映画超雑レビュー「アルキメデスの大戦」82点 日本戦争映画に希なエンタメ感!桜の如き大和! | SayGo's 映画レビュー
「アルキメデスの大戦」
公開日 2019年7月26日
上映時間 130分
ーーーーあらすじーーーー
昭和8年。
日本は欧米列強をの対立を深め、
世界から孤立しはじめていた。
そんな中、日本海軍本部は世界最大の戦艦の建造に動き出す。
将来、航空機こそが軍事力の要となると考える山本五十六は
その巨大主砲を主戦力とした戦艦建造計画に反発。
そのあまりにも安価な見積もりを独自に算出し直し、
空母開発案を推し進めようとするも難航。
そんな彼は100人に一人の天才と呼ばれる数学者 櫂に出会う。
三田紀房のコミックを山崎貴監督が実写映画化。
戦艦『大和』の建造計画を数学で阻止することで
戦争そのものを止めようとする数学者の戦いを描く。
主演は菅田将暉。
★★逆にどうした!?今回の山崎貴監督作は傑作★★
好きな作品もあれど、
『山崎貴』という名があるだけで
どうしてもクスッ!ともしてしまう自分。
全くの別物だが、一度『ヤマト』で醜態を晒した彼が
また『大和』をやると聞けば...ね(笑)
山崎貴監督に対して自分のような思いを抱いている方も多いだろうが、
そんな人ほど本作は驚くだろう。
なぜならば、これが素直に面白いといえるエンターテインメントだったからだ。
敗戦という結果や肯定しようのない傲りや過ちに満ちた日本の戦史。
それゆえ、日本の戦争を題材にした戦争映画は
海外作品のようなエンターテインメント作品にしづらく、
仮にそうしようものなら過ちを肯定もしてしまう。
日本の戦争映画はエンターテインメントではなく、
戦争を『知る』、戦争から多くを『学ぶ』教科書なのだと思う。
しかし、本作はエンターテインメントとして楽しめる希な作品だ。
デフォルメされたキャラクター演出や山崎貴らしい抜け感が
史実ではなく『フィクション』だと割りきらせてくれることもあって
大きな背徳感なく楽しむことが出来るだけでなく、
クライマックスでは戦時下の日本の姿を
戦艦『大和』ひとつに集約しても見せてしまう。
娯楽性と日本における戦争映画としても確固たる意義をも両立してみせるのだ。
題材が題材であるがゆえすべてを肯定こそしきれないが、
この夏オススメできる一作だ!
★★山崎貴&白組の本気!約5分の壮絶なオープニング★★
監督自身がインタビューで答えているように、
VFX技術の向上によって見事なまでに再現される
オープニングの『大和の最期』は壮大としか言いようがない。
航空機攻撃の前に防戦一方に追いやられる日本の戦艦『大和』。
アクションシーンとしてのスケール感はもちろんのことだが
海上戦における主力が戦艦から航空機、空母に移り変わった
時の流れを明確にしながら、
その『大和』の巨体さで日本の『傲り』を語っても見せる
対比演出が秀逸だ。
また、日米の戦争価値観を明確にする米の人命救出模様。
敵航空機を撃墜し喜びの声をあげながら、
米国の『人命救出』模様に『敗けを悟る』日本軍人の姿は
劇中に登場することはないが『特攻作戦』があったこと
間接的でありながら明確に描いており、
自国の異常性を痛感する彼らの表情はあまりにも辛いものだ。
そして、来る『大和の最期』。
次第に傾き、転覆したのちに轟音とともに爆破するという
これまで見たことのない、史実に忠実な『大和の最期』を
見れるだけでも映画館に行く価値はあるだろう。
巻き込まれる大勢の人物表現が産み出す
奥行きや高低差によって『如何に巨体か』が表現された『大和』が
爆発し、大きな黒煙を上げるともなれば映像の迫力は凄まじい!
このシークエンスの多くのカットが
戦艦のみならず人に至るまでフルCGで描かれているというのだから
山崎貴、ならびに白組の力量もすごいものだ。
申し分のないとは言え、数学者 櫂がその頭脳で
大和の建造計画を止められるか?戦争を止められるか?という本作において、
このオープニングは結末を物語っているものともなっている。
主人公 櫂が大和の建造を阻止できなかったという結末を
冒頭で語ってしまうこのオープニングには
歴史敵事実を知っていようと映画的に『大丈夫なのか?』と思ってしまったが...
このオープニングはラストを迎えた頃、見方が変わる!
ひっくり返されるともいって良いだろう!
