これはとても貴重な体験だと思っている。ある大学祭の企画で1964年にスタンリー・キューブリックが作った「博士の異常な愛情」(Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)を観て以来、同じ年に作られたシドニー・ルメットの「未知への飛行」(Fail Safe)を見ることを夢見ていた。そして、その夢は2年後に叶った。
新聞の映画欄にその映画のタイトルを見つけた。しかし、その映画館はポルノ映画専門だった。
それでも全く動じなかった。映画館に電話をかけて上映開始時間を聞き、楽しみに出かけた。
午後1時、ドアを開けて思ったのは、やはりここはポル映画専門の映画館だということだった。
客は数えるほどしかおらず、しかも全員が男性。
彼らはいつものようにポルノが上映されると思って入場したのだろう。
しかし、今日の映画はかなり重い内容で、しかもモノクロ映画だ。
ポルノを見ようとした彼らには気の毒な話だ。
私は冗談めいたことを考えながらも、さすがに椅子に座る勇気はなく、
後ろの壁に背中を預けずに立ったまま映画を見ることにした。
映画が始まると、どの場面も、どのセリフも、全部記憶に留めておきたいほどの熱い思いが私をその場に立たせていた。
その良い例がこの現象だ。男性が私の横1メートルも離れていない所に来て、私と同じように立ってスクリーンを見つめている。
彼は映画でよく見る変態親父が着るような、裸の上にコートを着て前のボタンを全部開けている、そんな感じのベージュのコートを着ていた。
私は映画に集中しながらも隣に立つ男性に警戒心を持ったが、その場を動かなかった。
10分ほどすると、彼は私の横を離れ、左の方の空いている席に座った。
私は正直ほっとしたが、映画は続く。そして次の男性が現れた。彼もコートを着ていて、
今度は黒のコートで前のボタンは全部かけてあった。
彼も私から1メートルほど離れたところに立ち、黙ってスクリーンを見つめている。
私はヘンリー・フォンダが演じる大統領が、通訳を通してロシアの大統領と話す緊迫したシーンで手に汗を握りながらも、時々隣の男性も気になった。しかし彼も10分ほどで左側の後ろの席に座った。
言い忘れたが、2人の男性は礼儀正しく、手はきちんとポケットに入れていた。
映画が一番の山場を迎え、ロシア在住のアメリカ大使館員と電話で話す大統領の耳元で、水爆が落とされた証拠となる金属音が聞こえ、大統領がうなだれ、私が目頭を熱くしている時、3人目が現れた。
彼も規則通りコートを着て、前は開けて両手をポケットに入れており、私の横約1メートルあたりに立っている。突然私は思った。「もしかすると彼らは私の護衛をしているのかもしれない」と。
「お嬢さん、ここはポルノ映画専門映画館ですよ。一人で来るなんて無茶なことを!私が何事もないように見張っていてあげましょう、この映画が終わるまで」
3人目の彼も服装規定には全く反していない。私は映画のストーリーに魅せられながらも、私の横に来る男性達にも警戒心と関心を持ち、さらに時折見せる奇妙な行動にも気がついていた。
彼らは時々席を変わる。意味は無いのかもしれないが、ある時は1人だけ、ある時はほとんど同時に席を変わるのだ。興味深い現象だ。もちろんトイレへ行く人もいた。
そしてヘンリー・フォンダが演じる大統領は、マンハッタンに水爆を落とす許可をロシアに与える。3人目が無事任務を終え、顔はスクリーンへ向けたまま、トイレへ行かず、左側の壁の後ろで立ち止まりまた正面を向いた。彼は私の護衛の超過勤務を引き当てたのかもしれない。
こうして私は無事、夢にまで見た「未知への飛行」を見終わった。
実に恐ろしい映画であり、重いテーマであり、どの俳優の演技も見事だった。
最後に、3人の男性達に言いたい。
「私をご心配してくださってありがとうございます。あと5日間はこの映画が続きますが、
どうぞ気を落とさないでください。6日後にはポルノ映画が上映開始です。どうぞお元気で。」