

アニメーションだからこその表現と物語演出で

最初から最後まで作り上げられたような作品でした。

湯浅監督作品の中では断トツで好きだし、

今まで観てきたアニメ映画の中で1番好きな作品でした。

 

【100点/100点満点中】