私は小学校の頃に「必殺シリーズ」に出会い、親が甘い事もあって毎週22時からの放送もずっと観てきた。

小学生ながら映画も観に行き、それが「ブラウン館の怪物たち」という、半分コメディのような作品だったのもよく覚えている。

ところが路線変更で、この「必殺Ⅲ 裏か表か」と次作の「必殺Ⅳ 恨みはらします」は工藤栄一や深作欣二を監督に据え、超シリアスな良質な作品に生まれ変わった。

特にこの「裏か表か」のシリアス度合いは、簡単なピックアップだけでも「中村主水がハニートラップにかかる」「中村主水が切腹を迫られる」「仕事人が2人も殺される」「そのうち1人はなんと組紐屋の竜」「せんとりつに感動させられる」など、とにかく見どころが多すぎる作品。


後ろに見える紫の着物の女性が、中村主水にハニトラを仕掛けた「おゆみ」であり、この後「主水に遊ばれた」という理由で、自殺騒ぎを起こして騒ぎを大きくする演技だったが、実際に塔から突き落とされて絶命する。そして後に、おゆみは「飾り職人の秀」の彼女だった事も判明するという、グッチャグッチャの様相。


上司の「田中様」に向かって「てめえは黙ってろ!」と叫んでしまうほどに怒り、両替屋をしょっ引こうとする主水だが、担当から外されてしまう。奉行所の中にも、そんな大きな影響を持つほど、両替屋の金の力は絶大になっている。

ハニートラップにかかり、奉行に切腹まで迫られる主水だが、「田中様、私はこんな事じゃ死にませんよ」と諦めない。この映画の見どころのひとつだと思うが、近所でも既にハニートラップで娘を死なせた主水噂で持ちきりの中、いつも婿いびりのせんとりつは、「母上、私決めました」「ではやはり離縁?」「いえ、私はあの方の妻でございます。明るく出迎えましょう。」と言って、主水を精一杯明るく励ます。テレビ版では見られない、夫婦愛を見せられ感動した。

当の主水は迷惑そうだが、、、。


最終決戦前に、既に鶴瓶演じる「参」はさらし首にされ、そして先陣を切った組紐屋の竜までもが、両替屋の殺し屋集団に斬られる。後に京本政樹は、この時の竜が生き残ったという設定の写真集を出していて、竜の背中には大きな刀傷があったらしい。確かに、完全に死んだ描写は描かれていない。

とことんまでリアリティを追求した必殺Ⅲは、組紐やかんざしなど、不意打ちで無ければ役に立たない事までリアルに描写し、その結果竜は死ぬ事になり、秀は下手な刀をブンブン振り回して、必死に生き残る無様な姿まで描いている。

工藤栄一得意の、光と闇のコントラストだけでなく、仕事人もただの人間である事や、各々の武器の有利不利までをも現実的に描いていく訳である。

両替屋の悪ボスは、なんとヒロインであり物語途中から両替屋の主人になった、松坂慶子演じる「おこう」が片付けてしまい、主水たちに出番は無くなっていた。それもまたリアル。


そしてこの作品の松坂慶子の美しさは、半端ではない。私はこの映画をDVDで買って、2017年ごろに再び観たが、それ以来しばらくスマホの待受を松坂慶子にしていた程である。

ヒロインの魅力、テレビ版では見られないスペシャル感、全体に流れるリアリティ、主役らしからぬ追い込まれ具合、主要人物の死。どこを切り取っても名場面、捨てるシーンの無い傑作である。