映画雑レビュー「アラジン」73点 どうしたディズニー!? | SayGo's 映画レビュー
「アラジン」
原題 Aladdin
公開日 2019年6月7日
上映時間 128分
ーーーーあらすじーーーー
相棒のサル アブーと泥棒で生計を経てながら
ダイヤモンドの心を持つ青年 アラジン。
そんな彼はある日、
自由に憧れ王位の継承を夢見る王女 ジャスミン、
そして、3つの願いを叶えるランプの魔人 ジニーに出会う。
ディズニーアニメ『アラジン』をガイ・リッチー監督で実写化。
ランプの魔人 ジーニーにウィル・スミスが抜擢され、その風貌にも公開前から注目が集まっている。
★★ヒロインの現代化により生まれ変わるアラジン★★
言わずと知れるディズニーアニメ『アラジン』が実写化されたとなれば
今年の上半期での注目度はNo.1に違いない。
興行収入においても記録を塗り替えることでしょう。
ファンタジーな世界観はもとより、
女性の憧れるロマンスや
それを彩るミュージカル演出に馴染めない自分は
これまで正統ディズニー作品を嫌ってもいたのだが、
昨今の作品群に触れる中でその考えは覆されてきた。
目線の高さやキャラクターの位置関係の変化など
画面演出でヒロインに心を許していく野獣の心情を語った
実写化『美女と野獣』もさることながら、
『王子様と結ばれることが幸せ』という従来のプリンセス像を覆した
映画『アナと雪の女王』のエネルギッシュさは衝撃的だった。
時代の変化に合わせてロマンスもプリンセス像もブラッシュアップし、
かといってファンタジーな世界観やエンターテインメント性を忘れない
ディズニーは『プロクリエイター集団』として素晴らしいといか言えない。
そんな昨今のディズニーの作品と同様、本作も
魔法が彩るファンタジックなロマンスをそのままに、
ヒロイン ジャスミンは
今を生きる女性が一層『共感』も『憧れる』も抱けるよう
強く気高い女性へとブラッシュアップされ生まれ変わっている。
しかし、キャラクターに『自由』を与え
オリジナル以上に『救って』みせる本作は
『アラジン』であって『アラジン』ではない印象だった。
★★ファンのイメージする『アラジン』を再現する映像力★★
冒頭の物語の語り出しにこそ不穏な気配は漂うが、
その後のオリジナルを忠実なまでに再現しながら
確実にスケールアップしてみせる映像演出は
流石の実写化としか言いようがない。
物語展開はもとより、カット割りや演出に至るまで
オリジナル作品を忠実に再現していくような出だしは
『これはアラジンじゃない!( ̄▽ ̄;)』という悲しみではなく、
『アラジンが実写化された!』という感動をもたらしてくれる。
また、序盤から『プロクリエイター集団』の仕事が光る!
それは冒頭で繰り広げられる
『アラジンの逃亡ミュージカルシークエンス』におけるスローモーション演出。
歌うキャラクターのリップシンク(口の動きの合わせ)が果たされながら
口以外のキャラクターモーションはスローモーションでみせるという演出は
その現実ではあり得ない違和感がファンタジーの雰囲気を醸し出す。
実写でありながらどこかアニメを見ているようなこのシーンは
『2.5次元』を具現化した名演出に個人的に思えた。
オリジナルを忠実に再現しながら
実写化ならではの外連味を効かせるなどの映像演出が光る本作は『プロクリエイター』による『アラジン』の実写映画だ。
★★わんこメインデッシュを用意するランプの魔人ジーニー★★
そして、アクセルを踏み込み
作品をドライブさせるのがランプの魔人 ジーニーだ。
とにもかくにもジーニーという名キャラクターに
ウィル・スミスというキャスティングの妙!
瞬く間、数秒ごとにコロコロと容姿を変化させ
その度、多種多様なユーモアを炸裂させるという
おそらく史上最も落ち着きないキャラクターであろうランプの魔人 ジーニー。
そんなジーニーをバリエーション豊かな演技力、コメディー力で
体現してみせるウィル・スミスはベストキャスティングだ。
鑑賞前は『青いウィル・スミス』にしか見えなかったが、
口を開く度、体を動かす度、ジーニーにしか見えなくなっていった。
アラジンによって召喚され、自分の存在をミュージカルで説明する
ジーニーの登場シークエンスにおける単独ショーなんて興奮しない方が難しい!
