あの夏が飽和する...後編
金を盗んで2人で逃げて
どこまででも行ける気がした
初めて感じる自由に
お腹が空いてても満たされていた
夏の暑さで汗が滲んで
変装用のメガネもどっかに落とした
たまに浴びる水のシャワーは
それだけでも幸せに感じた
今更怖いものなんてない
少しでも自由を感じていたい
ただただ今ある俺達の笑顔だけは
この世界にある少ない真実だと
そう信じていたかった
誰にも愛されたことがない
そんな共通点だけがある俺たち
でもただそれだけで
簡単にお互いを信じあって
無茶なことをたくさん2人でやった
ずっと繋いでる手
震えはいつの間にかおさまっていて
線路の上をただ
真っ直ぐ青い空に向かって
どこまでも歩き続けた
日が沈んで
青い空もなくなり
少しだけ、ほんの少しだけ
高揚感が影を潜める
「なぁ、ミニョ」
「なに?」
「お前さ
あの話好きだったよな」
「どんな?」
「王子様が迎えに来る系の絵本」
「…ばかにして、、」
草むらに寝転がって昔話
星を眺めてた僕ら
ミニョは不貞腐れて
俺に背を向ける
「その王子様だったらさ」
「ん?」
「そのカッコイイ王子様だったら
こんな汚くなった俺達のこと
見捨てずに助けてくれるのかな」
ポロッと抜け落ち俺の言葉は
夜空に拒まれたようだった
ぽつりぽつりと雨が降り
雨の匂いが鼻をかすめる
俺たちは身体を起こすと
再び無言で歩き始めた
傘がない2人
雨粒が大きくなっていく
「バカだね、ほんと」
「そーかな」
「そんな夢なんてとっくに捨てたよ
夢から醒めたら
幸せなんて言葉存在しないって
嫌という程…思い知らされたし
…王子様も素通りしたんだよ
自分は何も悪くないって言いながら」
振り返った君
通り雨だったんだね
静かにしてた蝉たちが泣きはじめる
雨が止んだはずなのに
視界が霞んで揺らぎ始める
飛び交う怒号
鬼のような大人たちが
俺たちを捕まえに走り寄る
俺たちは走った
鬼ごっこしてるみたいにさ
笑い声上げて
手をつないだまま走った
走ったはずだった
「おい!」
「ありがとう!」
「ふざけんなよ!」
手には俺のナイフ
「約束と違うだろ!」
「君が一緒だったから
ここまで来れた
だからもういいの」
「何言ってんだよ!!
2人で死ぬんだろ!!
勝手なことするなよ!!!」
「死ぬのは私一人でいいの」
ありがとう、お兄ちゃん
ミニョの首元から
鮮やかに血が噴き出した
映画のワンシーンのように
それはゆっくりと見えて
気づけば大人に取り囲まれて
捕まった俺
乗せられた車
連れていかれた狭い部屋
どこにも
君だけはいなかった
***
そして時は過ぎていった
ただ暑い日が過ぎていった
施設にいる偽物の家族や
死に損なったクラスメイトもいるのに
なぜか君だけがいない
あの夏の日を思い出し
また俺は歌を歌う
金儲けの道具じゃないって
君を思い出して俺は歌う
9月の終わりに雨に打たれくしゃみして
6月の雨の匂いを繰り返す
君の笑顔
君の無邪気さ
頭の中を飽和していく
「ミニョ、可愛い妹
なんで言ってくれなかったんだよ」
立派に立てられた墓石の前
また今年も同じことを問う
「お前が言ってくれてたら
こんなことさせなかったのに」
毎年同じことを思う
でも
結果を変えることができたのだろうか
君が頭の中をいっぱいに埋まっていく
「忘れられるわけ・・・
ないじゃないか」
遺品なんて
逃げるとき全部燃やしちまった
でもミニョのやつ
唯一俺の部屋にあった家族写真
持ち出て来てたなんてな
裏に書いてある
滲んだ丸い字
お前はいつから分かってたのだろう
唯一の家族
俺たちの・・・誕生会の写真
胸ポケットに入れて
再び手を合わせた
誰も何も悪くない
君は何も悪くないから
もういいよ
投げ出してしまおう
やっぱりそう、、
言って欲しかったのかな
「ミニョ・・・待ってろよ」
あの日から一年
新しい俺たちの誕生日
☆
お久しぶりです
こちらは、ボカロの曲
あの夏が飽和する
という曲を元に書きました
この歌い手さん好きで
よく聞いてて
久しぶりに泣いた、ええ、泣いた
オチのため
みなむとは伏せて書いてみましたー
最後はご想像にお任せ・・・