日産自動車が誇る品質バラツキ抑制手法! QVCプロセスの研究<第11話> | 品質安定化設計ラボラトリー日記

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かつて開発業務で活用した「品質不良を開発・設計段階で未然に解決する」タグチメソッド(品質工学)を多くのものづくりエンジニアの皆さんに知っていただきたいと思い、そのために自分自身も学び直しながらブログでご紹介してゆきます。

第2章

品質ばらつき抑制による

不具合/不満の改善

 

1.品質ばらつき抑制

 4つの取り組み

 前回は、

「ばらつきによる品質問題の4要因」に対し、

それらの改善方策として明確化した上で、

QVCプロセスに組み込まれた

「品質ばらつき抑制4つの取り組み」を

ご紹介いたしました。

 

 

 具体的な4つの取り組みとは、

以下のようなものです。

 

(1)お客様のばらつきを考慮した

  品質目標(開発目標)の設定

(2)品質ばらつき抑制設計手法の導入

(3)開発/生産連携プロセスと

  ばらつき管理基準の導入

(4)工程内計測技術の開発

 

 これらの詳細を順次見てゆきます。

 

(1)お客様のばらつきを

  考慮した品質目標

  (開発目標)の設定

 お客様の操作に関わる機能・性能に

対する期待値は、お客様の体格、嗜好、

運転経験などによりばらつきがあります。

 

  

 

 上図のような狩野モデルの

一元的品質要素や当り前品質要素に

該当する車両性能や現象については、

お客様の期待値ばらつきを把握することが

品質ばらつき抑制に重要な役割を

果たします。

 

 まずは、狩野モデルにおける3種類の

品質要素の棲み分けが必要になります。

 

①各品質要素の目標設定の

 分担

 魅力的品質要素は

「新製品の他社製品に対する競争力」

として、商品企画部署が設定します。

 

 一方、

一元的品質要素の下限や

当り前品質要素の目標は、

必ず達成すべき「共通」の品質目標として

設定する必要がありますが、それでは

何処の部署が設定するのか?

 

 多くの自動車メーカーでは、

設計部門とは別に組織される

実験部門で、

製品がお客様の期待を満たしているか、

設計の意図通りにできているかを

評価すると共に、上述の必ず達成すべき

「共通」の品質目標を設定するのです。

 

②実験部署での品質目標の

 設定と設計への伝達

 実験部署では、お客様の満足度を

官能評価、即ち人間の五感による評価を

実施すると共に、計測可能な代用特性に

落とし込み、その目標を設定し、

設計部門に伝えます。

 

 そうは言っても、

数値に表しにくい官能評価の結果と

物理量の数値になっている代用特性では、

そのまま両者の相関を把握することが

できません。

 

 そこで、

お客様の満足度を定量化(数値化)する

ために、官能評価で5段階又は10段階の

評点付けを行ったのです。

 

 これは品質工学でもしばしば

用いられる手法で、定量的に計測できない

特性には「ランク付け」という手段で強引に

定量化(数値化)してしまおうというものです。

 

 品質目標の設定は、下図のような概念で

行われます。

 

 

 横軸は代用特性で定量化されている

性能又は機能を表します。

 

 縦軸は官能評価の結果に評点付けを

施して定量化したお客様の満足度を

表します。

 

 お客様の満足度の目標を、

横の赤い破線で表した値以上に設定したと

します。

 

 水色で表された領域は、

性能/機能とお客様の満足度の関係の

ばらつき範囲を示しております。 

 

 横の赤い破線と水色の領域が交わる

範囲は、お客様の満足度目標において

性能/機能に対する

お客様の期待値ばらつき範囲を表します。

 

 従いまして、

お客様の満足度の目標を満たすためには、

性能/機能のばらつき範囲が

お客様の期待値ばらつき範囲を

上回る必要があります。

 

 言い換えれば、

性能/機能のばらつき範囲の下限が

お客様の期待値ばらつき範囲の上限

(縦の赤い破線で表した値)を

上回らなければならないということになります。

 

 このようにして実験部門では、

官能評価と代用特性評価の相関から、

一元的品質要素や当り前品質要素の

品質開発目標を設定し、

設計部門に伝達するのです。

 

③特性の種類による

 評価方法の違い

 一元的品質要素や当り前品質要素でも、

種類によってさらに実際の評価方法が

違ってきます。

 

<事例1>

 操縦安定性、振動騒音、乗り心地など

車両の走行性能は、車内で訓練/育成した

評価者によりテストコースで評価されます。

 これは、評価試験の再現性と安全のための

配慮です。

 

<事例2>

 米国のフリーウェイ走行時の

片流れの起きにくさに対する期待値は、

現地のお客様の車両に同乗して

運転の仕方を観察し、

期待値の聴き取り調査により、

「適切な代用特性」と

多くのお客様の満足の上限を求めました。

 

<事例3>

 サイドドアの閉まり易さ、

スライドドアの開け易さなど

お客様の操作に関わる満足度は、

体格、性別、年齢、車両の使用経験が異なる

社内ユーザー又は一般ユーザーに評価して

もらい、その結果のばらつきを把握しました。

 加えて、モーションアナライザーを用い、

操作時の動作の計測により

体格や年齢等による違いを分析しました。

 

 以上

「お客様のばらつきを考慮した品質目標の設定」

の取り組みは、「目標設定フェーズ」として

QVCプロセスに組み込まれたのです。

 

④私感

 自分が某家電メーカーで

品質工学の普及活動に参画していたときは、

「お客様の声を開発目標に反映させる」という

意識はありましたが、その定義は決して

明確ではありませんでした。

 

 日産自動車のように各品質要素をこれほど

緻密に分別し、各々に適した評価/分析の

仕方を使い分け、お客様の期待値と

品質要素の相関を現実的に把握している

ことには感服するばかりです!

 

 

 本日はここまでとします。

 

 ご精読いただき、ありがとうございます。

 

 次回は、

(2)品質ばらつき抑制設計手法の導入を

見てゆきます。

 

 ご期待ください。

 

<参考文献>

 大島 恵・奈良敢也/共著

 「日産自動車における品質ばらつき抑制手法

 QVCプロセス」

 日科技連

 

 

 

 エンディングに、この曲をお楽しみください。

 「西部警察Ⅱ・Ⅲ」サウンドトラックより、

マシンRS-1、RS-2、RS-3の3台がチームを

組んだ「RS軍団」のテーマ曲

 

「スカイラインフォーメーション」

 演奏:高橋達也&東京ユニオン

 

 

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