「何か困ったことがあったらこの巾着袋を開けなさい。」


12年前。2014年3月。地元無人駅。ホームでのおじいちゃんの嗄れ声が時空を超えて鮮明に脳内再生される。


まだ困ってない、まだ困ってない。ラスボス戦でラストエリクサーを余らせるタイプの僕は彼女に捨てられた時も大学を辞めた時も転職活動中もおじいちゃんが死んだ時も巾着袋を開けなかった。
社会。大ダメージを受けることは少なく、日々。


ジリジリ気付かないうちに毒の沼地にハマって歩いて歩いて歩いてHPが0になっても怖いくらい気付かなかった。突然だった。先日上司にボカリと殴られもうダメだと労基に泣きついたらボカリと殴られもうダメだと突然だった。遂にHPは赤字表示から真っ黒何も表示されなくなってしまった。怖いくらい気付かなかった。セーブ機能。ロード機能。セーブ。ロード。セーブ。ロード。誰も僕の日本語を理解できなかった。身体が、動かなく、なった。


巾着袋を開けた。『ガンバレ!津島家の星!』達筆な文字の入ったお守りと一万円札。ふふ。大きな声でありがとうございましたと叫び足元の台を強く蹴り飛ばした。ありがとうございました!