名曲『フレンド・ライク・ミー』の音楽に乗せて
ユーモアと外連味に溢れた
豪華絢爛映像エンターテインメントショーが繰り広げられれば、
そのショーが数秒ごとに様変わりし、畳み掛けられれば...もうエクスタシー!
メインディッシュだけのフルコースでありながら
一口食べる度『次はこれ!』『次はこれ!』と
ジーニーに皿を変えられていくようなこのシークエンスは
贅沢極まりない『わんこメインデッシュ』!
これを味わえるだけでも映画館に行く価値はアリ!
そして、国王に扮したアラジンが
アグラバーの王国に出向くパレードシーンの
スケールアップも素晴らしい!
アラジンを囲う兵や踊り子、動物に至るまで数が大幅な増員がなされ、
演出も一層の派手さを纏ったこのパレードシーンも
映画館で見ないと勿体ないシーンであり、
そこでも光るのがウィル・スミスの歌唱力とダンス力。
これを見たらアニメ版を今見ると物足りなさすら覚えてしまうほどだ。
もし、ジーニーがライアン・ゴズリングだったら...(笑)
なんて夢キャスティングも想像してしまったが、
ディズニー作品『アラジン』のジーニーに
ウィル・スミスのキャスティングは最高のものだった。
★★え!これ絶賛でいいの??★★
大筋な物語も、オリジナルを忠実に再現しながら
実写化ならではの外連味でスケールアップを果たす映像にも大満足!
なのだが、府に落ちない部分が多い作品だった。
一番大きいのはジャスミンのキャラクター改編だ。
今の女性が一層『共感』も『憧れ』を抱けるよう
本作こジャスミンには現代女性像が投影されているのだが、
それによって醸し出される現実味がロマンスを邪魔しているように思えた。
『城の外の世界を見てみたい』
『もっと自由に生きたい』
という好奇心に駆られながら、
それが許されない王女という立場に悩むのが
オリジナル版のジャスミンだと思っている。
だからこそ、魔法の絨毯で外に連れ出してくれるアラジンに
心惹かれるシーンはロマンチックになっていはずだ。
しかし、本作のジャスミンは『外に出たい』という好奇心に
『社会勉強』『王を継承するため』というロジックが存在しており、
また、『城を抜け出す』という描写がないため
自由に街に出れるような印象すらあるのだ。
自由はあるが社会に認められないことと葛藤しながら
自らの行動でその願いを叶えていくというジャスミンの姿は
多くの女性が共感も憧れもできる人物にブラッシュアップされている。
ただ、少なからずジャスミンに『自由』を与えてしまっていることで、
アラジンの『ジャスミンを外に連れ出す』という行動のロマンチックさが損なわれてしまっている。
ここに関しては偏見だが、
ジャスミンの自立性や現代的な女性像の組み込みもあってのことか、
部屋に来たアラジンの言葉を疑いながら『魔法の絨毯』を目の当たりにし、
差しのべられた手を取るジャスミンの姿は
『大金』で疑いを帳消され、一応にも純粋な素振りを演じながら
結局差しのべられた手を取る女性にも見えてしまった。
また、府に落ちないのが、
王位を継承するために勉強に勤しむジャスミンが
『お金のやり取り』の概念すらないという描写。
オリジナル版でのジャスミンは言わば『鳥籠の中の王女』であり、
貧しい人を救う行動は優しさが際立っていたが、
『王を継承するために勉強しています!』なジャスミンが
『お金は!?』と言われ立ち往生するって...
オリジナル版では『お金は城に』という台詞があったが、
それもなかったような気が...
外に出て始めて社会を知るという描写であるのはわかるが、だからこそ何を勉強してるのと...
行動をそのままにキャラクターを改編した結果、
破綻してしまっているように思えた。
劇中内で『女性の国王はいないからな』というようか台詞も
そんなジャスミン見せられたら嫌でも納得してしまうわ!
どうしたディズニー!?
また、意外にも物議が起こっていないことに驚くが、
ジーニーの『ある結末』に えぇ~ !だ!
オリジナル版以上にジーニーを救い
自由をもたらす本作は確かに素晴らしい。
でも、それって...
あんな真面目なジーニーみたくなかったわ!
★★総評★★
ファンタジックな映像は素晴らしいが、
ロマンチックさを損なわせる改編がなされた本作は
なにか違う『アラジン』を見てしまった印象。
本当にこれ絶賛されていいのか疑う。
★★★