中世魔法藥局アイテム 08 | 天氣後報

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グリフォンの眼球……というアイテム。


制作中の冊子(本当はドールショウに間に合わせる予定でしたが挫折)は前半が「前の章」として、あくまでも空想の魔法藥局を貫いています。

「夢の中に登場する中世の魔法藥局を、小さき者のために再現した」という設定で、ドールセットの薬局に並べる妖しげな薬(ドールサイズ)のリストと効能と使用法を書いています。

後半は、現実に戻り、実際の中世とそれ以前に使われていた薬草や毒のことなどを、雑学的に後の章としてまとめています。


もともと、このテーマのモティーフとなったエストニアの市議会薬局に資料として展示保管されている、中世の薬(薬の材料)は、現実に存在する生物の一部であるものが多いのですが、「魔法藥局」では、魔法なので幻獣を多く採用しました。


幻獣の資料としてはJ・Lボルヘスの著作に頼りました。

グリフォンというのはフランス語読みで、英語読みだとグリフィンになります。有名な魔法学校のお話に登場するグリフィンドールはここからの採用でしょうか。

ボルヘスの『幻獣辞典』でグリフォンはグリュプスと表記されています。これはすべてのグリフォンを表す名前の語源であるギリシャ語です。


『幻獣辞典』で、上半身が鷲で下半身が獅子の姿をしていている(これはサー・マンデヴィル ※ の『旅行記』第八十五章からの引用として)、鷲の部分は黄金色で、獅子の部分は紅色の混じった白である(ダンテ『神曲』の「浄化編」第二十九曲からの引用として……「浄化編」は『幻獣辞典』の訳で、多くは「天国編」と訳されることが多いと思います)、とされています。


詳細は出典をご覧いただくとして、作り話の魔法藥局とはいえ、一応既存のモノを拝借する場合にはそれに基づいた妄想を展開しようと、グリフォンの命が尽きると黄金色の上半身は金色に輝く光の粒となり天へ昇り、下半身は穏かな馨のよい風となり地上を覆う……という作り話となりました。

それで、上半身が黄金色の光の粒になった時、その光を集めて結晶化したものが本薬である……という設定です。実際には目玉ではないのですが、結晶化した際のその形状から「グリフォンの眼球」と呼ばれていると。



天氣後報-グリフォンの眼球


天氣後報-グリフォンの眼球

ネタを明かせば(みればわかりますが)水滴型のウラングラスです。ブラックライトで蛍光します。



※ サー・ジョン・マンデヴィル

『幻獣辞典』でボルヘスも「問題のサー・ジョン・マンデヴィル」としているように、架空の人物です。

ただし面白いことに、この人の著として14世紀にヨーロッパじゅうで翻訳され読まれた『東方旅行記』(『幻獣図鑑』の中では前述のとおり『旅行記』とされています)は、それを真実だと思い込んだ人の間で、いろいろな物議を醸しています。

実際に『東方旅行記』でのマンデヴィルの足跡を辿って研究している人までいます。

個人的には、この本を書いた人は、あくまでも空想の旅行記として綴ったのだと思っています。


空想と現実をごちゃ混ぜにする楽しさ、、、、、、きらら舎やカフェでの活動の目標の一つでもありますが、それを不特定多数に提供する場合、責任として、どこかでそれが作り話であることの(空想部分はフィクションであるとの)「標し」が必要なのかもしれません。


同様に『鼻行類』(ハラルト・シュテュンプケ)という本があります。20年以上も前に購入した本ですが八重洲ブックセンターの自然科学の棚にありました。現在でもその生命体の実在を信じている人はきっと居ると思いますがもちろん全くのフィクションです(そうとわかっていても存在を信じたふりをしてみるのもまた愉しいのです)。


「標し」を付ける責任を感じながらも、空想の産物をあたかもノンフィクションであるように仕立て、それを信じてしまう人が現われる、、、、、というのはかなり魅力的で羨ましいことです。