ある夏の日に 並列東京へ4 | ノベルの森/アメブロ

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オリジナル小説、今はSF小説がメインです。今日からは「多次元文章世界」と題して、ノンフィクション(ショート・ショート含む)とエッセイを展開していきますのでどうぞ応援してください。




操舵室で煙草に火を付け、顔を上げたイサム(親友の勇、以後はイ
サムで)との目が丸くなり「唖然」を絵に描い たように大きく口が開い
た。
おまけに煙草は下唇にくっついたままだらしなく垂 れさがっている。
隣に誰かがいたなら、笑い声が操舵室からあふれていたに違いな
い。


「おい!・・・」


飛び出した声が聴き辛く、下唇の違和感で原因を理解した。 煙草を
はがす時「痛てッ!」と一声漏れた。航行中に吹き付ける風は強く、
陸より早く唇を乾燥させる。イサムは操舵室から半身を出したところ
で海へ投げ 捨てた。


「おい!・・・」


いつの間にか「豪進丸」に乗り込んでいた密航者は舳先で脚を投げ
出したま まの格好で白い歯を見せている。イサム の目が再び真ん丸
くなった。大きな口も全開だ。


「よお、船長。邪魔してるぞ」

「なにが邪魔してるだ!この大馬鹿野郎が!」


イサムが声を凄ませた。だが目は笑っている。 勇一の足元近くにど
っかと尻を落とし、あぐらをかく。


「それにしても勇一、お前いったい何時どうやって乗り込んだ?」

「俺にもよくわからんが、それよりお前、舵とらなくていいのか?」

「心配いらん、オートにしてある・・・いいから種明かししろや」


勇一の目が鋭く尖った。

(こいつがこの目をした・・・ただ事じゃねえな)


イサムの視線が一度落ちてまた上がった。


「あとで一杯やりながら聞こうか・・・」


勇一が頷くとイサムの目が覗き込んだ。


「憶えてるか、大岩底の横穴」


勇一の記憶が一瞬で10年前に戻った。大岩の海底で見つけた横穴の
事だ 大物のサザエが数え切れないほど群れて岩に張り付いたそれこ
そ「穴場」 だ。しかし地元の男たちは知っていても近づこうとしない。


何故なら、横穴と言っても磯の岩場の海底と大岩の最下部との間に
ある隙間 のことであり、更にその奥が行き止まりである為、頭から入
れば出るには足 からとなる。穴の中で折り返すことが不可能なほど
狭い。

従って常人並の潜 水技術と息の長さで横穴を攻略するには、大きな
危険が伴う。

横穴の天井に背中がくっ付いてしまえば、浮力が邪魔をする。独力で
抜け出 すのは困難を極めるのだ。


「イサム、お前まさか!・・・」


勇一は、勇の目に不敵な笑いが浮かぶのを見て、親友の襟首をつか
み引き寄 せた。










今日の好きな曲は、 Billy Joel-Stranger です。
Upして頂いた coto.pops music さま、有難うございます♪



    

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