頼む、出てくれ。


目をギュッと、今までの人生で一番強くギュッと瞑って祈る。1コール、2コール、3コール


時間がものすごくゆっくり過ぎる。4コール。5コール。心臓が口から飛び出すのをなんとか抑えながら祈り続けた。


6コール。涙が出てきてしまった。7コール。妻が右手を強く握ってくれている。8コール。9コール。10コール。


ガチャリ、という音。うわ。ぅわ、わ。


同時にものすごく大声が出た。一瞬自分の声だということがわからなかった。


「先程は申し訳ありませんでした!!!!!!!警察に話したわけじゃないんです信じてください電波が混線したみたいで知らない男の声が突然入りまして決してあなた方を裏切ったわけでは


『auお留守番サービスに接続します。メッセージがありましたらピーという発信音の後にお話しください。』








という短い吐息か声か自分でもわからない空気の塊が漏れた後、しおしおと膝から崩れ落ちた。時間切れ。交渉終了。キーンと耳を劈く声量で妻が泣き叫んでいる。


どうしてこんな理不尽が許されるのだろうか。世界一不幸な夫婦を壁時計の名も無いキャラクターが嘲笑う。かわいいね。ミッキーとかプーさんじゃなくて、あの時計でいいの??そうかい。かわいいね。かわいいかわいい


こら、ピーマンも食べなきゃダメだよ。


これ1人で描いたのかい??将来は絵描きさんだなぁ


あれは雪っていうんだよ。暖かくしてママについていきなさい。


おはよう。おやすみ。