映画雑レビュー「LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘」80点 尊厳を掛けた不二子のドラマ | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

「LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘」


公開日 2019年5月31日
上映時間 56分

ーーーーあらすじーーーー
大企業コドフリーマイニングの会計士にして
5億ドルを横領したランディは、
殺し屋に命を狙われ自宅もろとも自爆する。
5億ドルの鍵を握るランディの息子 ジーンを託された
峰不二子は呪いで人の心を操る ビンカムに追われる身となる。


モンキー・パンチが生み出した『ルパン三世』に登場する
キャラクターをクローズアップしてきた
『LUPIN THE IIIRD』シリーズ最新作。
次元大介、石川五ェ門に続き、本作は峰不二子に焦点を当てていく。
監督は小池健。


★★ついに来たか!!峰不二子★★
アニメ『ルパン三世』シリーズのファンである自分だが、
スタイリッシュな作画とコミカルなきソリッドな内容で彩られる
『LUPIN THE IIIRD』シリーズは群を抜いて愛している作品だ。

その最新作はついに峰不二子をクローズアップする。
不二子グッズを自宅だけでなく、職場デスク飾っていた自分には
『ついに来たか!』な待望作。

強奪というケイパーエンターテインメントをサイドに
次元大介、石川五ェ門というキャラクターを
ハードボイルドな演出で語ってきたこれまで同様、
峰不二子が峰不二子たる尊厳を掛けた戦いを見せる本作も
TVシリーズとは異なる大人向けなエンターテインメントが展開されていく。


★★LUPIN THE IIIRDのTVシリーズ異なる特色★★
主人公がルパンの元に集うキャラクターとなる本シリーズは
構造からTVシリーズと大きな異なりを見せるのだが、
ハッキリと既存シリーズとの差別化が果たされているのが
大人向けにブラッシュアップされたその作品デザインだ。

原作タッチなデザインのスタイリッシュさと
ソリッドな物語で新たな側面からキャラクターに迫っていく
キャラクタードラマは大人を楽しませにかかる。

また、登場する殺し屋との対峙から
キャラクターの有する唯一無二な個性や美学を語りながら、
確かな作画、演出でエンターテインメント性も担保される
アクションで歯切れよくエンディングを迎えさせる構成も
ファンを喜ばせるところだろう。

そして、TVシリーズと最も異なり、
本シリーズの『色』ともなっているのが
ルパンのキャラクター性。

TVシリーズでのルパンは
コメディーリリーフとしても存在しており、
そんな彼がいることで展開されるケイパーストーリーは
バラエティに富んだエンターテインメントを
一種確約もされてもいる訳だが、
このシリーズに登場するルパンは
サイドに身を引き、渋くタバコを吹かす。

作品を象徴し、掌握もしてきた彼が
はっちゃけることなく常に『格好良く』居続けることで
作品は一層ハードボイルドな雰囲気を醸していくのだ。

ダンディズムな魅力を放つルパンと
ジェームズ下地さんによるジャス・ブルースな劇版が
『ルパン三世』の大人びた部分を汲み上げていくようなこのシリーズは
TVシリーズとは全く異なる魅力に溢れている。


★★弱点描写でキャラクター深度が深められる峰不二子★★
5億ドルの鍵を握る少年 ジーンを中心に
呪いで心を操る殺し屋 ビンカムと峰不二子が交わり、
そこにルパンと次元が介入してくるというストーリーは
これまでの『LUPIN THE IIIRD』文脈を引き継ぎながら
ルパン三世らしい強奪要素も存在している
バランスのいい作品となっている。

そんなストーリー展開を見せる本作は
峰不二子の『弱点』描写を持ってして、
峰不二子の『尊厳を掛けた戦い』が描かれていく。

単独行動を好む峰不二子は
これまでも様々なピンチに直面してきたが、
彼女は『女』を武器にそれを華麗なまでに脱してきた。

ターゲットを誘惑し、それが通用なければルパンを手玉にとって
事を成してきた彼女はまさに魔性たる存在であり、
それを可能にする『美貌』に男は憧れ、
男の上に乗り操るような『強さ』に女も憧れを抱かされてきたことだろう。