この作品のラストはかなり衝撃的です。
★★スポコン企画プレゼンバトル物語★★
本作の戦争映画であるわけだが、
戦場のシーンはオープニングを除いて存在しない。
というのも、戦艦『大和』の建造を巡った
2つの派閥による企画プレゼンバトルになっているからだ。
これまでの戦争における結果から
主砲砲台を主力とした戦艦の建造計画を推し進めたい側と
今後、海上戦の要は航空機となると察し
空母の建造計画を推し進めたい側の言わば派閥争いとなっており、
空母計画を推し進めたい山本五十六は、
世界最大の戦艦を設計しながら『安すぎる』
対立派閥の見積書の不正献上を暴き阻止することで
空母建造を推し進めようとする。
言わば昨今人気を博している池井戸潤作品のように
組織の不正を暴くため奔走する物語であり、
その任務に当たるのが菅田将暉演じる主人公 櫂だ。
『美しいものはなんでも図りたくなる』という
デフォルメされた天才キャラクター 櫂が、
僅かなタイムリミットの中、組織の圧力に立ち向かい、
突破口を切り開いていく物語は今の流行ど真ん中のエンターテインメントだ。
櫂とそのサポート役を命じられる江本佑演じる田中が
行動を共にする中で次第に結束を強めていくという
バディー要素が娯楽性に拍車をかけていく。
軍人精神の強い田中が常に脇に存在することで
櫂はよりユーモラスなキャラクターとなっており、
2人の掛け合いはコミカルにも演出されるため
作品にいい抜け感も散りばめられている。
そんな2人が組織の圧力との戦い果て、
事をなし得るクライマックスの決議シーンは
言わずもがなカタルシスに溢れる!
絶体絶命な状況を数式ひとつで覆し、黙らせる!
そんなの面白くないわけはない。
数学を見事なまでに我のものとし、
その上で流暢に長台詞をこなす菅田将暉も素晴らしい!
★★豪華キャストによる重厚感!アホアウトレイジ演出に(笑)★★
まぁ、隅々までキャストが豪華であるだけでなく、
それぞれがしっかり意味を持ったキャラクターとなっている。
作品の唯一の花となり、櫂を任につかせるトリガーとなる
浜辺美波演じる尾崎鏡子もわかりやすくていいし、
いるだけで真実味が増す國村隼、田中泯も最高です。
そして、何を行っても山本五十六を演じる舘ひろしさん。
彼によってこれまでとは異なる
ダンディーさや人間味ある山本五十六が存在していた。
個人的にこれまで映画で描かれてきた山本五十六には
反戦派を掲げながら、指揮をとっていたことの矛盾を感じていたが、
そこにしっかり芯を通していたのも嬉しいところだ。
そして、笑っちゃうほど面白いのが
クライマックスの決議シークエンスにおける
豪華キャストによるアホアウトレイジ感。
櫂によってめちゃくちゃになった決議の場は大荒れ!
豪華キャストの演じるエリートたちは
相手の揚げ足スキャンダルを言い合い出すのだが、
編集のテンポ感や、いい親父が激しく言い合いするそれは
アウトレイジ!!
内容が馬鹿馬鹿しいからまた面白い!
★★衝撃のラスト。大和に託された想い★★
戦艦を作るのか?空母を作るのか?
そんな決議は櫂によってある結末を迎えるのですが、
それはオープニングとは直結しません。
『大和』誕生は決議の場ではなく、
その後にある櫂と大和の設計者 平山の対話で
行われることになっていきます。
あるシーンのある演出が櫂の本心として浮上する伏線回収も見事だが、
そこで平山が明かす大和に対する想いが
オープニングの『大和の最期』の見方を変えさせます。
この『大和』の存在意義は残酷だが、映画としてはかなり面白い。
ダークヒーロー作品にも思えてしまう。
その根底には『大和の建造は国民の総意』、
少なくともこの時代の『国民は戦争に望んでる』とも捉えられる
肯定できない考えがあるのだが、
それは勝利の美酒に酔いしれる
日本帝国軍の傲り、過ちとしてもとらえることはできる。
あまり書けないのが残念だが、
大和を持ってして日本国民すべてをその酔いから覚まそうとする
平山の考えは考え深く、なにより衝撃的なものだった。
そして、日本は第二次世界大戦に進んでいく。
今だ歴戦の勝利の美酒に酔いしれている。
山本五十六の最後の言葉に
あの名称が入ってくればそれも明確だろう。
真実を知ってしまった櫂が大和の姿に涙するも
真実を知らない人間にはその涙が別の意味に捉えられるラストは
なんとも言えない後味を残す。
★★総評★★
世界最大の戦艦『大和』がなぜ誕生し、
なぜ大きな活躍もなくして沈没したのかまでも
見事にまとめ上げたようなフィクション。
まるで散ることが運命づけられた桜のようだ。
エンターテインメント性と戦争映画としての意義も果たす傑作。
山崎貴、どうした!
★★★★★