あの夏が飽和する...前編

 

 

 

「昨日人を殺しちゃったの」


俺の部屋の前
立ち尽くしてそう言った君
コ・ミニョ
それが彼女の名


梅雨時ずぶ濡れのまま
俺の部屋の前で泣いてた君
夏が始まったと言うばかりなのに
小刻みに肩は震えてて

聞きたいことは山ほどあるのに
タオルを手渡すことしか…
その時はできなかった


「とりあえず入りなよ」


ミニョはただのクラスメイト
彼女を少し心配な気持ちと
正直…こんな面倒
不安な気持ちが入り交じる


でも…なぜか
…ほっておくことなんでできなくて
彼女を部屋に招き入れた

小さな彼女は遠慮がちに部屋の隅で
もっと小さくなって座ってさ
濡れた体をさすりながら
ぽつりぽつり
うわ言の様に話し始めた

 


「私の隣の席の子
   そう、私をいじめてたあの子
   いつも以上にしつこくて
   嫌になって手を払ったら
   …突き飛ばしちゃって」

 

「ミニョ、もういいよ」

 

「なんか、打ちどころ悪くて
   頭から血がたくさん出てて」

 

「ミニョ…」

 

「もうここには居られないの
   どこか遠いところで…」

 


涙ぐんだ君
その先の言葉は言わなかったけど


人生を閉じようとしてたんだろ?

 

そんなのすぐ分かった

なぜ俺のところに来て
そんな事言ってるのか
その時の俺には分からなかったけど
俺にどこか似ている君のこと
ほっておくことなんて
やっぱりできなかったんだ

 


「ミニョ、着替えな」

 

「…え?」

 

「風邪ひくだろ
   俺の服着てもいいから」

 

「や、でも…」

 

「今更迷惑かけられないとか
   そういうの無しな」

 


俺も連れてけよ

 


今でも覚えてる
君の驚いた丸い瞳
俺も逃げ出したかったんだ
こんな酷い場所から
なんの為に生きてるのかなんて
分かりそうにもない人生
金儲けの道具に成り下がりたくもない

 


いいきっかけをくれてありがとう
最後にするからさ
好き勝手に、自由に生きてみたい

 


財布を持って、ナイフを持って
使わないだろう携帯ゲームなんかも

そんな大きくもないバッグに入れて
ここにある要らないものは
全部壊していこう

 

昨日までの俺はいらない

 

記憶はないけど
小さい頃家族でとったあの写真も
小さい頃書いてた絵日記も
今となってはもういらないよな


人殺しとダメ人間の旅には


真昼間

火をつけて俺たちは逃げ出した
この狭い狭い世界から

たくさんいる家族みたいなやつも
クラスの奴らも全部捨てて
君と2人で
遠い遠い誰もいない場所で
2人きりで終わりってのを迎えに行こう
もうこの世界に未練なんてない
なんの価値なんてもないのだから

 

「いいの?」

 

「なにが?」

 

「私と一緒で」

 

「…もう遅いだろ」

 

「でも…」

 

「人殺しなんて…
   そこらに湧いてるじゃん
   お前は何も悪くない」


繋いだ手をぎゅっと握りしめて
俺は君にそう言った
君はどう思ったかな