映画超雑レビュー「目撃者」40点 見て見ぬふりをする現代社会を皮肉るサスペンス | SayGo's 映画レビュー
「目撃者」
公開日 2019年3月29日
上映時間 111分
ーーーーあらすじーーーー
新居に引っ越してきた会社員 サンフンをその家族。
ある夜、酔っぱらい帰宅したサンフンは女性の悲鳴を聞き
ベランダに出るとそこで女性が男性に殺害される場を目撃してまい、
犯人と目を合わせてしまうのだった ー
偶然殺人現場を目撃し殺人鬼から狙われる男を描き、
韓国で大ヒットを記録したサスペンススリラー作品。
★★期待しすぎると痛い目を見るサスペンス★★
殺人の瞬間を偶然目にしてしまった男が犯人から命を狙われる
という誰にでも起こり得そうな題材と
『韓国での大ヒット』『ハリウッドリメイクオファー』という
多大なる作品反響に興味を引かれ鑑賞したわけですが、
最近自分にパッケージを見る目がないのか、
コピーに騙され癖がついてしまったのか、
イマイチなサスペンス作品だった。
★★主人公の行動原理に疑問!?そのウジウジさにはイライラ★★
ごく普通に家族と幸せな日々を送るサンフンが
殺人現場を目撃してしまったことを期にその生活を一変させられる。
そんな事件の加害者でも被害者でもない主人公が
ある種の良心から渦中に巻き込まれてしまうという題材は
誰にでも起こりうる怖さのあるサスペンスとなっている。
『殺人を目撃してしまったから犯人に狙われる』
という強迫観念から警察に助け求められず、
事の静観に徹することで家族を守ろうとするとするも
犯人が現れるというサスペンスに加え、
真相を知りながら無関係を装う自らの行動が二次被害を生んでしまい
その罪悪感に苛まれるという負が連鎖をみせるといういたたまれさなさが
道徳心と保身の間で揺れ動く主人公 サンフンの孤独な内面葛藤、戦いを描いていく。
クライマックスこそスケールのある真相が明かされるものの、
事が必要以上に拡張されない本作はリアリティーに長けいるため
とてもスリリングな緊張感を味わうことのできる作品だ。
しかし、まぁ~イライラがとまらない作品だ。
というのも、主人公 サムスンと犯人は殺人の瞬間に視線を交え、
互いが互いを認識してしまっているからだ。
一方的に犯人の顔を見てしまった。
もしくは、ギリギリ犯人に見られず済んだのであればまだしも、
主人公 サムスンと犯人は確かに視線を交わす。
事を目撃された犯人がサムスンの住む部屋を指で数え割り出し、
その後すぐ部屋の前までやって来るという展開からもわかるように
犯人もサムスンに見られていたことをはなから知っているのだ。
要するに、犯人と視線を交わして時点で
サムスンは何をしようと魔の手から逃れられない状況に陥っている。
なのに、サムスンは警察の捜査協力を執拗に断り、
静観することで自分と家族を守ろうとする。
仮に犯人に目撃者として認識されていなければ、
そのサムスンの静観、なにも見ていない装いは確かな護身となるが、
この作品においては『バカなのか!』と言いたくなってしまう。
自分であれば、すぐに犯人を目撃してしまったことを警察に話す。
協力し、いち早く逮捕してもらうことで危機から脱すると思うのだが...
自分で自分の首を絞めながらずっとウジウジし、
犯人を逮捕に奔走する警察に半ば逆ギレ対応をするサムスンには
イライラを抱く人も多いことだろう。
本作の物語の流れであれば、
家族を不安にさせないため密かに警察に目撃者と名乗り出るも、
警察は全く守ってくれず一人で家族を守らざるを得なくなり...
という展開の方がまだよかったような気がしてしまう。
題材もシチュエーションもリアルであるため、
納得のできない、行動原理が破綻しているように思える
主人公の行動には大きな不満の残る作品だった。
★★秀逸な現代社会描写の皮肉さ★★
物語に関してはいろいろ言いたい部分の多い作品だったが、
この作品の現代社会描写はとても面白いものだった。
まずひとつは、『他人の面倒には関わろうとしない』という
現代社会を映像で見せる部分。
夜中に外から聞こえてきた女性の悲鳴に
何事かを確認するためにサンフンはベランダに出るのだが、
いくら女性の声が響こうと周囲のマンションの住民は
まさに『静観』に徹しているのだ。
これは非常に恐ろしい。
というのも、
『助けの声を上げても誰も助けてくれない』という状況もそうだが、
それがあながちフィクションとは言い切れないからだ。
自分を始め恐らく多くの人は、
他人が助けを求めていても面倒に巻き込まれたくないという
保身から静観するだけで自ら率先して関わろうとはしないだろう。
また、殺された人物を悼むよりも、
殺人によってマンションの価値が下がる事を不安に思う住民の会話などは
人の建前の奥にある本心をも浮き彫りにしていく。
そして、クライマックスではある真相が明らかになるのだが、
それは間違えなく見てみぬふりをする現代社会の副産物でしかない。
そう考えると、犯人の大胆な犯行は
現代社会と共犯関係を結ばせるようなものとしても見えてくる。
本作においてサンフンをはじめ、
あのマンションの住民たちはある種で殺人を容認しているのだ。
スケールは全く違うが、
マナー違反をしている人を注意することなく、
静観し容認していることと同様に。
面倒を嫌い他人と関わろうとしない現代社会を
殺人を通して見せてしまう本作には
自分が存在しているようで様々な考えを巡らされた。
そして、皮肉なのは
聞こえてきた悲鳴に良心から行動してしまった人物が
結果、危機に晒されるという残酷性だ。
本作において、助けられずとも悲鳴に反応し様子を伺った人物は
見事なまでに渦中に巻き込まれていく。
人として正しさのある反応をした人物が
見なければ、知らなければ...
と後悔を巡らせるこの物語はとにかく居たたまれない。
★★総評★★
パッケージの魅力的なコピーに騙されると
痛い目をみる作品だろうが、
的確な現代社会への皮肉描写は素晴らしい。
『視線』に様々な意味を持たせる本作は
目撃者というタイトルにふさわしい作品だ。
★★