『あのときもずいぶん飲んだよなあ。
二人でイタリアワイン2本空けたんだ・・・。』
冬の真っ只中だった。カズエから
『行ってみたいイタリアンレストランがあるの。』
という電話をもらって、その日のうちに銀座の目的の店へ。
もうあれから一年が経っている。
『大学出てきて父がはじめて連れてきてくれた思い出の店なの。』
ちょっとだけうれしい気持ちになっていたのは言うまでもない。
最初はお気に入りのソアヴェの白を注文し、数時間の会話とともに
料理よりもすすんだワインを飲み干していた僕たち。
すでに結構酔っていて、そろそろ終わりにしようかなあと思ったら、
カズエがいきなり天井から吊り下げている藁に包まれたわりと太目のボトルを指差し、
『あれはなあに?』
と店員に尋ねたと思うと説明を聞くや成り行きで1本持ってきてもらった。
キャンティ・クラシコの赤だった。
あとはご想像にまかせるけど、それから終電までのわずか1時間あまりで
さらに1本を飲み干すのは大変なことだ。
帰りは意識はあったと思うけど、どう考えてもまっすぐ歩いた記憶がない。
そのとき僕はフラフラになった彼女の肩を抱いていたのだろうか?
はっきりした記憶はないけれどそうしたかもしれない。
知り合ってから30年たつけど、もしそうしていたなら
はじめてのふれあいだったと思う。