しかし、本作で彼女が対峙する
『少年 ジーン』『殺し屋 ビンカム』には
峰不二子たる武器が通用しないのだ。

父の敵討ちに駆られ聞く耳も持たない少年 ジーンと
殺人兵器として存在する殺し屋 ビンカムを前に
峰不二子は峰不二子たる強みを削がれていく。

絶対的な存在であった彼女を根底から揺るがしてみせる本作は、
これまでの峰不二子の文脈が存在するからこそ
サスペンスフルな展開を見せる。

そんなように不二子を八方塞がりな状況に追い込むことで
少年 ジーンとの攻防を、殺し屋 ビンカムとの戦いを
峰不二子の『峰不二子たる尊厳』を掛けた戦いとして
描いているのがこの作品の魅力だ。

冷たい『嘘』に潜ませる温かい母性で心を解きほどき
少年ジーンと決着をつける様にも、
『嘘』を持ってして相手に女性意識を与え
殺し屋 ビンカムと決着をつける様にも、
峰不二子が峰不二子たる尊厳を取り戻すための戦いが存在している。

自らの存在や武器を否定してくるような相手を
自らの言動で肯定させていく彼女の姿は
これまでのどれよりも格好が良く見せる。

峰不二子を峰不二子でなくし、
人間味を与えた上で一層魅力的な峰不二子にする。

そんな本作にはファンとして満足するし、
『LUPIN THE IIIRD』シリーズの存在意義を明確にする。


★★演出が光るクライマックス!!かっけーわ★★
これまでの『LUPIN THE IIIRD』同様、
クライマックスでは殺し屋との戦いと発展する。

衣装デザインをはじめ、
流石!としか言い様のない作画で魅せられるアクションシーンは
峰不二子のセクシーさもかっこよさも見事に描ききるのだが、
痺れるのは妥協ない演出だ!

まず痺れるのは、乳首を包み隠さない描写!
殺し屋 ビンカムの攻撃によって服が割かれていく。

そのようなセクシーアクション演出は良くあるのだが、
多くで残念さを覚えるのは『局部を隠す布は動かない』演出だ。
しかし、この作品はしっかりキャラクターモーションに
衣服、布の動きが追従されていく。

そのリアルを重んじるアニメーション描写は
男としても、映画好きとしても喜ばしいもの。

それだけでなく、『服を引き裂く』攻撃演出で
殺し屋 ビンカムに心の変化を描いているのも見事。

殺人兵器として生きるビンカムは
女性を意識しないからこそ不二子をターゲットとしてしか
見てこなかったわけだが、
あるシーンで不二子に『毒』を仕込まれる。

その不二子の『毒』に知らず知らずの間に犯され、
女性を無意識に意識しはじめたビンカムの変化を
『服を切り裂く』という映像描写を持ってして
描いて見せる演出は素晴らしい!

加えてまた演出が光るのは、
荒野という舞台設定と不二子の仕掛ける策による
ビンカムとの戦いを比喩表現だ。

毒を毒を持って制するという決着を
ビンカムの心を『荒野』とし、
それを不二子が『潤す』という映像比喩演出で彩って見せる。

その的確且つクールな演出はたまらないし、
不二子がビンカムを『救済』したようにも見せるため奥ゆかしい。

エンターテインメント性を高めながら、
その戦いの中で不二子の個性と美学を語って見せる本作は
『LUPIN THE IIIRD』シリーズファンを裏切らない。


★★ついにシリーズが連ねられる高揚とルパン三世らしいロマンス★★
ファンを興奮させるのは、
ついに『LUPIN THE IIIRD』シリーズが連ねられる展開だ。
多くは言えないが、『ある存在』により
大きな物語が全貌を表しはじめるラストに高揚感を覚える。

本作は『ルパン三世』を少なからず知っていれば楽しめる作品だが、
『次元大介の墓標』『血煙の石川五ェ門』を
事前に見ることを大いにオススメする。

そして、最高なのがラストを
ルパンと不二子で終わらせるところだ。

弱味を有する不二子の『ある行為』でルパンに対する信頼を描きながら、
『一味』の関係描写で
ルパン三世における峰不二子のキャラクターをものにする
大人びたロマンスで幕を下ろすエンディングは
とにもかくにもかっこいい!

ヤバイぜ、不二子。


★★総評★★
峰不二子がその尊厳を掛けて戦うような本作は
ファンにとってサスペンスフルな物語であり、
大人びた色気のあるエンターテインメントだ。

もしかしたら銭形という変わり種が来るかもしれないが、
次はルパンだろう。
こんな見事な流れで展開されたら
完結作に対して期待を寄せずにはいられない。

★★★★