原っぱに大きなドラム缶が転がってる。僕がこの町に引っ越してきてからずっとだ。中は空洞。穴が3箇所。


最近そのドラム缶に猫の親子が住み始めた。近所の小学生達が給食のパンを持ってくる。コッペパン、レーズンパン、バターロール、メロンパン。色んなパンを出すなあ今の文部科学省は。発育が良いわけだ。


猫の子どもがニャアと返事をする。アイドルの出来上がり。ひとしきり騒いだ後「じゃーねニャン吉!!!」と手を振り駆け出す。たくさん名前があるね君は。昨日は別の子たちに「みーちゃん」と呼ばれていた。


錆びている。


いつからあるんだろうこのドラム缶は。


元々誰がなんの目的でここに転がしたんだろう。


たくさん煙突が立ち並ぶこの町はもうすぐ隣町と合併する。工業地帯マニアの間では惜しまれつつなんだそうだ。なんだそのコミュニティ。潮風が気持ちいい。饅頭の一つでも出したらいいのに。ギターをかき鳴らしながらそんなことを考えていた。


夕方は曲を思いつきやすい。


夜。家路を歩いているとドラム缶の周りに10人ほど子どもたちが集まっていた。危ない町じゃないが子どもが出歩く時間じゃない。なんだなんだ。何やらざわざわしている。泣いてる女子もいるじゃないか。


「ノラちゃんとノラちゃんのお母さんがいなくなっちゃったんです。」


1人の女子が教えてくれた。敬語をちゃんと使っている辺り学級長だろうか。どうしようと考え込む子、お前のせいだ!と責め立てる子、泣く子、初めての夜更かしでアドレナリンが出てるんだろうか反応がそれぞれで見てて楽しいと思ってしまった。良くない大人だ。一人の少年が僕に言った



「お兄ちゃん…張り紙作ってよ…」



ううう、
うるうるした瞳に負けてしまった。

よし。作ってやろうじゃないか。とびきり目立つ色で、町中の人がノラちゃんを探したくなるようなチラシを。だから解散してそれぞれお家に帰りなさい。良い大人の仲間入りだ。子どもたちの黄色い歓声を受けその日のうちに取りかかった。夕方浮かんだメロディーはもう忘れてしまった。


疲れていたのか朦朧としながら紙と色ペンと格闘する。専門学生時代こういうの得意だったんだけどな。絵って描かなくなると描けなくなる。


見つけた方はこちらまでご連絡お願い致します、080-9


まで描いて寝てしまった。いや、記憶は無いが最後まで描ききったのかもしれない。起きたら張り紙ができていた。




























恐怖を覚えた。誰だこいつらは。


しかも


調べたら阿佐ヶ谷ロフトAというスタジオも、TEAM近藤という男も、サツマカワRPGという男も実在するらしい。どうなってやがる。





















次の日原っぱに行ったらドラム缶も子どもたちも原っぱも何も無かった。真っ白な空間に猫の親子がいた。はっきりと人間の言葉で「来てね!!!!!」と言った。