映画館で見そびれた"MINAMATA"をDVDにて鑑賞。なぜ観ようと思ったか。その社会的メッセージ性?ハリウッドのフィルターを通した日本像への好奇心?
 私の場合、ジョニー・デップの演技によって具現化されたユージーン・スミスという写真家の人物造形に触れたかったことが正直言って一番かもしれない。


まず、この作品はエンターテインメントである。したがって事実に改変が加えられており、時に水俣病に関して無知な私でさえ首を傾げざるを得ないような、あからさまな善悪二元論的挿話もある。
 しかしそういったことを棚に上げたとしても、この作品のナラティブはあまりにハリウッド的でありすぎ、この作品が、表面的にせよ、テーマとしているものと「ちぐはぐ」な感は否めないのである。最後の入浴シーンの静謐で気高い美しさも、とってつけたような印象を与えてしまい作品全体と有機的に結びついてはいない。
 坂本龍一が音楽を担当してはいるが、これまた映像としっくりしているとは言いがたい。従来の坂本作品からの剽窃ではないかとさえ感じられるものもあった。健康を害していた坂本はどの程度の真摯さ、情熱を本作に込められたのだろう。
 この40台半ばの若い監督アンドリュー・レヴィタスは自身芸術家で実業家らしいが、独自のアーティスティックなテイストやスタイルを持っているとは私には到底思えない。彼自身のなんらかの思念がこの作品の底流にあると信じることができない。端的に言って、思わせぶりで、軽薄で、陳腐なのである。映画というものがなし得る、内的ドラマの映像的昇華が感じられない。

 この作品のテーマは重い。

そして残念ながら、そのテーマを扱うのに本質的なクオリティが、この作品には欠けているようだ。

 ただジョニー・デップ という俳優の演技には微かながら可能性を感じることができる。彼には彼の演技を活かし切る、よきパートナー、製作者が必要なのではないか。そして作品的にはよき脚本家が。