「布町で降りる!!布町で降りる!!」


甲高い喚き声が車内中に響いている。申し訳なさそうに周囲に目を配る母親。ニコニコ笑う老夫婦。ガチャを回す大学生。眠る外回りサラリーマン。


ジリジリと熱を帯びる真夏の東武高野線でふと違和感。布町に子どもが楽しめる何かあったっけ??


「布町には小さな公園があるんですけどねそこで以前知らないおば様に高いカステラをいただいたんですこの子その味が忘れられなくってあの日から高野線乗るたびに布町で降りるー!!って大泣きするんですよ私職場が糸井町なものですから高野線じゃなく東洋線で糸井町に向かえば良いんでしょうけど東洋線は少し高いじゃないですかだから仕方なく


突然母親が喋り出す。息継ぎもせず抑揚もないのに変に聞き取りやすい。学生が驚いた顔で録画モードに切り替えるのが見えた。


「職場は遠藤さんがずっと牛耳っててホント早く辞めてほしいんですけど遠藤さんは小泉さんと仲良しじゃないですかだからずっと同じ部署でもう25年も勤続してるらしくてお昼ご飯もいつも同じものを食べていて気持ちが悪いわよあの2人はけど社員はみんなあの2人に従うしかなくて


オフィス勤めというのは計り知れないストレスを抱えてしまうものなのかもしれない。今夜は久々に母に電話してみよう。悩みとかあるんだろうか。聞いてあげよう。


「でね家に帰ったらびっくりの一言を旦那に言われたんですなんて言ってきたと思いますはいおばあさん早かった


挙手したおばあさんが指名され立ち上がる


『…ヨーグルト革命??』


「はああああああああ!?!!??」


激怒するお母さん。爆笑する学生。大泣きする私。サラリーマンの首がゴロンと胴を離れて車両連結部分に吸い込まれていった。


網棚の上にたい焼き屋を見つけた。すみませんこしあん1つ。あぁすみません、1匹。